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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

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77話 冒険者ギルド8

778!

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「駄目だ。」

ホニャは即座に言った。

あまりにも迷いのない声音だった。


その一言に、エドだけではない。

アイリーンも、受付のエマまでもが固まる。


ホニャは腕を組んだまま続けた。

「そこの嬢ちゃんならともかく。」


視線がアニタへ向く。

「この少年は駄目だ。すぐ死ぬ。」


断言だった。

その場の空気が重くなる。

「ギルドへ登録させるわけにはいかない。」


エドは思わず言葉を失った。

念願だった。


村を出て、王都への旅に同行し、ギルドへ足を踏み入れ、

あと少しで冒険者になれると思っていた。


それを真正面から否定された。


「ですが――」

エマが口を開きかける。

しかし、ホニャは即座に遮った。


「駄目だ。この少年にギルドの仕事は耐えられん。」

低く落ち着いた声だが、その言葉に容赦はない。


「簡単な雑事くらいなら出来るかもしれん。」

一拍置く。


「だが、それしか出来ない人員は必要ない。」

静かに言い切った。

そして視線をアイリーンへ向ける。


「アイリーン。」

「......。」

「お前らしくないな。」


その声にアイリーンの眉がぴくりと動いた。

「この少年を見て、本気で冒険者としてやっていけると思ったのか?」


明らかな疑問。

責めるというより、理解できないという口調だった。


「ホニャさん。」

いつもより声が低い。


「そんなことは承知の上ですよ。」

「ほう。」

ホニャが肩眉を上げる。


「曇ったな。」

「なに!?」

アイリーンが一歩踏み出しかける。


だが、その前に。

「少年。」

ホニャの視線がエドへ向いた。


「はい。」

エドは落ち着いて返事をした。


内心は穏やかではない。

だが、感情的になったところで何も変わらない。


ホニャは数秒だけエドを見つめた。

その様子を観察するように。

そして口を開く。


「君の得意な魔法は何だ?」


エドは少しだけ考えた。

だが答えは決まっている。

隠す理由もない。


「僕は魔法が使えません。」

ホニャの眉がわずかに動く。


エドは続けた。

「それどころか、魔力を感じることもできません。」


沈黙。

エマが目を瞬かせた。

アイリーンも黙っている。


「......何?」

その表情に驚きが浮かんだ。


「魔力を感じられないだと?」

眉間に深い皺が刻まれる。


先ほどまでの断定的な態度とは違う。

まるで理解できないものを見たかのような顔だった。


「先天的なものではありません。」

エドは静かに答えた。


「ですが、今は魔力というもの自体がよく分からない状態です。」

ホニャは黙って聞いている。


「不便に感じることはあります。」

エドは正直に言った。


「他の人より劣っている部分もあると思います。」

そこで一度言葉を切る。


「それでも。」

エドは顔を上げる。


「受け入れ、補うことはできると思っています。」

真っ直ぐにホニャを見てはっきりと言った。


言葉に迷いはない。

ホニャはしばらく何も言わなかった。


腕を組み、エドを見つめる。

まるで何かを測るような視線。

やがて、小さく口を開く。


「なら、少年。」

「はい。」

「君は俺に一撃でも入れられると思うか?」


その問いに、エドはほとんど考えなかった。

「無理です。」


即答だった。

アイリーンが目を瞬かせる。

アニタも意外そうな顔をしていた。


ホニャも僅かに眉を上げる。

エドは続けた。


「正面から戦えば勝負にもならないと思います。」

「ですが。」

「逃げることだけを目的にしていいなら、生き残る可能性はあると思います。」


受付の空気が止まった。


エマが息を呑む。

アニタも目を丸くしている。


ホニャは数秒、黙ったままだった。

そして。

「ほう。」


小さく呟く。

その声には先ほどまでとは違う響きがあった。


その様子を見て、アイリーンがふっと笑った。

「ホニャさん。」


呼びかける声は先ほどより柔らかい。

「エド君はね。」


アイリーンはエドを親指で示す。

「あなたが思っているより、ずっと強い子だよ。」


自信がある声だった。

冒険者としての経験から出た言葉。


ホニャは何も答えない。

ただ、改めてエドを見た。


今度は先ほどまでの「登録を断る相手」としてではない。

一人の人間を見る目だった。


ホニャは。にやりと口角を釣り上げた。

「なるほど。」


面白いものを見つけたような顔だった。

「少なくとも、判断力はあるようだな。」


その目が細くなる。

「本当に逃げ切れるかは別として。」


エドは何も言わない。

ホニャは腕を組んだまま数秒考え、やがて頷いた。


「よし。」

そして言う。


「こうしよう。」

その声に周囲の視線が集まった。


「腕試しだ。」

エドは目を瞬かせる。


ホニャは親指で建物の奥のほうを示した。

訓練場のある方向だった。


「安心しろ。」

口元に笑みを浮かべる。


「俺に一撃入れろなんて無茶は言わん。」

そのままエドを指差した。


「お前の能力を見せてみろ。」

低く落ち着いた声だった。


「その上で判断する。」


一拍置く。


「まあ、試験みたいなものだ。」

「ギルド長、それは――。」


エマが思わず口を開く。

だが。


ホニャは静かに遮った。

「確かに普通はこんなことはしない。」


エマは口を閉じる。

ホニャは続けた。


「子供のギルド登録希望など、普段なら門前払いだ。」

その言葉にエマも小さく頷いた。


「そうだろう?」

「......はい。」

「だが。」


ホニャの視線がエドへ向く。


「こいつは違う。アイリーンが認めている。」

今度はアイリーンを見る。


「それだけでも十分に重い。」

アイリーンは何も言わない。


「さらにゴブリンの巣の掃討にも関わっている。少なくとも、そこらの子供と同じ扱いをするのは違う。」

エマは黙って聞いていた。


「その上でだ。」

ホニャの声が少し低くなる。


「魔法が使えない。」

「魔力も感じられない。」

一つずつ確認するように言う。


「そんな少年に対して。」

視線がエマへ向く。


「能力も見ずに判断を下していいと思うか?」

エマは言葉に詰まった。


数秒の沈黙。

そして静かに首を横へ振る。


「......いいえ。」

「だろう?」


ホニャは頷いた。

そして踵を返す。


「決まりだ。」

銀灰色の髪が揺れた。


「訓練場を使うぞ。」

そう言って歩き出す。


周囲の職員たちがざわめいた。


ギルド長自ら試験を行う。

それが珍しいことであるのは、誰の目にも明らかだった。

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