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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

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79話 冒険者ギルド10

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武器を失ったエドは止まらなかった。

間髪入れずに踏み込む。

拳、掌底、肘、蹴り、時には組み付きまで狙う。


考え得る限りの手を次々と繰り出した。

だが、当たらない。

ホニャはそれらをひたすら躱し続ける。


半歩ずれる。

身体を捻る。

重心を移す。


それだけだった。

木剣を振ることすらない。

まるで大人が子供の鬼ごっこに付き合っているかのような余裕だった。


それでもエドは攻め続けた。

躱されたら次。

次が駄目ならその次。


延々と、ただひたすらに。


攻防は長く続いた。

最初こそ観客たちはエドの動きに驚いていた。


十二歳の子供とは思えない身体能力。

思い切りの良さ。

迷いのない判断。


だが、それも十分、二十分と続けば驚きは薄れる。

次第に人が散っていく。


仕事へ戻る職員。

酒場へ戻る冒険者。

残ったのは一部のもの好きだけだった。


それでも、エドは動き続けていた。

額には汗が浮いている。だが呼吸は乱れていない。

動きも鈍らない。


「なるほど。」


不意にホニャが口を開いた。

今までと変わらぬ余裕のまま。


「異常だ。」


その言葉と同時に、エドも動きを止めた。

土を踏みしめたまま向き合う。


「分かってもらえたでしょうか。」


エドが言う。

ホニャは苦笑した。


「ああ、十分すぎるほどな。」

木剣を肩へ担ぐ。


「まったく。」

呆れたように頭を振った。


「どんな鍛え方をしたらこうなるんだ。」

そして改めてエドを見る。


「技術も高い、力も上々、素早さだって申し分ない。」

一つずつ挙げていく。


「なにより。」

そこで言葉を切った。


「息も切らさず、これだけの時間攻め続ける体力は異常だ。」

周囲に残っていた冒険者たちも頷いている。


普通ならとっくに動けなくなっている。

それほどの時間だった。

「しかも攻撃の精度も威力も落ちていない。」


ホニャは呆れたように笑った。

「化け物みたいな子供だな。」


ホニャは木剣を肩へ担いだまま、小さく息を吐く。

「まさか、ここまで動けるとは思わなかった。」


視線がまっすぐエドへ向けられる。

「躱されても迷わない。崩されても止まらない。攻撃が通じなくても、すぐに次の手を打つ。」


一拍置く。

「そして、それを長時間続けることができる。」


ホニャは苦笑した。

「体力だけじゃない。心も折れないか。」


エドは黙ってその言葉を聞いていた。

「だが。」


ホニャの表情が少しだけ引き締まる。

「魔法が使えず、魔力も感じられないというのは、索敵において致命的だ。」


エドは静かに頷く。

「はい。」

「とはいえ。」


ホニャは続けた。

「観察力である程度補える。」


「君、今いくつだ?」

「十二です。」

「十二、か。」


ホニャは感心したように息を漏らした。

「よくその年で、ここまで鍛え上げたものだ。」


少し首を傾げる。

「師はいるのか?」


エドは少しだけ迷ったが、隠すことでもない。

「リョーフです。」

その名を口にする。


「リョーフ・ユブラダタス。もう別れて久しいですが。」

その瞬間だった。


「......リョーフと言ったか?」

ホニャの目が大きく見開かれる。

エドも少し驚く。


「えっ?あ、はい。知り合いなんですか?」

ホニャはしばらく黙っていた。

やがて、ふっと笑う。


「知り合い、どころじゃない。」

どこか懐かしむような笑みだった。


「俺がギルド長をやっているのも、あいつがきっかけなんだ。」

エドは思わず目を丸くする。

そんな関係だったとは思いもしなかった。


「まあ、詳しい話は長くなる。」

ホニャは肩を竦めた。


「奴には恩がある。」

そう言って改めてエドを見る。

先ほどまでとは違う。


戦いの最中から抱いていた違和感が、一つに繋がったような目だった。

「そうか。」

小さく頷く。


「良く動けていると思ったが、奴の弟子か。」


「ああいや、弟子というほどではありません。」

「村へ滞在していた短い間に、アニタと一緒に鍛えていただいただけです。」


「そういうことか。」

ホニャはゆっくり頷いた。


「なら、なおさら納得だ。」

そして振り返る。


「エマ。」

「はい!」

エマが背筋を伸ばす。


「この子を登録してやってくれ。」

「はい!」


ホニャはもう一度エドを見る。

「少なくとも、新人冒険者として十分やっていける。」


口元に笑みを浮かべた。

「簡単には死なんさ。」


その言葉を聞いた瞬間だった。

「やったね、エド!」


アニタが嬉しそうに声を上げる。

まるで自分のことのような笑顔だった。

エドもようやく肩の力を抜き、小さく笑う。


「ありがとうございます。」

そう言って、深く頭を下げた。


「では、色々と説明や手続きがありますので、受付の方へ戻りましょうか。」

エマが笑顔でエドへ声を掛けた。


「はい。」

エドも自然と笑みを返す。


その様子を見て、アニタも嬉しそうに微笑んだ。

ホニャはそんな三人を横目に、小さく口元を緩める。


「さあ、行こうか。」


一同は訓練場を後にし、冒険者ギルドの中へ戻っていった。

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