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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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125/322

125話:止められない

ベルセリア王国。


冬。


しかし。


もう“死の冬”ではなかった。


市場には人がいる。


工房には灯がある。


学校には声がある。


そして。


街道には列が出来ていた。


長い。


果てが見えないほど。


荷車。


徒歩。


親子。


老人。


元兵士。


職人。


痩せた民衆。


彼らは皆、同じ方向へ進んでいた。


ベルセリアへ。


帝国南部国境。


監視塔。


兵士が呆然としていた。


「……またか」


隣の兵士が頷く。


「昨日の三倍だ」


街道を人が歩く。


止まらない。


寒さも関係ない。


雪も関係ない。


彼らは知ってしまった。


ベルセリアでは食える。


学べる。


病を治せる。


子供が死なない。


だから人が来る。


帝国側役人が怒鳴る。


「止めろ!」


「移住許可が必要だ!」


しかし。


民衆は止まらない。


以前なら従った。


今は違う。


彼らは知っている。


別の生き方を。


別の国家を。


一人の農民が言った。


「俺たちは死にたくねぇんだ」


その声に。


誰も反論できなかった。


その頃。


ベルセリア王都。


行政庁舎。


大量の書類。


人口増加報告。


移民登録。


農地配分。


学校建設申請。


全部が急増していた。


行政スキル覚醒者たちが猛烈な速度で処理を進める。


「北区住民登録完了!」


「南農地割り当て!」


「識字学校第五校、建設開始!」


以前なら崩壊していた。


しかし今は違う。


教育された行政官がいる。


計算できる。


文字を読める。


管理できる。


さらに。


鑑定スキル持ちまで現れ始めていた。


偽装。


横流し。


賄賂。


全部見抜かれる。


行政速度が異常に上がっていた。


王城。


フィリア王女は報告を見ていた。


静かに。


長く。


「……止まりませんね」


隣にはベルセリア女王。


さらに側近。


行政教師。


識字教師。


王女は資料を置く。


・移民増加

・帝国人口流出

・北方定住率増加

・学校希望者増加

・工房雇用増加


全部、右肩上がり。


ベルセリア史上存在しない数字だった。


女王が静かに言う。


「恐れている国も増えているわ」


「“平民が学ぶ国”を」


フィリアは理解していた。


これは単なる支援ではない。


文明の転換。


旧秩序は。


民を“従う存在”として管理していた。


しかし今。


教育が広がる。


すると。


人が考え始める。


比較し始める。


そして。


動き始める。


人口流出は止められない。


理由は単純。


“生きられる側”へ人が流れるから。


その頃。


帝国。


貴族会議。


空気は最悪だった。


「また流出だ!」


「南部農地が空になっている!」


「職人まで逃げているぞ!」


怒号。


混乱。


しかし。


止める方法がない。


重税をかければ逃げる。


締め付ければ逃げる。


処刑すれば、さらに逃げる。


なぜなら。


比較対象が存在してしまったから。


ベルセリア。


グロマール圏。


教育国家。


それを民が知ってしまった。


一人の老貴族が震えながら言う。


「……何故だ」


「何故、平民どもが」


若い官僚が答える。


「学んだからです」


空気が凍る。


官僚は続けた。


「文字を覚え」


「計算を覚え」


「考えるようになった」


「だから、自分で選び始めたんです」


その言葉に。


誰も反論できない。


なぜなら。


事実だから。


ベルセリア王都。


学校区域。


今日も人が並ぶ。


移民。


平民。


元奴隷。


農民。


兵士。


全員、学びたがっている。


その光景を。


フィリア王女は静かに見ていた。


そこへ。


一人の少女が転ぶ。


荷物を抱えたまま。


痩せている。


しかし。


必死に立ち上がる。


「学校……行かなきゃ……」


教師が駆け寄る。


「大丈夫か?」


少女は頷く。


「読みたいんです」


「文字を……」


その言葉を聞いた瞬間。


フィリアの胸が痛んだ。


昔の自分は。


学ぶことを“当然”だと思っていた。


違った。


それは特権だった。


この世界では。


その夜。


王城最上階。


静かな部屋。


雪が降っている。


フィリアが呼ばれていた。


部屋には女王だけ。


母であるベルセリア女王。


暖炉の火が揺れる。


しばらく沈黙。


やがて。


女王が口を開く。


「フィリア」


「はい」


「あなた、変わったわね」


王女は静かに目を伏せる。


以前の自分を思い出す。


弱かった。


知らなかった。


民を見ていなかった。


しかし今は違う。


病人街を見た。


飢餓を見た。


学校を見た。


治癒院を見た。


そして。


学ぶ民を見た。


女王が静かに言う。


「……あなた、覚醒したでしょう」


フィリアが息を呑む。


隠していた。


しかし。


母には分かっていた。


王女はゆっくり頷く。


「はい」


「“女王”スキルに」


部屋が静まり返る。


女王は目を閉じる。


そして。


少しだけ笑った。


悲しそうに。


誇らしそうに。


「やはり、そうだったのね」


女王スキル。


国家統治系最高位。


王ではない。


支配者でもない。


“民を導く者”。


その適性。


しかし。


条件がある。


民を理解すること。


痛みを見ること。


責任を背負うこと。


つまり。


教育されなければ覚醒しない。


だから歴代王族は失っていた。


フィリアは震える。


「……私に」


「出来るのでしょうか」


女王は静かに近づく。


娘の頭に手を置く。


「昔のあなたなら無理だった」


「でも、今のあなたなら出来る」


暖炉の火が揺れる。


女王は続けた。


「私はね」


「安心したの」


「あなたが民を見るようになって」


「学校へ行き」


「病人街へ行き」


「自分の目で見た」


「それが一番大切だから」


フィリアの目に涙が滲む。


女王は静かに告げる。


「……譲位を考えています」


空気が止まる。


フィリアが顔を上げる。


「お母様……?」


女王は穏やかだった。


「この国は、変わる」


「もう昔のベルセリアではない」


「なら、次の時代の王が必要」


「それは、あなたよ」


フィリアは震えていた。


怖い。


責任が重い。


しかし。


逃げたいとは思わなかった。


昔と違う。


彼女は知ってしまった。


王とは。


命令する存在ではない。


民を生かす責任を負う者。


その意味を。


教育が。


環境が。


彼女自身を変えていた。


窓の外。


雪の中。


学校の灯が並ぶ。


工房の煙。


市場の声。


笑う子供。


歩く民。


全部。


以前のベルセリアには無かった。


フィリアは静かに涙を拭く。


そして。


小さく頷いた。


「……学びます」


「もっと」


その言葉に。


女王は静かに微笑んだ。


環境が人を育てる。


その言葉は今。


ベルセリア王家すら変え始めていた。






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