70話 冒険者ギルド
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湖沿いの大通りから一段高くなった石造りの基壇。
赤茶色の屋根が幾重にも重なり、まるで一つの砦のようだった。
壁は白と灰色の石で作られている。
その表面を支えるように太い木の梁が縦横へ走り、実用性を重視した力強い造りになっていた。
飾り立てた美しさではない。
長年使われ続けることを前提とした頑丈さ。
多くの人間が出入りし、多くの仕事を処理するための施設。
建物は横にも広い。
正面には大きな両開きの扉。
その左右には何本もの煙突が伸びており、白い煙が空へ流れている。
建物の裏手にはさらに別棟が見えた。
木の柵で囲まれた広場。
木人や的が並んでいる。
訓練場だろう。
冒険者たちらしき者たちが木剣を打ち合わせ、槍を振り、汗を流している姿まで見えた。
別の場所には厩舎もある。
ウーマが繋がれ、旅人たちが荷物を積み下ろしていた。
さらに視線を移せば、二階や三階と思われる窓が何列も並んでいる。
宿泊施設も兼ねているのだろうか。
遠方から来た冒険者たちが滞在するための部屋が用意されていると聞いたことがある。
そのすべてが一つの建物へ収まっていた。
依頼を受ける場所。
情報を持ち帰る場所。
旅人が休む場所。
冒険者が鍛える場所。
仲間と出会う場所。
そして時には、命を賭ける仕事へ向かう場所。
まるで小さな村が一つ、そのまま建物になったかのようだった。
建物の正面には巨大な木製看板が掲げられていた。
風雨に晒されながらも丁寧に手入れされているらしく、深い飴色の艶を帯びている。
その中央には大きな紋章が刻まれていた。
開かれた一冊の本。
その綴じ目からは一本の剣が真っ直ぐ置かれている。
さらに剣の左右には、それぞれ一枚ずつ円形の金貨が浮かぶように配置されていた。
どれも単純な図柄だった。
だが不思議と目を引く。
「知ってるかい?」
隣でアイリーンが口を開く。
「あれが冒険者ギルドの紋章だよ。」
エドは看板を見上げたまま頷く。
「本と剣と金貨ですか?」
「そう。」
アイリーンは少しだけ笑った。
「本は知識。」
指を一本立てる。
「剣は力。」
二本目。
「金貨は富。」
三本目。
「知識を持ち、力を振るい、その対価として富を得る。昔の偉い人が考えた理念らしいよ。」
そう言って肩をすくめた。
エドは再び看板を見上げる。
ただの飾りではない。
冒険者という生き方そのものを現した紋章なのだと、何となく感じられた。
その看板の下を、今日も多くの人々が行き交っている。
アイリーンが先頭に立ち、大きな扉を押し開く。
重い木扉が軋みながら開いた。
途端に、外とは違う空気が流れ込んでくる。
温かい。
薪の燃える匂い。
焼いた肉の匂い。
スープの香り。
様々な匂いが混ざり合い、広い空間を満たしていた。
エドは思わず足を止める。
「......。」
まず目に飛び込んできたのは酒場だった。
建物の中央を占めるように長机が何列も並べられている。
朝の時間だからか、人はそれほど多くない。
だが、それでも何組もの冒険者たちが席についていた。
革鎧を着た者。
剣を背負った者。
旅装束のまま朝食を取っている者。
大きな声で笑う者もいれば、無言でスープを飲む者もいる。
奥には長い木製カウンターがあった。
その向こうでは店員たちが忙しそうに動き回っている。
鍋から立ち上る湯気。
皿を運ぶ音。
調理場から聞こえる包丁の音。
酒場そのものだった。
しかし、それだけではない。
「こっちが受付ね。」
アイリーンが右側を指差す。
視線を向けるとそこには長い受付カウンターがあった。
女性の職員が二人、並んで座っている。
依頼の報告をしている冒険者や、何かを相談している旅人。
職員たちは慣れた様子で対応していた。
ペンが走る音。書類をめくる音。
絶えず誰かが働いている。
カウンターの奥には資料棚が並んでいた。
革表紙の帳簿、丸められた地図、木箱に収められた書類。
さらに奥には幾つもの扉が見える。
会議室か、保管庫か、あるいは職員たちの執務室かもしれない。
ギルドの頭脳がそこにあるように思えた。
「すごい......。」
アニタが思わず呟く。
左側に視線を向けると、そこには巨大な掲示板が設置されていた。
壁一面を埋め尽くすほどの大きさである。
無数の紙が貼られている。
討伐依頼、護衛依頼、荷運び。
紙の色も大きさも様々だった。
その前では冒険者たちが立ち止まり、真剣な表情で依頼を見比べている。
エドは思わず息を呑む。
本で読んだことはある。
だが、実際に見てみるとその光景に圧倒された。
さらに左右の奥には大きな階段が伸びている。
二階へ続く階段だ。
宿泊部屋、会議室。上階にも様々な設備があるのだろう。
エドはゆっくりと辺りを見回した。
酒場、受付、掲示板、そこを行き交う人々。
ここはただの建物ではない。
冒険者たちの生活そのものが集まる場所だった。
「さて。」
アイリーンが腰へ手を当てた。
「まずは報告だね。」
そう言うと、受付の方へ顎をしゃくる。
「二人ともおいで。」
「はい。」
エドとアニタは慌てて返事をした。
三人は酒場の脇を通り抜け、受付カウンターへ向かう。
近づくにつれ、職員たちの声が聞こえてきた。
「護衛の完了確認しました。こちらが報酬です。」
「こちらの依頼書をお持ちください。」
次々と処理されていく報告や依頼。
職員たちの動きに無駄はない。
そしてとうとうエドたちの順番が回ってきた。
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