表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/82

66話 北ビーワ4

励みになるので



ブックマークと評価をお願いします。

エドははっと目を開いた。

荒い呼吸が喉を震わせる。


見上げた先には空。

荷台に差し込む朝の光が、ぼんやりと視界を白く染めていた。


しばらく自分がどこにいるのか分からない。

どんな夢を見たのか、すでに覚えてもいない。


それでも――。


ただ、自分の汗で湿った服の感触だけが残っている。

ゆっくりと息を吐いた。


目が覚める。

現実だ。

朝だ。


夜は明けている。

空は淡く白み始めていたが、空気にはまだ夜の冷たさが残っている。


それなのに、エドの身体は汗でびっしょりだった。

首筋を伝う汗が冷えて気持ち悪い。


毛布を少し押しのけながら身体を起こす。

荷台の外では、ぱちり、と薪の爆ぜる音がした。


視線を向ける。

焚き火の傍らではガイウスとアイリーンが座っていた。


二人とも頭を垂れている。

仮眠をとっているのだろう。

夜通し見張りをしていたのかもしれない。


隣ではアニタは毛布に包まり、静かな寝息を立てていた。

昨夜の不安そうな様子が嘘のように穏やかな寝顔だった。


エドは小さく息を吐く。

起こさないよう、そっと荷台の縁へ手を掛けた。


軋まないよう慎重に体重を移す。

荷台から降りる。

草を踏む感触が靴底へ伝わった。


汗を流したかった。

頭の中に残る嫌な感覚も、一緒に洗い流してしまいたかった。

川へ向かおうと歩き出す。


その時だった。


ぱちり。

背後で薪の弾ける音がした。

振り返らない。


だが、何となくわかった。

アイリーンだ。

彼女はエドが起きたことに気づいている。


けれど何も言わない。

ただ焚き火へ薪を一本くびただけだった。


その気遣いが妙にありがたかった。

エドは小さく頭を下げる。

見えていないと分かっていても。


そして川の方へ足を向けた。

朝靄の向こうから、水の流れる音が聞こえていた。


川辺へ着くと、ひにゃりとした水の香りが鼻をくすぐった。


すぐ近くに大きな湖があるからだろうか。

川幅は広く、流れも穏やかだった。

せせらぎは静かで、耳をすませば水が石を撫でる音まで聞こえてくる。


エドは周囲を見回す。


まだ早朝だ。

人影はない。


服を脱ぎ、川の水へ浸す。


冷たい。

思わず肩が震えた。


昨夜かいた汗が水へ溶けていく。

布を何度かゆすぎ、軽く絞る。


滴る水を切ってから、陽の当たりそうな岩の上へ広げた。

そのまま川へ足を踏み入れる。


足首、脛、膝。

少しずつ身体を沈めていく。


冷たさが肌を刺した。

だが、不思議と嫌ではない。

むしろ心地よかった。


汗ばんだ肌が引き締まる。

火照っていた頭も少しずつ冷えていく。


エドは腰まで水へ浸かり、小さく息を吐いた。

白い息はもう出ない。

けれど朝の空気はまだ冷たかった。


流れる水へ手を差し入れる。

掬いあげた水で顔を洗った。

頬を伝う冷たさが、夢の残滓を洗い流していくような気がした。


あの男。

首を絞める指。

声のない叫び。


思い出しかけて、エドは頭を振る。

今はいい。

今は考えなくていい。


冷たい水に身を任せながら、エドはゆっくりと空を見上げた。

東の空は既に明るくなり始めていた。


しばらく水に浸かっていると、背後から草を踏む音が聞こえた。

振り返る。

川辺にはアイリーンが立っていた。


「おはよう。」

朝日を背にした彼女が軽く手を振る。


「あ、おはようございます。」

エドも慌てて頭を下げた。


「気持ちよさそうだね。」

「はい。冷たいですけど、結構平気です。」

そう答えると、アイリーンは川面を見て頷く。


「確かに良さそうだ。じゃあ私も入ろうかな。」

「え?」

エドが間の抜けた声を出す。


だが、アイリーンは気にしない。

外套を脱ぎ、上着を脱ぎ、さっさと準備を始める。

旅慣れた動作だった。


「ちょ、ちょっと。」

「ん?」

「いや、その。」


エドは言葉に詰まる。

アイリーンは数秒だけ考え、納得したように頷いた。


「ああ。気にしなくていいよ。」


そして次の瞬間。

ざばんっ!


大きな水音を立てて川へ飛び込んだ。

冷たいしぶきがエドの顔まで飛んでくる。


「冷たっ!」

「ははは!気持ちいいね!」

アイリーンの笑い声が川辺へ響いた。


彼女の身体は、美しさよりも先に、生き延びてきた年月を語っていた。


日焼けした肌。

肩から腕にかけて伸びる、無駄のない筋肉。

力任せに鍛えた身体ではない。

弓を引き、剣を振り、長い旅路を歩き続けてきた者の身体だった。


鎖骨の下には細い傷跡が一本。

脇腹には獣の爪によるものと思われる白い痕も残っている。


だが、それらは欠点には見えなかった。

幾度もの戦いと旅路を乗り越えてきた証。

勲章のようなものだった。


若い頃の瑞々しさは、落ち着いた成熟へと姿を変えている。

それでも、無防備な姿で立っているはずなのに、不思議と隙は感じられない。


背筋は真っ直ぐだった。

今にも弓を構えられそうなほどに。

歴戦の冒険者らしい存在感が、全身から滲み出ていた。


「お、思ったよりよく見るねぇ。」

アイリーンが少し戸惑ったような声を上げた。


その言葉で、エドはようやく自分がじっと見ていたことに気付く。

「あ。」


思わず目を見開いた。

「す、すみません!」

慌てて視線を逸らす。


だが、焦った頭では言い訳もまとまらない。

口をついて出たのは、


「い、いい身体だと思って!」

だった。


言った瞬間、自分でも何を言っているんだと思った。

「いい身体って......。」


アイリーンが眉をひそめる。

「あっ!」

エドの顔から血の気が引いた。


「いや、そういう意味じゃなくて!」

慌てて両手を振る。

だが、言葉が出てくるほど状況は悪化していく気がした。


「こんな親ほど年の離れたおばさんの身体を見て、何が楽しいんだか。」

呆れたように言う。


「傷とか!筋肉とか!すごく冒険者っぽいというか!」

エドはもう穴があったら入りたかった。


「ああ、そういうこと。」

アイリーンはようやく納得したように頷いた。


確かにアイリーンは母親のリラと同じくらいの年齢だ。

もしかすると少し上かもしれない。


そう考えると、自分が変な意味で見ていたわけではないことは自分でも分かる。

だが、それを上手く説明できなかっただけだし、

不躾な視線は指摘の通りだった。


慌てた様子のエドを見てアイリーンはくすりと笑う。

「まあ、誉め言葉として受け取っとくよ。」


そう言うと、ざぶりと水を掻き分けながら川の中央へ向かっていった。

エドは赤くなった顔を冷ますように、慌てて川の水を掬って顔へかけた。


冷たい水が妙に気持ちよかった。

執筆の励みにしたく、


ブックマークと


↓の☆をclickして


作者を応援しよう!


↓☆click!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ