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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
1章 11歳少年エド。魔法を失う。魔法が無いなら無いなりに。

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36話 戦闘訓練2

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リョーフは足元に転がっていた拳大の石を拾い上げた。


濡れた石を掌に載せ、軽く重さを確かめるように、二、三度転がす。

何でもない仕草だったが、その手つきには妙な慣れがあった。


「じゃあ、まず土からみせようか。」

そう言って、川の方へ石を放った。


山なりに飛んだ石が、水面へ落ちる――その直前だった。


パン、と乾いた音が弾ける。


ひとつだった石が空中で砕け散り、十数個の破片になって周囲へ飛び散った。

細かな石礫が水面を叩き、ばしゃばしゃと連続した音が響く。


アニタが目を見開く。

リョーフは何でもないことのように言った。


「土魔法で石の内部に力を加えて弾けさせるんだ。投げた勢いはそのまま残るから、広範囲に散る。回避が難しくなる。」


エドは目を細めた。


一つの弾ではなく、無数の小さな球が面で襲う武器。

狙いが多少甘くても当たる。避けづらい。

距離が近ければ、それだけで致命傷になる。


――散弾銃。


なるほど、とエドは思った。


石を投げるだけなら誰でもできる。

だが、こうして魔法を重ねるだけで、一気に殺傷力が変わる。


「では次。エドくん。右腕を出してくれるかい。」


あまりにも自然な口調だった。

まるで、そこにある木の枝を取ってほしいという程度の軽さで。

そのせいか、エドは考えるより先に右腕を差し出していた。


リョーフの指が手首をつかむ。


骨ばった指だったが、不思議と力は感じない。

ただ、逃がさないという確かな感触だけがあった。


「火はこう。」


次の瞬間だった。

ぼっ、と音を立てて、掴まれた手首から炎が上がった。


「うわっ!」

思わず声が漏れる。驚きが先だった。

何が起きたのか理解するより早く、赤い火が自分の腕を包んでいるのが見えた。


そして一拍遅れて――熱が来た。


熱い、というより、焼ける。

皮膚の表面だけではない。肉の奥へ針のような熱が入り込み、じわりと神経を刺してくる。

エドが身を引こうとした瞬間、リョーフが手を離した。


同時に、炎もふっと消える。

残ったのは、まだ腕の内側に残る焼けるような感覚だけだった。


エドは思わず右手首を押さえる。

火傷はない。皮膚も焼けていない。

だが、確かに焼かれた感覚だけは残っていた。


リョーフは淡々と言った。

「火は、相手を怯ませる使い方の方が多いかな。」


そう言いながら、濡れた石を足先で転がす。

「特に接近された時だ。今みたいに直接触れて使えると効果的だよ。」


エドはまだ腕の痛みが残る中で、その言葉を聞いていた。

「炎の玉を飛ばして喜んでいる愚か者も居るけどね。」


さらりと言った。

「着弾しても燃え広がるとは限らないし、威力そのものも高くない。だったら直接対象に熱を加えて燃やしたほうが確実だ。」


その口調は穏やかだった。

穏やかなまま、人を燃やす話をしている。


「何より、自分が燃えるって相当怖いからね。」

その言葉に、エドはまだ熱の残る腕を見た。


火傷はない。傷もない。

それでも、炎が自分の身体を包んだ光景だけは鮮明に残っている。

確かに。あれが一瞬でなく、数秒でも続いていたらと思うだけで背筋が冷えた。


「あと、火に限らずだけど、対象が近いほど魔法の精度は高くなる。」

「精度......?」


アニタが小さく首を傾げる。

「そう。遠くに飛ばすほど制御は雑になる。狙いも、威力も、作用もね。」


リョーフは当然のことのように言った。

「だから近づかれたら危険。そう思わせることが大事なんだ。」


その言葉に、エドは少し理解した。

火魔法そのものより、火を使える相手に近づくこと自体を躊躇わせる。

それだけで間合いが生まれる。牽制になる。判断を鈍らせられる。


「そして、実はさっき闇魔法も使っていた。」


エドは顔を上げた。

「......え?」


腕の痛みで意識がそちらへ向いていたせいで、一瞬意味がわからなかった。

リョーフは穏やかに続ける。


「エドくん。君、無警戒に腕を差し出しただろう?」

その言葉に、エドは言葉を失った。


確かにそうだった。言われるまま、何も考えず右腕を出していた。

だが、本来ならそんなことはしない。理由を聞く。

少なくとも、何をするのか確認くらいはしたはずだ。


リョーフは指先を軽く揺らした。

「闇魔法はいろいろできるけど、一番近い解釈は精神干渉かな。」


「対象の魔力に干渉して、認識を操作する。」

エドは息を止めた。


「さっき行ったのは、私という存在の認識を薄くする操作だ。」

リョーフは自分の胸を軽くさす。


「風景の一部みたいなものだと思わせた。そこにいて当然のもの。警戒する必要のないもの、ってね。」

エドは思わず目を見開く。

だからだった。不自然だと思わなかった。疑問すら浮かばなかった。


木や石、流れる川と同じように。

そこにいるリョーフも、同じように『ただそこにあるもの』として処理していた。


「相手に直接使うこともあるけど、自分に使うことの方が多いかな。」

リョーフは続けて言う。


「気配を薄くしたり、視線を逸らさせたり。」

アニタが小さく息を呑む。

リョーフはそこで、少しだけ真顔になった。


「それでも六属性の中では一番扱いが難しい。」

穏やかな声色のまま、断言する。


「目に見えないから理解しづらいし、効果も曖昧になりやすい。使う本人が仕組みを理解していないと、ただ魔力を垂れ流すだけになる。」


火より恐ろしいと感じた。

気づかないまま操作される。それがどれほど危険か、想像するだけで背筋が冷えた。

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