表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/322

111話:最初の収穫

ベルセリア王国の冬は厳しい。


空は灰色。


吹雪は止まず、外へ出るだけで命を削られる。


北方国家。


それがベルセリアだった。


しかし。


今年は違った。


雪の下。


凍土の中。


小さな変化が起きていた。


「……芽が出てる」


農民の少年が震える声で呟いた。


白い畑。


その一角。


雪を押し上げるように、小さな緑が顔を出していた。


発芽。


ベルセリアでは数年ぶりだった。


老人が膝をつく。


信じられないという顔で土を触る。


「生きてる……」


「畑が、生きてる……!」


周囲の農民たちが集まってくる。


誰もが目を見開いていた。


死んだ土地だった。


何を植えても腐った。


育たなかった。


冬に負けた。


飢えに負けた。


なのに。


芽が出ている。


ピーターは静かにその光景を見ていた。


隣にはベルセリア女王エルザ。


そして王女フィリア。


二人とも言葉を失っていた。


フィリア王女が小さく呟く。


「本当に……育つんだ……」


ピーターは微笑んだ。


「はい」


「土は死んでませんでした」


「止まっていただけです」


その言葉に、女王エルザが目を伏せる。


止まっていた。


土も。


人も。


国も。


全部。


ピーターは畑へ降りる。


雪を払う。


土を触る。


以前とは違う。


柔らかい。


湿っている。


魔力が循環している。


ピーターは静かに頷いた。


成功している。


魔力循環農法。


グロマールが作り上げた技術。


魔力を土へ流し、循環を補助する。


生命活動を支える。


作物を無理やり育てるのではない。


土を生かす。


循環を戻す。


それが本質だった。


ダンが感心したように言う。


「ここまで変わるか」


リシェルも驚いていた。


「土壌反応が安定してます」


「凍結抵抗も上がってる」


ベルセリア農民たちは理解できていない。


でも。


変わったことだけは分かる。


畑が生きている。


それだけで十分だった。


ピーターは振り返る。


「皆さん」


農民たちが集まる。


痩せた顔。


疲れた目。


でも。


今は少しだけ光があった。


ピーターは静かに言った。


「次は皆さん自身です」


老人が首を傾げる。


「わしら……?」


「はい」


「皆さんも変われます」


その言葉に、農民たちがざわついた。


ピーターは続ける。


「ベルセリアが寒いのは変わりません」


「でも、寒さに耐える方法はあります」


フィリア王女が驚く。


「そんな方法が?」


ピーターは頷く。


「魔力です」


農民たちが困惑する。


「魔力なんて、貴族の力だ」


「俺たちは使えない」


「才能が無い」


その言葉に、ピーターは静かに首を振った。


「違います」


「教育が無かっただけです」


その場が静まり返る。


ピーターは手を前へ出した。


薄い魔力。


淡い光。


それをゆっくり体へ纏う。


「こうです」


すると。


雪が触れても溶けない。


冷気が届かない。


フィリア王女が目を見開いた。


「寒く……ないの?」


ピーターは頷く。


「魔力を薄く纏うだけで体温保持ができます」


「グロマール先生に教わりました」


農民たちが唖然としていた。


そんな使い方を知らない。


誰も教えなかった。


ピーターは続ける。


「まず魔力操作です」


「次に魔力循環」


「そして魔力吸収」


女王エルザが眉を寄せた。


「魔力吸収……?」


「はい」


「周囲の魔力を取り込む技術です」


「呼吸みたいなものです」


農民たちは完全に混乱していた。


魔力は特別なもの。


才能ある者だけ。


それが常識だった。


ピーターは静かに息を吸う。


周囲の魔力が集まる。


体内を巡る。


循環。


そして放出。


自然。


滑らか。


無理がない。


ピーターは言った。


「特別な才能じゃありません」


「皆さんもできます」


老人が震える声で言った。


「……本当に?」


「はい」


「人は、本来魔力を持っています」


「ただ扱い方を知らないだけです」


その瞬間だった。


フィリア王女が前へ出た。


「……私も」


「教えてください」


女王が驚く。


「フィリア?」


王女は真っ直ぐピーターを見る。


「この国を変えたい」


「だから覚えたい」


その瞳には覚悟があった。


ピーターは優しく頷く。


「分かりました」


雪の畑。


王女が座る。


農民たちも座る。


身分差を超えて。


全員が輪になる。


ピーターは静かに語り始めた。


「まず、呼吸です」


「力む必要はありません」


「感じてください」


「空気の流れ」


「体の熱」


「血の動き」


農民たちは戸惑いながら目を閉じる。


フィリア王女も集中する。


ピーターは一人一人を見る。


焦らない。


急がない。


教える。


それが大事だった。


しばらくして。


少女が声を上げた。


「あ……」


指先。


淡い光。


小さな魔力。


農民たちが驚く。


少女自身も震えていた。


「で、できた……」


ピーターは笑う。


「はい」


「それが魔力です」


その瞬間。


空気が変わった。


諦めの国だった。


でも今。


人々は初めて知った。


自分にもできる。


自分にも力がある。


老人が泣いていた。


「……なんで」


「今まで誰も教えてくれなかったんだ……」


ピーターは静かに答える。


「教育が無かったからです」


「だから今、始めるんです」


雪が降る。


寒い。


それでも。


誰も震えていなかった。


魔力を薄く纏う。


それだけで違う。


農民たちは驚いていた。


「本当に寒くない……」


「身体が軽い……!」


「動ける……!」


ピーターは畑を見る。


発芽した芋。


小さな命。


そして。


変わり始めた人々。


グロマールは言っていた。


環境が人を育てる。


本当にその通りだった。


教育がある。


食事がある。


希望がある。


それだけで人は変わる。


ベルセリアはまだ貧しい。


まだ飢えている。


問題も山積みだ。


でも。


もう止まらない。


土は生き返った。


人も動き始めた。


フィリア王女は雪空を見上げる。


白い息を吐きながら、小さく笑った。


「……暖かい」


その言葉を聞いて。


女王エルザは静かに涙を流した。


長い冬だった。


本当に長かった。


それでも今。


ベルセリアに、確かな春の兆しが生まれ始めていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ