76話 冒険者ギルド7
励みになるのでブックマークと評価をお願いします。
「ホニャさん、人類の敵って。」
重くなった空気を少しでも和らげようとするように。
アイリーンがギルド長へ声を掛けた。
ギルド長はアイリーンに視線を向ける。
どうやら本当にホニャと呼ばれているらしい。
エドは一瞬だけ考えた。
髪型だけではなく名前まで面白いのか。
ギルド長――ホニャさんは小さく息を吐いた。
「ああ。」
その声は低く落ち着いていた。
「国によっては既に指名手配しているところもあるだろうな。」
何でもないことのように言う。
だが、その内容は決して軽くない。
ただ危険というだけではなく、国家が明確に敵と認定しているのだ。
「もっとも、冒険者ギルドとしては正規な指名手配は出していない。」
ホニャはそう付け加えた。
「理由は単純だ。」
腕を組む。
「賞金や依頼をぶら下げれば、身の程を知らない連中が群がる。そして死ぬ。」
まるで当たり前の未来を語るような口調で断言した。
「だから関わらせない。」
そして続ける。
「今回の杖の輸送に関して、ギルドは直接かかわっていない。」
受付嬢も静かに耳を傾けている。
「だが、王都側とは連絡を取っておく。」
ホニャは顎へ手を当てた。
「研究機関が絡んでいる品なら、向こうも状況を把握する必要があるだろう。」
そう言うと、今度は受付の方へ顔を向ける。
「それから、エマ。」
突然名を呼ばれた受付嬢はびくりと肩を震わせた。
そして反射的に背筋を伸ばす。
「は、はい!」
その辺氏は先ほどまでより一段大きかった。
ホニャは気にした様子もなく続ける。
「ゴブリンの巣跡については調査を急がせろ。」
「はい。」
エマはすぐに頷く。
だが次の言葉に目を瞬かせた。
「ただし精鋭は送るな。」
「はい!――え?」
思わず聞き返してしまう。
「精鋭は送らないんですか?」
当然の疑惑だった。
ゴブリンシャーマンが確認され、さらに正体不明の危険人物まで現れた現場である。
普通なら優秀な冒険者や調査員を向かわせるはずだ。
だがホニャは迷いなく頷いた。
「ああ。」
その表情は真剣だった。
「おそらくアーテル本人は既に移動している。」
静かな声で言う。
「だが、万が一ということがある。」
その場の空気が再び重くなった。
「もし精鋭どもが現場へ行き、運悪く奴をみつけたらどうなると思う?」
誰も答えない。
ホニャは淡々と続けた。
「気づく。そして、死ぬ。」
その言葉にエマが息を呑んだ。
「奴は隠れるのが上手い。」
ホニャの目が細くなる。
「だが、腕の立つものほど違和感に敏感だ。何かがおかしいと気づく。」
まるで経験談を語るような口調で続ける。
「痕跡を追う、姿を探す、そしてもしもソレを見つけてしまったとき――。死ぬ。」
まるで因果関係が成立しているかのような言い方だった。
アーテルを見つけたら死ぬ。
弱いからではない。
鈍いからでもない。
優秀だから、死ぬ。
気付いてしまうから、死ぬ。
そんな話をしている。
「だったら、多少未熟な連中の方がまだマシだ。」
エマが困惑した表情を浮かべる。
「未熟な奴は気づかない。気づいたら死ぬが、気づかなければ相手にされないかもしれない。」
あまりにも身も蓋もない理屈だった。
しかし誰も反論できなかった。
実際にアーテルと遭遇したアイリーンも、エドも、アニタも、何一つ否定できなかった。
エマはしばらく黙っていたが、やがて小さく唾を飲み込んだ。
その音が妙に大きく聞こえる。
「そういう類の存在なんですね。」
ホニャは静かに頷いた。
「ああ。」
短い返答だった。
この場にいる誰もが理解した。
アーテルという存在は、強敵ではない。
討伐対象でもない。
捜索対象ですらない。
ただ、遭遇してはいけない存在なのだと。
「ところで。」
一通り話が終わったところで、ホニャがふと思い出したように口を開いた。
「そこの嬢ちゃんはいったい何者かな?」
そう言って視線を向けたのはアニタだった。
鋭いが威圧感はない。
ただ観察するような目だった。
「最初から俺に気付いていたみたいだが。」
アニタの肩がぴくりと震える。
「えっ、私ですか!?」
突然話を振られ、慌てて自分を指差した。
ホニャは頷く。
エドは思わずアニタを見る。
そう言われてみれば、確かにアニタだけは振り返る前から反応していた。
まるで誰かが後ろにいることを知っていたかのように。
「その子は今回の護衛対象だよ。」
アイリーンが代わりに応えた。
「王都へ向かう途中なんだ。」
「ほう、王都へ?」
ホニャの眉が僅かに上がる。
「うん。」
アイリーンは頷いた。
「ウルネ国営学校の試験を受けるんだってさ。」
「なるほど。」
ホニャは再びアニタへ視線を戻した。
「魔法学科かい?」
「あ、はい!その予定です!」
アニタは慌てて背筋を伸ばす。
少し緊張しているらしい。
「その年齢で俺に気付くなんて大したもんだ。」
ホニャは感心したように頷いた。
アニタはどう答えればいいのか分からないらしく、曖昧に笑った。
次に視線を横へ滑らせる。
今度はエドだった。
「それで、君も試験を?」
数秒ほどエドを見つめる。
先ほどアニタに向けた興味深そうな視線とは少し違う。
とりあえず聞いてみた、くらいの温度感だった。
「あ、いえ。僕は受験しません。ただの付き合いです。」
「あ、そう。」
それだけだった。
ホニャは即座に視線をアイリーンへ戻した。
「それでアイリーン。なんでこの二人を連れてきたんだ?」
アイリーンがきょとんとする。
「連れてきた?」
「ギルドへだ。」
ホニャは顎でエドたちを示した。
「護衛依頼の報告だけならお前ひとりでも済むだろう。」
「ああ、そのこと。」
アイリーンは納得したように頷いた。
「いやさ。」
そして親指でエドを示す。
「エドくんがギルド登録したいって言うもんでね。」
ホニャが一瞬黙る。
視線が再びエドへ向いた。
「その子供が?」
今度は明らかに訝しげだった。
先ほどまでとは違う、値踏みするような視線。
エドは少しだけ嫌な予感がした。
執筆の励みにしたく、ブックマークと↓の☆をclickして作者を応援しよう!
↓☆click!!!




