42話 王都へ2
励みになるのでブックマークと評価をお願いします。
ラッシア大陸。
四季の巡る、豊かな大地。
広大な森林。幾つもの湖。肥沃な穀倉地帯。
多くの国家と文化が存在し、人々はそれぞれの土地で生きている。
その西側。
深い森と山岳、幾筋もの川に囲まれた場所に、エドたちの村はあった。
小さな村だ。
地図にすら乗っているか怪しいほどの。
だが、村の脇を流れる大河の側にある街道を南に下っていけば、三日ほどで巨大な湖へたどり着く。
さらに、そこから東へ伸びる川沿いの街道を進めば。
四日ほど先に、中央ラッシア大陸最大の国家。
ウルネ王国がある。
そして、その中心。
王都バンダルワン。
幾つもの川と平地に恵まれたその国は、大陸随一の商業と農業を誇っていた。
また、ウルネ王国は学びの国としても知られていた。
王都には国営の学校が存在する。
王都民であれば無償で通うことができ、文字や計算はもちろん、歴史、法律、工芸、農学など、
様々な学問を学べるのだという。
もっとも。
その中でもとくに有名なのは、魔法学科だった。
生活魔法。戦闘魔法。魔法の歴史。
理論。制御。実践。
魔法について専門的に学ぶための特殊な学科。
ウルネ王国は、この魔法教育へ特に力を入れているらしい。
一定以上の才能が認められれば、王都の住民でなくとも特待生として迎え入れられる。
学費も免除されるのだという。
その制度のおかげか。
ウルネ王国の魔法部隊は、大陸でも屈指の強さを誇ると噂されていた。
恐ろしいほど統率され、恐ろしいほど洗練されている、と。
アニタが目指しているのは、その有名な魔法学科の特待生だった。
村長の娘であるアニタは、三姉妹の末っ子だ。
長女はすでに村で嫁いでいるが、次女は王都の学校へ通っている。
魔法学科ではなく普通学科らしいが、現在は寮暮らしをしながら勉強しているらしい。
確か、今年で五年目だと言っていたか。
来年には卒業するのだとか。
もしアニタが無事入学できれば、学科こそ違えど、一年間は同じ学校へ通うことになる。
エドも何度か会ったことはある。
落ち着いた雰囲気の、優しそうな人だった。
突飛な才能があるわけではない。
けれど、何をやらせてもそつがない。
勉強も、会話も、仕事も。
気づけば自然と周囲を助けているような人だった。
たぶん、地頭が良いのだろう。
エドはそんな風に思っていた。
村から街道沿いに進めば、王都へ辿り着くこと自体はできる。
だが、その道のりは遠い。
遠い。
道中には森も山道もある。
野盗が出ない保証はないし、魔獣に遭遇する危険だってある。
少なくとも。
子供だけで気軽に歩けるような旅ではなかった。
だからこそ、長旅をする際には護衛を雇うのが一般的らしい。
村から西へ数日。
街道沿いに進んだ先には、少し大きな町がある。
そこには冒険者ギルドの支部が存在していた。
冒険者ギルド。
世界中へ支部を持つ独立組織。
国家にも、
宗教にも、
特定の勢力にも属さない。
中立を掲げながら活動する巨大な営利団体だ。
その役割は多岐に渡る。
魔物討伐。
護衛依頼。
遺跡や未踏地の調査。
希少資源の発見。
物流支援。
各地の支部は地域社会と密接に結びつき、人々の生活を支えているらしい。
同時に。
危険へ挑み続ける冒険者たちの拠点でもある。
村長はすでに、その隣町の冒険者ギルドへ護衛依頼を出していたのだという。
思えば、これほど長い間村を離れるのは初めてのことだった。
生まれてからずっと、この小さな村で暮らしてきた。
見慣れた森。
見慣れた川。
見慣れた山並み。
季節が巡れば景色は変わる。
だが、その変化すら、エドにとっては当たり前のものだった。
そんな毎日が、ずっと続いていくのだと思っていた。
もちろん、不満があったわけではない。
この村は好きだ。
リラとヴァンスがいて、アニタがいて、顔を合わせれば声をかけてくれる村人たちがいる。
穏やかで、小さいが、ちゃんと人の温度がある村だ。
けれど同時に。
ずっと、憧れてもいた。
村の外を。
旅商人が語る遠い街。
冒険者たちの武勇伝。
地図の向こうに広がる、まだ見ぬ景色。
幼いころから、そういう話を聞くたび胸が高鳴っていた。
冒険。
その言葉には、どうしようもなく惹かれるものがあった。
だからなのか。
王都へ向かうと決まってから、どこか落ち着かなかった。
ただの付き添いだ。
アニタの試験についていくだけ。
すぐにまた、この村へ帰ってくる。
本当の旅というには、あまりにも小さな一歩なのかもしれない。
それでも。
村の外へ出る。
広い世界を見る。
その事実だけで、胸の奥がわずかに熱くなっていた。
これは慧導としての感情なのか。
異世界という未知への興味。
それとも。
エドとして、この世界で育ちながら抱き続けてきた夢なのか。
たぶん、そのどちらでもあるのだろう。
エドは窓の外を見る。
夜風が、静かに木々を揺らしていた。
遠くへ続く街道。
その先には、自分の知らない世界がある。
不安もある。
けれど。
ほんの少しだけ、それ以上に楽しみだった。
エドは小さく息を吐く。
そして。
――ちゃんとやろう。
その春。
二人はまだ、自分たちが何へ踏み込もうとしているのかを知らなかった。
執筆の励みにしたく、ブックマークと↓の☆をclickして作者を応援しよう!
↓☆click!!!




