68話 北ビーワ6
励みになるのでブックマークと評価をお願いします。
朝食を食べ終えた一行は、街へ向かう準備を始めた。
ガイウスはウーマの背を撫でながら荷具を確認している。
「買い物は昨日のうちに済ませた。」
ぽつりと言った。
「今日は一日ここにいる。」
アイリーンが振り返る。
「ああ、そうなの。」
少し意外そうな顔をしたが、すぐに頷いた。
「悪いね。」
ガイウスは答えない。
代わりにウーマの首筋を軽く叩いた。
それが返事だった。
アイリーンは苦笑しながら肩をすくめる。
そしてエドとアニタへ向き直った。
「じゃあ、エドくん。アニタちゃん。」
腰に短剣を下げ直す。
「私ら三人で行こうか!」
「はい!」
エドとアニタの声が重なった。
野営地を後にする。
朝日を受けた草原は明るく輝いていた。
川のせせらぎが遠ざかっていく。
振り返れば、ガイウスはもうこちらを見ていなかった。
いつも通りの無愛想な背中だった。
だが、不思議と安心できる背中でもある。
三人は街道を歩き始めた。
北ビーワへ向かう旅人たちの流れに混ざる。
しばらく進むと、周囲には多くの野営地が広がっていた。
昨夜は暗くて良く見えなかったが、朝になるとその規模がよく分かる。
荷馬車の横で朝食を取る商隊。
荷物をまとめて出発準備をしている旅人。
焚き火の灰を埋めている冒険者たち。
あちこちから人の声が聞こえる。
鍋を洗う音。
ウーマの鳴き声。
笑い声、怒鳴り声。
様々な音が混ざり合い、一つの賑わいを作っていた。
エドとアニタはきょろきょろと辺りを見回す。
村ではみたことない人ばかりだった。
服装も、持ち物も、話している言葉さえ少し違う。
どこから来て、どこへ向かうのだろう。
考えるだけで胸が躍った。
野営地を抜けると、その先に北ビーワの街並みが見えてきた。
湖沿いに長く広がる街だった。
赤茶色の屋根が連なり、白や灰色の壁が朝日に照らされている。
建物はぎっしりと詰まっているわけではなく、ところどころに空き地や畑も見えた。
湖から吹く風が街を抜けていく。
人の声が聞こえる。
荷車の軋む音。
家畜の鳴き声。
様々な音が混ざり合い、遠くからでも街の活気が伝わってきた。
街道が街へ入る辺りでは、すでに露店が並んでいる。
果物を売る者。
焼いた魚を売る者。
旅人向けの雑貨を並べる者。
威勢の良い声が飛び交い、人々が足を止めていた。
「安いよ安いよ!」
「今朝獲れたばかりだ!」
「旅のお供にどうだい!」
エドは思わず辺りを見回す。
村の市よりも遥かに賑やかだった。
さらに奥へ目を向ける。
そこには畑が広がっていた。
青々とした作物が朝日を受けて揺れている。
牧場も見える。
柵の向こうではウーマや家畜たちが草を食んでいた。
街と農地が途切れることなく繋がっている。
まるで村が幾つも集まり、そのまま一つの大きな街になったようだった。
「思ったより広い......。」
エドは思わず呟く。
「北ビーワは交易で栄えてるからね。人が集まるんだよ。」
アイリーンが説明する。
エドは頷いた。
街の入口には大きな門が作られていた。
丸太を何本も組み上げた頑丈そうな作りだ。
左右へ伸びる柵も人の背丈を大きく越えている。
その前には多くの人々が行き交っていた。
荷馬車を引く商人。
大きな荷を背負った旅人。
剣や槍を下げた冒険者らしき者たち。
服装も様々だ。
街へ入る者もいれば、これから出発する者もいる。
人の流れは途切れることがなかった。
「結構人が多いんですね。」
エドは思わず呟く。
「そうだね。」
アイリーンは何でもないことのように答えた。
「北ビーワは湖の交易拠点だからさ。人も物も集まるんだよ。」
門の脇には門番が二人立っていた。
金属を張り付けた革鎧。
長槍。
金属製の兜。
村の自警団とは装備がまるで違う。
エドは思わず視線を向ける。
――兵士だ。
そう思った。
ちゃんと訓練を受けた街の守り手。
それだけで、この街が村とは違う場所なのだと実感する。
だが門番たちは、一人ひとりを細かく調べているわけではなかった。
怪しい者がいないか見ている程度らしい。
荷馬車も旅人も次々と門を通っていく。
その時だった。
「やあ。」
アイリーンが片手を上げた。
門番の一人が気づく。
「あ?」
そして次の瞬間、にやりと笑った。
「おう、アイリーン。」
視線がエドとアニタへ向く。
「なんだ。とうとうガキでもこさえたか。」
「んなわけないだろ!」
アイリーンが即座に怒鳴った。
「護衛だよ!見りゃ分かんだろ!毎回このくだりやりやがって!」
「あっはっは!」
門番が大声で笑う。
もう一人の門番も肩を震わせていた。どうやら顔見知りらしい。
こうして軽口を叩く相手もいるのだと、エドは少し驚いた。
「相変わらず口が悪いな。」
「お前ほどじゃないよ。」
「違いねえ。」
再び笑い声が上がる。
門番はひらひらと手を振った。
「ほら、さっさと行け。」
「言われなくても行くよ。」
アイリーンも手を振り返す。
そうして三人は人の流れに混ざりながら門をくぐった。
村を出てから初めて訪れる大きな街。
北ビーワが、ようやく目の前に広がっていた。
執筆の励みにしたく、ブックマークと↓の☆をclickして作者を応援しよう!
↓☆click!!!




