81話 冒険者ギルド12
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「よかったね、エド!」
弾むような声だった。
アニタはぱっと表情を明るくすると、自分のことのように嬉しそうな笑みを浮かべる。
その笑顔につられるように、エドも肩の力を抜いた。
「ありがとう。」
少し照れくさそうに笑いながら、手の中にある白い認識票へ視線を落とす。
掌へ収まるほどの小さな金属板。
決して大きくも、豪華でもない。
それでも、不思議なほど存在感があった。
ひんやりとした金属の感触が、握りしめた指先からじんわりと伝わってくる。
魔法が使えない。
魔力すら感じられない。
この世界では、それだけで致命的な欠点になる。
それでも諦めきれなかった。
努力の、その積み重ねが、ようやく一つの形になった。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
認識票を見つめながら、エドは自然と口元を緩めていた。
そんな二人の様子を眺めていたアイリーンが、ふっと笑う。
「まさか本当にギルド長自ら試験するなんて思わなかったよ。」
呆れたように肩を竦めながら、小さく息を吐いた。
「あの人、普段は滅多に自分で動かないからね。」
思い返すように苦笑する。
「子供の登録希望を門前払いするのは本来受付の仕事だ。」
そう言ってエドへ視線を向ける。
「だから最初に駄目だって言われた時は、正直どうしようかと思ったよ。」
エドも思わず苦笑した。
「あれは、ちょっと心臓に悪かったです。」
「だろ?私まで冷や汗かいたくらいだから。」
その言葉に、受付の内側にいたエマも小さく笑みを浮かべた。
「私も、本当に驚きました。」
両手を胸の前で重ねるようにしながら、ほっと息を吐く。
「ギルド長が自ら試験を行うなんて、本当に珍しいことなんです。」
そう言って少しだけ視線を上へ向ける。
過去を思い返すように目を細めた。
「私が受付として働き始めてから、一度も見たことがありません。」
少し考え込むように首を傾げる。
「......いえ。」
小さく笑って訂正した。
「たぶん、初めてです。」
その言葉にアイリーンは頷いた。
「だから言ったろ。」
腕を組み、親指でエドを示す。
「普通の子じゃないって。」
そこか誇らしげな笑みだった。
まるで、自分が見込んだ後輩を自慢するような口ぶり。
エドはその視線を受けて、少しだけ照れたように頭をかく。
「そんな大したものじゃないですよ。」
「いやいや。」
アイリーンは首を横に振る。
「ホニャさんが自分で試験すると決めた時点で、もう十分特別なんだ。」
そう言って笑う。
「しかも登録まで認めさせた。胸を張りな。」
満足そうに頷きながら、軽くエドの肩を叩いた。
エドはその一言に、もう一度手の中の認識票へ目を落とす。
白い認識票は、朝の光を受けて静かに輝いていた。
小さな金属板は、思っていたよりも重く感じられた。
「ところで、エドさん?」
穏やかだったエマの表情が、ふっと引き締まる。
先ほどまでの柔らかな笑みはそのままだったが、その瞳だけはどこか真剣だった。
エドは思わず顔を上げる。
「はい?」
エマは両手を腰へ当てた。
受付嬢というより、これから失敗しそうな新人を諭す先輩のような立ち姿だった。
「あなた、もしかして――」
一拍置く。
「アイリーンさんがシルバーランクだと聞いて、『自分もすぐにシルバーランクくらいにはなれる』なんて思っていませんか?」
「えっ」
あまりにも不意な問いだった。
エドは目を瞬かせる。思わず息が詰まる。
図星、とまではいかない。
だが、まったく心当たりがないと言えばうそになる。
今回の旅では、アイリーンと肩を並べて戦った。
ゴブリンとの闘い。
洞窟での戦闘。
互いの動きを間近で見てきた。
もちろん、経験では敵わない。
弓の腕も、状況判断も、一流の冒険者だと素直に思う。
それでも純粋な戦闘能力だけで見れば、互角化、あるいは少しだけアイリーンの方が上か。
そんな印象を抱いていたのも事実だった。
だからこそ、シルバーランクと聞いたとき。
自分も努力を続ければ、それほど遠くない将来に届くのではないか――。
そんな考えが、ほんの一瞬だけ頭をよぎっていた。
エドは少し困ったように頬をかき、小さく苦笑する。
「......少しだけ、思いました。」
正直に答えると、エマは「ああ、やっぱり」というように小さくため息をついた。
「いいですか。」
エマは改めて姿勢を正し、人差し指を一本立てた。
「冒険者のランクは、単純に戦闘能力だけを測るものではありません。」
「はい。」
エドも真面目な表情で頷く。
「ランクは、冒険者ギルドへの貢献度、立ち振る舞い、依頼達成数、そして他の冒険者へ与える影響など、
様々な要素を総合的に判断したうえで決定されます。」
一つひとつ確認するように言葉を重ねる。
「もちろん戦闘能力も重要です。しかし、それだけで昇格できるほど単純な制度ではないんです。」
エドは静かに耳を傾ける。
エマはちらりとアイリーンへ視線を向けた。
「確かに、戦闘能力だけを見れば、エドさんの想像ほど差を感じなかったのかもしれません。」
その言葉にエドは少しだけ苦笑する。
心を読まれたような気分だった。
「ですが。」
エマは言葉を続ける。
「アイアンランクの中には、純粋な戦闘能力だけで言えば、アイリーンさんを上回る方も決して珍しくありません。」
エドは少し驚いたように目を瞬かせた。
「えっ、そうなんですか、」
「はい。」
エマは迷いなく頷く。
「それでもアイリーンさんがシルバーランクである理由は、戦う強さとは別のところにあります。」
アイリーンは照れくさそうに頭をかいた。
「そんな大したことじゃないよ。」
「いいえ。」
エマは即座に首を横へ振る。
「まず、斥候としての能力が非常に優秀です。」
「危険の察知、索敵、追跡、撤退判断。そのどれを取っても高い水準にあります。」
「さらに今回のように、事件の詳細をギルドへ正確に報告し、有益な情報を提供してくださいます。」
帳簿へ視線を落としながら続ける。
「他の冒険者が敬遠しがちな依頼でも、必要と判断すれば積極的に引き受けてくださいますし、
若い冒険者への助言や指導も惜しみません。」
「その積み重ねによって、多くの冒険者が命を落とさずに済んできました。」
エマは穏やかな笑みを浮かべた。
「アイリーンさんは、長年にわたりギルドと活動地域へ多大な貢献を続けてくださっているんです。」
その声には、受付嬢としてではない、一人の職員としての敬意が滲んでいた。
「ですから、シルバーランクという評価は、決して戦闘能力だけで得られたものではありません。」
そして少し悪戯っぽく笑う。
「なんなら、ギルド長よりギルドへ貢献していると言っても過言ではありません。」
「それはさすがに過言だよ。」
アイリーンは苦笑しながら肩を竦める。
エマも一度咳払いすると、改めてエドの目を見る。
「とにかく。
シルバーランクとは、簡単になれるものではありません。」
その声は優しくも、どこか教師のように諭す響きを帯びていた。
「力を磨くことも大切です。でも、それだけでは足りません。」
「依頼人から信頼され、仲間から頼られ、地域へ貢献し続けること。
それらを積み重ねて初めて、上のランクへ進むことができるのです。」
エマは柔らかく微笑む。
「ですから、まずはアイリーンさんのような、模範となる冒険者を目指してくださいね。」
エドはもう一度アイリーンへ視線を向けた。
ただ強いだけではない。
だからこそ、多くの人から信頼されている。
その意味が、少しだけ分かった気がした。
「はい!」
エドは力強く頷いた。
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急にめちゃくちゃ忙しくなっちゃったので投稿ペースおちちゃいます
すまんの




