41話 王都へ
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「ねえお願い!一緒に王都ついてきて!」
アニタは両手を合わせ、ぐいっと身を乗り出してきた。
「いや、別にいいけど。なんでさ。アニタの試験なんだから、僕はいらないだろ?」
「そうなんだけど、やっぱり一人じゃ不安なの!」
アニタはむうっと唇を尖らせる。
「リョーフさんは主席とか言ってたけど、王都の育ちがいい人たちがどれくらい魔法使えるのかわかんないし!」
「別に主席なんか目指さなくても、合格できればいいじゃん。」
「そうなんだけどー!」
アニタはぶんぶんと首を振った。
「一回期待されちゃったんだから、応えたいじゃん!」
エドは思わず苦笑する。
妙なところで負けず嫌いだ。
「まあ、行ってもいいけど。村長さんたちは大丈夫なの?」
「それもちゃんと確認する!だからお願いっ!」
そこまで言ってから、アニタははっと目を丸くした。
「......って、え?来てくれるの!?」
「だから、村長さんがいいって言うなら行くよ。」
エドは肩を竦める。
「僕も王都には行ってみたいし。父さんと母さんには話しておくけど。」
「それなら私からも話するよ!その方がリラさんも安心でしょ!」
「うん。お願いする。」
その夜。
エドは家族と食卓を囲みながら、昼間の話を切り出した。
煮込みの湯気が揺れる。
焼き立てのパンの香りが、狭い家の中へ広がっていた。
「もうすぐアニタが、王都の魔法学校の入学試験で王都に行くんだって。」
「あら、もうそんな時期なのね。」
リラが感心したように目を細める。
「確か、魔法特待生になるって話だったか?」
ヴァンスがスープを口へ運びながら言った。
「特待生になれるのは、試験でいい結果だった場合だよ。」
エドはパンを千切りながら続ける。
「アニタは昔から魔法の才能が目に見えてあったから、なれるかもしれないって話。」
「ほう。」
ヴァンスは感心したように頷いた。
「アニタちゃんはやるなぁ!」
ガハハ、と豪快に笑う。
その笑い声を聞きながら、エドは何でもないように続けた。
「で、アニタが王都までついてきてほしいって言うんだ。」
「へえ。」
「まあ、断るつもりだけど。」
その瞬間。リラとヴァンスの動きがぴたりと止まった。
「え? 断るの?」
リラが目を瞬かせる。
ヴァンスも意外そうに眉を上げた。
「てっきり最近ずっと一緒に遊んでたし、行きたいって言うのかと思ったが。」
「いや、だって。」
エドは肩を竦める。
「アニタの試験だからね。僕が行っても意味ないでしょ。」
「そう......なの。」
リラはどこか安堵したような、それでいて困ったような、複雑な顔をした。
だが。
「エド!」
ヴァンスが突然、机を叩いた。
「お前はそれでも男かっ!」
「えぇ......。」
エドは思わず顔をしかめる。
ヴァンスはそんなこと構わず、びしりと指を突きつけた。
「いいか!アニタちゃんは困って、お前にお願いしてきたんだろう!」
「まあ、そうだけど。」
「なら、お前が王都へ行く理由はそれだけで十分だ!」
ヴァンスは力強く言い切った。
「家長命令だ! お前も王都へ行って、アニタちゃんの合格を応援してこい!」
熱弁するヴァンスを前に、エドはぽかんと瞬きを繰り返す。
その隣で。
リラは呆れたように額へ手を当てていた。
エドは父親の性格を利用していた。
数か月前、エドは誘拐事件へ巻き込まれている。
リラからすれば、そんなことがあったばかりの息子を、村から何日も離れた王都へ行かせたいはずがない。
普通に「王都へ行きたい」と言えば、反対される可能性は高かった。
だから、回りくどいやり方を選んだ。
アニタが困っている。
エドはそれを淡々と断る。
その形にすれば。
きっとヴァンスは口を挟む。
そう判断していた。
実際、その通りになった。
エドはそっとスープへ視線を落とす。
両親相手に、こんな打算を働かせている。
そのことに、ほんの少しだけ嫌気が差した。
翌朝。
まだ朝露の残る時間に、アニタが勢いよく家へやってきた。
「リラさん! お願いがあるの!」
扉を開けた瞬間の勢いのまま頭を下げるアニタに、リラは思わずくすりと笑う。
「エドから聞いたわよ。王都にこの子を連れて行きたいんでしょう?」
そう言って、隣に立つエドへ軽く視線を向けた。
「アニタちゃん、エドをよろしくね。」
あまりに話が早くて、アニタはぱちぱちと目を瞬かせる。
「えっ、エドもう話したの!?」
「まあね。」
エドが肩を竦めると、アニタは慌てたように再びリラへ向き直った。
「リラさん、前はごめんなさい。」
表情が真剣になる。
「エドを守り切れなくて。」
小さく拳を握る。
「でも、もう大丈夫! 今度は絶対にエドを帰しますから!」
そう言って、深々と頭を下げた。
その姿を見つめたまま、リラは静かに口を開く。
「アニタちゃん。大丈夫よ。」
優しい声だった。
「頭を上げて。」
アニタがそっと顔を上げる。
そしてリラは、今度はエドへ視線を向けた。
「エド。」
真っすぐだった。
逃がさないように。
言葉を刻み込むように。
「あなたが、アニタちゃんを守れるように。しっかりね。」
何かを決意した母親の目だった。
エドは思わず、その視線から目を逸らせなかった。
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