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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

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64話 北ビーワ2

励みになるのでブックマークと評価がほしいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

三人は焚き火の傍らへ腰を下ろした。

火の熱が、冷え始めた身体に心地よい。

鍋からは湯気が立ち上り、煮込みの匂いが漂っている。


洞窟の湿った空気ばかり吸っていたせいか、それだけで妙に安心した。


「遅くなって悪かったね。」

アイリーンが言う。


ガイウスは焚き火へ薪を一本くべた。

ぱちり、と火の粉が舞う。


「気にするな。」

短い返事だった。

その視線は三人の顔を順番に確認している。


怪我はないか。無事か。

そんな確認にも見えた。

全員の姿を確かめ終えると、ガイウスは小さく息を吐く。


「何があった。」

問いかけは簡潔だった。

アイリーンは苦笑する。


「簡単に言うと、ゴブリンに荷物を盗まれたみたいでね。」

「ゴブリン?」

「そう。痕跡を追ったら巣を見つけちゃったんだよ。」


アイリーンは軽い口調で続ける。

「で、乗り込んで、殲滅して、荷物を取り返してきた。」


ガイウスの眉がぴくりと動いた。

「巣に入ったのか。」


低い声だった。

「二人を連れて。」


その言葉にエドは思わず視線を逸らした。

普通に考えれば無茶だったのだろう。

ゴブリンの巣穴に子供を連れて入る。


村の大人たちが聞けば顔色を変えるかもしれない。

「そこは色々事情があってね。」


アイリーンが頭をかく。

「説明すると長いから察して。」


しばらく沈黙が落ちる。

焚き火がぱちぱちと音を立てた。


やがてガイウスは小さく頷く。

「そうか。」


それ以上は聞かなかった。

アイリーンも余計な説明はしない。

互いに長い付き合いなのだろう。

それで話は終わったらしい。


「まあ、どのみち明日は忙しくなるね。」

アイリーンが鍋の中を覗き込みながら言った。


「北ビーワのギルドに報告しなきゃならない。」

その言葉でエドは思い出す。


草むらで発見した旅人の死体。

そしてゴブリンの巣。


「あ。」

あの時も同じことを言っていた。


「北ビーワにも冒険者ギルドがあるんですね。」

「あるよ。」


アイリーンは頷いた。

「もともとは今回の依頼の途中報告だけする予定だったんだけどね。」


指を一本立てる。

「旅人の死体。」


二本目。

「ゴブリンの巣。」


三本目。

「あと、あの男。」


そこでエドの肩がわずかに強張る。

アイリーンも気づいたのか、それ以上は触れなかった。


「報告することが増えちゃった。」

軽く笑って締める。


「したい、という言い方でしたけど。」

エドは気になっていたことを口にした。


「報告は義務じゃないんですか?」

「義務じゃないよ。」

意外な答えだった。


アイリーンは鍋をかき混ぜながら続ける。

「依頼の結果報告は必要だけど、それ以外は別にしなくても誰も怒らない。」

「それなのに報告するんですか?」

「するよ。」

即答だった。


アイリーンは焚き火の向こうへ視線を向ける。

「旅をしてるとさ、色んなものを見るんだ。」


ぱちり、と薪が爆ぜた。

「壊れた橋とか。魔物の痕跡とか。街道の異変とか。今回みたいなゴブリンの巣とかね。」


そう言って肩をすくめる。

「その時は大したことじゃなくても、あとから振り返ったら大事件の前触れだった、なんてこともあるんだよ。」


エドは黙って聞く。

「私は賢くないからさ。」


アイリーンは苦笑した。

「どの情報が重要かなんて分からない。」

「だから見たことや気づいたことは、とりあえずギルドへ渡す。」

「後は詳しい人たちが判断してくれる。」


なるほど、とエドは思う。

一人ではただの出来事でも。

大勢が情報を持ち寄れば、見えてくるものがあるのかもしれない。


「昔ね。」

アイリーンは鍋をかき混ぜる手を止めた。


焚き火の向こう側へ目を向ける。

今見ているのは夜の野営地ではない。

もっと昔の光景なのだろう。


「王都のほうで活動してた頃の話なんだけど。」

そう前置きしてから続けた。


「ある冒険者が、森の縁で妙な足跡を見つけたんだ。」

「妙な足跡?」

アニタが首を傾げる。


「うん。大型の魔物の足跡だったらしい。」

アイリーンは頷いた。


「でも、その辺りには本来いない種類だった」

「見間違いじゃないかって言われたそうだよ。足跡なんて雨風で形が変わることもあるし。」

エドも思わず頷く。


「それでも、その冒険者はギルドに報告した。」

ぱちり、と薪が爆ぜた。


「別に緊急性があると思ったわけじゃない。ただ、何となく気になったんだろうね。」

「へぇ。」


「その数日後さ。」

アイリーンは指を一本立てる。


「今度は別の道で、似たような報告が上がった。」

二本目。


「さらに別の道でも。」

三本目。


「最初は誰も繋がってるなんて思わなかった。」

「でも、ギルドには各地から情報が集まる。」

「それを整理する役目の人間がいるんだ。」


エドは初めて知った。

依頼を張り出すだけがギルドではないらしい。


「集まった報告を地図に書き込んでいったらね。」

アイリーンは空中へ指を走らせる。

まるで地図を描くように。


「点が並んだ。」

「点?」

「魔物が目撃された場所さ。」


指先がゆっくり移動する。

「西から東へ。」

「一直線に。」


その言葉に、エドの脳裏へ光景が浮かんだ。

見知らぬ森。

山々。

街道。


その中を巨大な魔物が移動していく姿。


「調査隊が出た。」

アイリーンは静かに続ける。


「そしたら分かったんだよ。森の奥で縄張り争いが起きてた。」

「そして負けた魔獣が別の土地へ移動を始めてたんだ。」


アニタが息を呑む。

「魔獣......。」

「そう。」

アイリーンは頷いた。


「もし誰も報告してなかったら、その魔獣は何もしらない村や街へ突然現れてたかもしれない。」

焚き火の炎が揺れる。


「でも実際は違った。」

「ギルドが各地へ連絡を飛ばして、危険地域の封鎖、商隊への注意喚起、周辺の村への避難勧告、討伐隊の編成。」


一つひとつ指を折りながら数える。

「全部、間に合ったんだ。」


しばらく誰も口を開かなかった。

川の流れる音だけが聞こえる。


「最初の報告をした冒険者はね。別に英雄になろうとしたわけじゃない。」

「ただ、『なんか変だな』って思ったことをギルドに伝えただけ。」


そう言って笑う。

「でも、そのおかげで助かった人はたくさんいた。」


エドは焚き火を見つめる。

小さな違和感。

小さな情報。


それだけでは意味を持たない。

けれど、それが集まれば誰かの命を救うこともある。


「だから私は報告する。」

アイリーンの声は穏やかだった。


「今回のことだってそう。大したことじゃないかもしれない。でも、もし重要だったら。」

アイリーンは木の匙で鍋をひと混ぜする。


「報告しなかったことの方が、後悔するからさ。」

アイリーンはそう言って笑った。

まるで当たり前のことを話すように。


だがエドには、その言葉が妙に心に残った。

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