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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

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57話 ゴブリン2

励みになるのでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええブックマークと評価をお願いします。

洞窟の中は薄暗かった。

岩壁のあちこちに生えたヒカリゴケが、淡い青白い光を放っている。

だが、その光だけでは奥までは照らせない。


数歩先から先は薄闇に沈み、何が潜んでいるのか判然としなかった。


外とは違う、洞窟特有の冷たい空気が頬を撫でる。

どこかで水滴が落ちる音がした。


湿った岩の匂い。

そして、それに混じる強烈な悪臭。


糞尿。

腐敗した食べ残し。

長く掃除されていない獣の巣穴。


鼻を突くような匂いが、この場所がゴブリンの住処であることを嫌でも伝えてくる。

「くさい。」


アニタが顔をしかめ、小さく呟いた。

エドも同感だった。


思わず鼻をつまみたくなるような臭気だ。

三人は慎重に奥へ進む。


歩くのは洞窟の中央ではない。壁際だ。

できる限り岩壁に沿うようにして足を運ぶ。

投石などを受けた場合、中央にいるより狙われにくい。


光源は使わない。松明もランタンもない。

明かりを灯せば周囲は見やすくなる。

だが同時に、自分たちの居場所を教えることにもなる。


暗闇の中では光そのものが目印だ。

だからこそ、この薄暗さに目を慣らさなければならない。


ゴブリンは元々こうした環境で暮らしている。

暗闇に強い目を持つと聞く。

こちらが見えていない相手から一方的に狙われるのは避けたかった。


三人は足音を殺しながら進む。


視線は前だけではない。

左右の壁。天井。足元。

物陰の一つひとつを警戒する。


耳を澄ませる。

気配を探る。

不意打ちを受けないよう慎重に。


一歩ずつ、洞窟の奥へと進んでいった。


しばらく進んだところで、アニタが不意に足を止めた。


「待って。」

声は小さい。

だが、その一言だけでエドもアイリーンも足を止める。


アニタは洞窟の奥を見つめたまま言った。

「この先、行き止まりみたい。」


エドは目を細める。だが、何も見えない。

ヒカリゴケの光は弱く、その先は暗闇に沈んでいる。

「もう少し先だけど、まっすぐ行ったら行き止まり。」


アニタは続けた。

「何もいないみたい。」


「でも一本道だったよね?」

アイリーンが首を傾げる。

洞窟へ入ってから分かれ道らしいものは見当たらなかった。


アニタは首を横へ振る。

「こっち。」


そう言って反対側の壁を指差した。

エドとアイリーンはそちらを見る。

だが、そこには何もない。ただの岩壁だ。


「道があるよ。」

アニタは当然のように言った。

エドは目を凝らす。道がある。そう思い込むように意識して見つめる。


すると――。


壁だと思っていた輪郭が、少しずつ曖昧になった。

岩肌の陰影が不自然に揺らぐ。その奥。

薄闇の向こうへ続く空間がある。


「あっ。」

アイリーンが小さく声を漏らした。

ようやく気付いたのだろう。


「いやぁ......。」

呆れたように頭を掻く。


「なんでこれが分かるかねぇ。」

アニタは首を傾げた。

本人にとっては見えて当然なのかもしれない。


「こっちには気配があります。」

そう言って隠し通路の先を見る。


「たぶん、まっすぐ行ったら後ろから襲われてました。」

エドは思わず暗闇の奥へ視線を向けた。


なるほど、どういうことか。

行き止まりへ誘導し、引き返すところを背後から襲う。

単純だが効果的な罠だった。


ゴブリンは弱い。少なくとも一対一なら、大人の人間が負けることはまずない。

背丈は子供ほどしかない。武器も粗末だ。

だが、それだけだ。


子供ほどの大きさの獣が。

こちらを本気で殺そうとし。

罠を張り、待ち伏せし、群れで襲い掛かってくる。


しかも腕力は人間の子供など比較にならない。

だからこそ危険なのだ。


ゴブリンを侮った者から死んでいく。


「じゃあ、きっとゴブリンシャーマンもそっちだね。」

エドは隠し通路の奥を見つめながら言った。


闇魔法。

その言葉を思い出すだけで厄介さが伝わってくる。

入口を隠し、存在を誤認させる魔法。


そして何より。

「油断していたとはいえ、アニタから物を盗むほどの使い手だ。」


エドは小さく息を吐く。

アニタの感知能力は異常だと、つい先ほどアイリーンも言っていた。


そのアニタの目を掻い潜り、荷物を奪った相手。

警戒しない理由がなかった。

アイリーンも真剣な表情でうなずく。


「そうだね。」

軽口の消えた声だった。


「アニタちゃん、距離は?」

尋ねられたアニタは目を閉じる。


意識を洞窟の奥へ伸ばすように。

数秒後、ゆっくりと答えた。

「そんなに近くはないです。」


細い指が通路の奥を指す。

「道も狭くなってます。」


その言葉にアイリーンが周囲を見回した。

確かに、人が二人並べば肩が触れそうな幅しかない。

天井も低い。弓を引くには窮屈だ。


「遠距離武器は難しいと思います。」

アニタは続ける。


「でも、その先。」

少しだけ眉を寄せた。


「開けた場所があります。」

「開けた場所?」

「うん。」


頷く。

「そこに何体かいます。」


何体。

その言葉に三人の表情が引き締まる。


正確な数は分からない。

だが、待ち伏せされている可能性は高い。


アイリーンは腰の小盾を左腕へ固定する。

革の留め具を締める音が小さく響いた。

右手には短剣。刃を抜き、光の具合を確かめる。


「ここから先は近距離戦だね。」

誰に言うでもなく呟く。


そして振り返った。

「私が前。」


異論を許さない口調だった。

「アニタちゃんは真ん中。索敵に集中。」

「はい。」


「エドくんは後ろ。」

エドも頷く。

「分かりました。」


隊列が決まる。

先頭はアイリーン、中央にアニタ、最後尾をエドが守る。


洞窟の奥から吹く冷たい風が頬を撫でた。

どこか遠くで石が転がる音。


三人は互いに視線を交わした。

言葉はない。

だが、準備はできていた。


アイリーンが短剣を握り直す。


そして。


一行は隠し通路の奥へと足を踏み入れた。

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