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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
2章 12歳少年エド。アニタの試験付き添い。

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45話 出発3

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「それにしても、エドくんだっけ?」


街道脇の草むらへ視線を向けながら、アイリーンが何気ない調子で口を開く。


「君は村長さんの家の子じゃないみたいだけど、君も試験を受けに行くの?」


歩幅は一定。周囲への警戒も崩していない。

それでも会話を自然に続けられるあたり、旅慣れしているのがよくわかった。


エドが答えるより先に、馬車の荷台からアニタが身を乗り出す。

「いえ、エドは私の試験の付き添いです。」


どこか誇らしげな声だった。


「一人じゃ心細いから、私がお願いしたんですよ。」

「あ、そうなんだ。」


アイリーンは口元を緩める。

「アニタちゃんのナイト様ってことね。若いっていいなー。」

「そ、そんなんじゃ!」


アニタが途端に顔を赤くした。

慌てたように両手をぶんぶん振る。

その反応があまりにも分かりやすくて、アイリーンの笑みがさらに深くなる。


「僕よりアニタの方が全然強いので、ナイトになるにはまだ鍛えないとですね。」

エドは淡々と言った。


事実だった。

身体能力だけなら多少自信はある。だが、魔法込みで考えれば、今のアニタは明らかに強い。

訓練の度に翻弄されてきた記憶が、自然と思い浮かぶ。


「へぇ。」

アイリーンは感心したように眉を上げた。


「女の子に負けちゃうのはよくないなー。」

軽口混じりに行ったあと、ちらりとエドの手元を見る。

「戦い方次第だとは思うけど、エドくんはどんな魔法が得意なの?」


その問いに、エドは少しだけ視線を落とした。

温かみを帯びた風が頬を撫でる。

砂利を踏む音が数歩分続いてから、静かに口を開いた。


「いや、僕は......ちょっと前に急病で。そこから全く魔法が使えないんですよ。魔力すら感じなくなってしまって。」


棒を握る手にわずかに力が入る。

アイリーンの足が、ほんの僅かに止まりかけた。

「魔力を感じない......?」


驚きが滲む。この世界でそれは極めて異常なことだった。

魔法が苦手な者はいる。才能にも差がある。

だが、感じないというのは別だ。


目が見えないや、耳が聞こえない、と言われるのに近い。

アイリーンは数秒だけ言葉を探すように黙り込み、それから慎重に口を開いた。


「そっか、大変なんだね。」

同情しすぎないように。

腫れ物に触れるようにもならないように。


そんな配慮が伝わる声音だった。

「まあ、もう慣れましたよ。」


エドは肩を竦めつつも重くならないような声音で言った。


「魔法だって、使えないなら使えないなりにやれば、暮らしには不便しませんし。」

それは強がりでもあり、本心でもあった。

できないものを嘆き続けても仕方ない。


無いなら無いなりにやる。


それが今のエドの生き方だった。


「そういうもんかねー。」

アイリーンは苦笑しながら頭を掻く。


「でも、それでその棒を武器に選んだんだ。」

視線が、エドの持つ長棒に向けられる。


「えぇ。一番使い勝手がいいかなと思いまして。」

「渋いけど、なかなかいい判断だと思うよ。」


アイリーンは頷く。


「渋いけど。」

「確かに。」


荷台からアニタが口を挟む。


「エドってば、時々おじいちゃんみたいな雰囲気出すよね。」


そう言って、くすくすと悪戯っぽく笑った。

少し高く上がった陽を受けたその笑顔は、どこか楽しそうだった。


エドは少しだけ眉をひそめる。

「褒めてないよね、それ。」

「うん、半分くらい。」

「半分は褒めてるんだ......。」


思わず呆れたように返すと、アニタはさらに笑う。

そのやり取りを見ていたアイリーンも、つられるように吹き出した。


「でも、エドってすごいんですよ。」

アニタが荷台の上から身を乗り出すように言った。


朝から続いていた緊張も、少しずつほぐれてきたのだろう。

その声音にはいつもの調子が戻り始めていた。


「魔法は使えないけど、全然疲れないし、一瞬でも目を離すとすぐに見失って、探してるうちにどこからともなく攻撃されるんです!」


「えっ」

アイリーンが目を丸くする。


「君、こんなかわいい子に攻撃するのかい!?」

「ち、違いますって!」


アニタが慌てて手を振った。

「私とエドが戦闘訓練してる時の話で......!」


だが、その言葉にアイリーンはさらに驚いた顔になる。

「その年で戦闘訓練なんかしてるのかいっ!?」

「いや、まあ......。」


エドは少し気まずそうに頬を掻いた。

「前に村へやってきた旅の商人さんが、多少の心得を教えてくれたんですよ。」


脳裏に浮かぶのは、深い紺の外套を纏った男――リョーフ。

あの男との出会いが、自分たちを大きく変えた。


「アニタの試験にも役立つだろうから、僕も付き合ってたんですよね。」

「あー、そういうことね。」


アイリーンは納得したように頷いた。

「そっか。エドくんはそんなに動ける子なんだ。」


視線が改めてエドへ向けられる。

細身。年齢相応の体格。一見すれば、どこにでもいる村の少年だ。


だが、歩き方が違う。

無駄な力みがなく、衣服越しにも下半身の筋肉がしっかり鍛えられているのが分かる。


重心移動が静かで、足音が妙に軽い。

街道を歩いているはずなのに、気を抜くと存在感が薄れる。

経験のある冒険者だからこそ、その異質さに気づける。


「アイリーンさんは、冒険者の仕事長いんですか?」


エドが尋ねる。

アイリーンは肩を回しながら笑った。


「長いよー。」

風に揺れる髪を片手で払う。


「成人して家を飛び出してからずっとだからね。」

どこか懐かしむような目だった。


「若い頃は王都を拠点にしてた時期もあったんだよ。」

「王都......。」


アニタが小さく呟く。まだ見ぬ巨大都市。

その響きだけで、胸の奥が少し高鳴る。


「王都はどうでした?」

「んー?」

アイリーンは少し考えるように空を見上げた。


「すごい人もいたし、変な人もいたし、危ない人もいたね。」

「全部いそう。」

エドが即座に返す。


「いるいる。」

アイリーンは笑った。


「冒険者なんて、まともじゃ続かない仕事だからね。」

「それ、護衛対象に言っていいんですか?」

「安心しなって。私は比較的まともな部類だから。」

「比較的なんだ......。」


アニタが苦笑する。

そんな他愛のない会話を交わしながら、一行は街道を進んでいった。

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