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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

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59話 ゴブリン4

あ!!!!!!!!!!!!!!励みになるのでブックマークと評価をお願いします。

「喝っ!!」

腹の底へ力を込める。

肺の空気を一気に吐き出した。


全身へ力を入れる。腕、足、背筋。

意識を身体へ引き戻す。

ぐらついていた感覚が一気に定まる。


視界のゆがみはもう無い。目の前にはゴブリンシャーマン。

ぼろ布をまとった醜悪な身体。濁った黄色の瞳。

そして相変わらずの不気味な笑み。


こちらの様子を観察している。

まるで獲物が術に絡めとられるのを楽しんでいるようだった。


だが、エドはもう迷わない。

身体の力を一瞬だけ抜く。そして、前へ倒れ込んだ。

踏み込む。低く、さらに低く。


地面を這うような姿勢で加速する。

ゴブリンシャーマンの笑みがわずかに揺らいだ。


狙うのは喉ではない。目だ。


這うような前傾姿勢。

地面すれすれまで重心を落としたまま、エドは力強く地面を蹴った。


土が弾ける。


一歩。


その踏み込みだけで一気に間合いが縮まる。


ゴブリンシャーマンの笑みが消えた。

黄色く濁った瞳が見開かれる。


予想外だったのだろう。

闇魔法に囚われたはずの人間が、迷うことなく突っ込んできたのだから。


ゴブリンシャーマンは慌てて身を逸らそうとする。

だが、遅い。


エドの槍は既に放たれていた。

全身の力を乗せた渾身の突き。


腕力だけではない。

踏み込み、腰の回転、体重移動。

その全てを穂先へ集中させた一撃だった。


ぶつり。と、鈍い感触。

穂先はわずかに逸れた頭部を追うようにして眼窩へ突き刺さる。

黄色い眼球が弾けた。


「ギッ――」

悲鳴は最後まで続かなかった。


槍はそのまま頭蓋を貫き、勢いを失わない。

ゴブリンシャーマンの身体ごと後方へ押し飛ばす。


小柄な身体が宙に浮いた。

次の瞬間。岩壁へ叩きつけられる。

穂先は頭部を貫いたまま岩の隙間へ深く食い込み、ゴブリンシャーマンの身体を壁へ縫い留めた。


四肢がびくりと痙攣する。

それが最後だった。


エドは乱暴に槍を引き抜いた。

壁へ縫い留められていたゴブリンシャーマンの身体が崩れ落ちる。

それを確認する暇もなく、すぐにアニタとアイリーンへ視線を向けた。


アイリーンは飛び出した勢いのまま前進していた。

正面には小盾と短剣を構えたゴブリン。


今までの個体とは違う。

装備だけでなく構えにも慣れが見える。

互いに距離が縮まる。


ゴブリンはアイリーンを迎え撃つ。

――かと思われた。


だが違った。直前で大きく左へ飛ぶ。

真正面からの衝突を避け、横から無防備なアイリーンへ短剣を突き込む。


だが。


ガンッ!

アイリーンの左腕の小盾が、ゴブリンの短剣を弾いた。

鋭い音が響く。


ゴブリンの手首が弾かれる。握力が耐え切れない。

短剣が宙を舞った。


「ギャ!?」

声を上げる間もなく、アイリーンの右腕が閃く。

短剣が喉へ吸い込まれた。


深く、迷いなく。刃が首を貫く。

ゴブリンの身体が硬直した。


口から血泡が溢れる。

数歩よろめいた後、そのまま崩れ落ちた。


一撃。

それだけだった。

アイリーンは短剣を引き抜く。


一方、アニタも既に動いていた。

狙うのは左側、スリングを構えたゴブリンだ。


先ほどアイリーンへ投石した個体。

再び革紐を振り回し始めている。

次を撃たせるわけにはいかない。


アニタは足元へ視線を落とした。

転がっていた小石を拾う。

握りこぶしにも収まるほどの大きさ。


それを軽く構えた。

「やぁっ!」

小さな掛け声。


石が放たれる。同時にそれを押し出すような突風。

石は一瞬で加速する。

まるで矢のようだった。


「グェ!?」

ゴブリンが反応するが、遅い。


次の瞬間。

石が眼前へ到達し、破裂した。


乾いた粉砕音。

土魔法によって内部から砕かれた石が無数の礫となって四方へ弾け飛ぶ。

至近距離。回避は不可能だった。礫の雨がゴブリンを襲う。


顔、首、胸、腕。全身へ容赦なく突き刺さる。


「ギャアアアアァッ!」

悲鳴が響く。黄色い眼球が潰れた。皮膚が裂ける。血が飛び散る。

ゴブリンはスリングを取り落とし、両手で顔を押さえた。


だが意味はない。

数歩よろめく。身体を震わせる。

痙攣するように地面を転がる。


そして。


やがて動かなくなった。

アニタはその様子をじっと見つめる。


まだ息があるかもしれない。

そう確認するように。


数秒後、小さく息を吐いた。

「......終わった。」


辺りに静寂が訪れた。

先ほどまで響いていた怒声も悲鳴もない。

聞こえるのは、どこか遠くで滴る水音だけだった。


洞窟の冷たい空気が流れる。

元から充満していた悪臭に、今度は新たな匂いが混じっていた。


血だ。

鉄錆にも似た生臭さが鼻を刺す。


エドは槍を構えたまま耳を澄ませた。

呼吸を整えながら、周囲へ意識を向ける。


奥から足音は聞こえない。

岩陰に潜む気配もない。

アニタも目を閉じたまま洞窟の奥へ意識を向けていたが、やがて小さく首を振った。


追撃は無い。

エドはゆっくりと息を吐いた。


制圧。

それだけの言葉で片付ければ簡単だ。

だが実際には、ほんの数秒前まで命のやり取りをしていた。


アイリーンが飛び出してから、わずか数秒。


それだけの時間で全てが終わっていた。

あ!!!!!!!!!!!!!!

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