27話 試験
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小屋の裏手を少し進んだ先に、ぽっかりと木々が途切れた場所があった。
背の低い草が広がり、踏み固められた地面が円形に露出している。
周囲には切り株がいくつも並び、端には薪割り用らしい丸太まで摘まれていた。
リョーフは開けた場所の中央まで歩いていくと、足元の土を靴先でなぞり、大きな円を描いた。
人が一人、ゆったりと寝ころべる程度の大きさだ。
そして、中央へ胡坐をかくように腰を下ろす。
「では、まず最初に君たちの力を見よう。」
相変わらず穏やかな声だった。
「二人同時で構わない。私をこの円の外へ出してみなさい。」
アニタがきょとんと目を瞬かせた。
「え?そんなことでいいの?」
その顔には、どこか拍子抜けしたような色が浮かんでいる。
辛く厳しい修行を想像していたのだろう。
一方で、エドはわずかに目を細めた。
「手段は?」
問い返すと、リョーフは間を置かずに答える。
「問わない。」
その言葉が耳に届いた瞬間――
エドの足が地面を強く蹴る。
乾いた土が弾け、踏み込んだ勢いのまま一直線に距離を詰める。
胡坐をかいたまま、リョーフは動かない。
その無防備とも思える顔面へ向け、エドは腰を捻った。
勢いを乗せた脚が、風を裂く。
容赦なく、一直線に振り抜かれる。
――バシッ!!
鋭い衝突音が響いた。
次の瞬間。
「っ......!!」
膝から脛にかけて、焼けるような激痛が走る。
蹴りは止められていない。
リョーフは、避けもしなかった。
額で受けたのだ。
「エドっ!」
間髪入れず、アニタの声が響く。
轟、と空気が唸った。
突風。
いや、叩きつけるような暴風だった。
草が一斉になぎ倒され、土埃が舞い上がる。
木々が大きく軋み、枝葉が激しく揺れた。
巻き込まれたエドの体が、踏ん張る間もなく横へ弾き飛ばされる。
「うわっ!」
地面を転がり、数歩分離れた場所でようやく止まる。
だが、その暴風の中心にいるはずのリョーフは、微動だにしていなかった。
胡坐を崩さぬまま、ただ左手を地面へ添えている。
まるで、大地そのものを掴んでいるかのように。
その姿を見た瞬間、エドは力任せにどうにかできる相手ではないと判断した。
エドは痛む脚を気にしつつもアニタの側へ寄る。
「どうやら、力づくでは難しいみたいだね。」
小声でそう告げる。
助走をつけ、全体重を乗せた蹴りだった。
子供である以上、エドの体重そのものは大人に及ばない。
それでも、まともに受ければ無事では済まない威力のはずだ。
だというのに。
リョーフはそれを額で受け止めた。
そして、アニタの風魔法。
あれも決して手加減などしていない。
つい最近、崖際で大人二人をまとめて吹き飛ばしたほどの威力だ。
普通なら立っていることすら難しい。
それを、リョーフは左手を地面へ添えただけで耐えきっている。
エドは小さく息を呑んだ。
単純な身体能力が、根本から違う。
エドはアニタへ小声で何かを耳打ちした。
アニタが目を丸くする。
だが、すぐに小さく頷いた。
エドは周囲へ視線を走らせ、足元に転がっていた拳大の石を拾い上げる。
そして、リョーフから少し距離を取った。
狙うのは正面。
大きく振りかぶり、全身を使って石を投げ放つ。
直後。
アニタの風が吹いた。
追い風を受けた石が、一気に加速する。
空気を裂きながら、音のような速度でリョーフへ迫った。
――パシッ!!
乾いた音。
次の瞬間にはリョーフの右手が石を掴んでいた。
まるで、飛んできた果実でも受け取るかのような気軽さで。
「多分、今のが僕たちに出せる精一杯の威力だったんだけどな。」
エドは小さく息を吐きながら呟いた。
蹴り。
風魔法。
加速させた投石。
思いつく限り、まともに通りそうな手を打ったつもりだった。
「うん。」
リョーフは掴んだ石を軽く弄びながら頷く。
「子どもにしては、かなりいい威力だったと思うよ。」
その口調は軽い。
まるで近所の子供を褒めるような気安さだった。
「ちょっとその辺を冒険するくらいなら、十分問題ないんじゃないかな?」
「でも、あなたには通じない。」
エドは痛む脚を軽くさすりながら言った。
額へたたき込んだ感触はいまだに膝へ鈍く残っている。
風魔法も、それを使った投石も通じなかった。
まともに押して動く相手ではないようだ。
「そうだね。」
リョーフは掴んだ石を軽く放り上げ、ぱしりと再び受け止める。
その表情には、まだ余裕しかなかった。
「もうおしまいにするかい?」
「まさか。」
エドは即座に否定した。
そのままアニタの耳元へ身を寄せ、小さく何かを囁く。
途端に、アニタの肩がびくりと跳ねた。
「えっ!? い、いいの?」
思わず漏れた声には、驚きと戸惑いが滲んでいる。
エドはそんなアニタを見上げ、静かに頷いた。
「うん。アニタなら、ちゃんとできるよ。」
その声に迷いは無い。
「もう心配はかけたくないからね。」
一瞬だけ、アニタの表情が揺れる。
急襲。監禁。森。そして崖。
血の気が引いた、あの瞬間。
いくつもの記憶が脳裏をかすめたのかもしれない。
「......うん。」
小さく息を呑み込み、アニタは頷く。
「エドがいいなら、いいけど......。」
「じゃあ、よろしく頼むよ。」
「わかった。」
返事と同時に、アニタは勢いよく駆け出した。
草を踏みしめる音が遠ざかっていく。
小さな背中は、そのまま木々の向こうへ消えた。
静けさが戻る。
風が草を揺らした。
その中で、エドはゆっくりとリョーフへ歩み寄る。
一歩ずつ。
焦る様子もなく。
円の縁を跨ぎ、その正面まで来ると足を止めた。
リョーフは何も言わない。
ただ、静かにエドを見上げている。
「じゃあ、本番はここからで。」
エドの口元が、にやりと歪む。
次の瞬間。
エドはその場へ、すとんと腰を下ろした。
まるで、これから世間話でも始めるかのように。
あんまり詰めると読みにくいのかなと思って気持ち改行を多めにしてみました。これで読みやすくなったかしら?でも前の方がいいのかしら?個人的には今までの書き方の方がいいかなって思ったんですがどうでしょうかね。
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