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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
1章 11歳少年エド。魔法を失う。魔法が無いなら無いなりに。

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20話 遭遇2

励みになるのでブックマークと評価をお願いします。

男は、旅の商人のような風体をしていた。


落ち着いた色合いの外套は、質の良い布で仕立てられているのが一目でわかる。

深い紺を基調にしたそれは、森の色に溶け込みながらも、不思議と埋もれない輪郭を持っていた。


裾や袖口にほつれはなく、泥の跳ねもほとんど見当たらない。

長く旅をしているものにしては、あまりに整いすぎている。


内側に覗く衣服もまた簡素でありながら上質で、動きやすさと無駄のなさが徹底されていた。

装飾はほとんどない。だが、その何も足されていないこと自体が妙な完成度を感じさせる。


背は高すぎず低すぎず、体格も特別に目を引くものではない。

だが、まっすぐに立つその姿勢には、一切の崩れが無かった。


力みは無いのに、緩みもない。

ただそこに立っているだけで、余計なものが削ぎ落とされた印象を受ける。


顔立ちは整っているが、印象に強く残るものではない。

年齢も判然としなかった。三十代とも四十代とも取れる。

穏やかな表情を浮かべているはずなのに、どこか温度が薄い。


そして、目。


男の視線は、まっすぐこちらに向けられていた。

だが、それは見ているというよりも、測っているように感じた。


アニタが小さく息を呑んだ。


その音は、かすかだった。

けれど、すぐ隣にいたエドにははっきりと伝わる。


握っていた手が、強く引かれる。

振り向けば、アニタの顔はわずかに青ざめていた。


「......だめ。」


かすれた声だった。

理由はわからない。だが、本能が拒絶しているような響きがある。


男は、その様子を見ていた。


わずかに目を細める。

それは驚きでも不快でもなく、ただ観察の延長のような仕草だった。


「なるほど。」


静かに、そう呟く。

その声は穏やかで、抑揚も強くない。

けれど、不思議と耳に残る響きを持っていた。


エドは、その瞬間になってようやく自らの浅慮を悟った。


自分たちは誘拐され、森の中で拘束されていた。

あの状況に意味がないはずがない。


待っていたのだ。誰かを。


そして、その誰かが森の中に現れなかった以上、

合流地点が森の外に設定されている可能性は考慮して然るべきだった。

それなのに警戒もせず、確認もせず、ただ森を抜けることだけを優先した。


愚かだ。


森を出るという選択そのものが、敵の手の内に飛び込む行為であった可能性に、ようやく思い至る。

視線の先に立つ男へ意識を絞る。


――敵だ。


確信に近い直感だった。理由を並べるまでもない。

ただ一つ、はっきりしているのは。


この場で気を緩めれば終わる。ということだけだった。


――なるほど。


男はそう言った。短い一言。だが、その声音にはすでに結論へ至ったものの響きがあった。

エドは視線をそらさないまま思考を巡らせる。


男の風貌は商人に見える。この状況、この場所。

――奴隷商人。

誘拐犯が待っていた『引き渡し先』。


男はこちらを見ていた。いや、見ているというより値踏みするような視線。

特にアニタへ向けられる視線は、あまりにも露骨だった。

その外見を確かめるように、細部をなぞるように観察している。


知っている。


少なくとも情報は持っている。

風貌や年頃くらいは事前に共有されていてもおかしくない。

その商品が、予定とは異なる形で目の前に現れた。


誘拐犯に連れられてではなく、見知らぬ子供と二人で、森を抜けて。

だからこその『なるほど。』か。


この男は一瞬で状況を把握した。

自分たちが脱走したこと、その過程がただの偶然ではないこと。

そこまで読み取っている可能性が高い。


――切れる。


内心で短く評価する。

同時に理解する。


この相手に、小細工は通じない。


              ◇◇◇

男は素直に感心していた。


約束の時刻を過ぎても取引相手が現れる気配がない。

何かが起きたとは考えていたが、まさか、子供が二人だけで森からでてくるとは。


視線を細める。

目の前の光景を改めて観察する。


一人はあからさまに怯えている。空気の重さに当てられているのだろう。

事前に聞いていた特徴とも一致する。

こちらが本命か。


問題は、もう一人。

男は、わずかに興味を深めた。


視線をそらさない。呼吸も乱れていない。

この状況でなお、思考を止めていない顔だ。


――妙だな。


本来であれば、商品は女子が二人のはずだった。


だが、そんな情報に価値はもう無い。

重要なのは、今、目の前にある事実だ。


取引相手は現れず、商品だけが現れた。

ならば、何らかの理由であの連中は排除されたと見るのが自然か。


そして、その過程にこの子供たちが関与している可能性は高い。


――たかが、十五にも満たない年頃で。


内心でわずかに口元が緩む。面白い。

怯えている方は感覚が鋭い。自分の魔力に気づき、正しく恐れている。

それだけでも十分に価値がある。


――だが。


視線を受け止めている少年。

こちらの一言にどこまで意味を見出したのだろうか。

どこまで状況を読み取っているのだろうか。


――そういうことか。


先ほど漏れた言葉の意味を改めて反芻する。

この場に至るまでの流れを組み立てたのは恐らくあちらだ。


誘拐を理解し、状況を見抜き、脱出し、森を抜け、

――なお、思考を止めていない。


想像以上だ。


ここで力ずくで回収することは難しくない。

むしろ容易い。

だが、ただの商品として消費するにはあまりにも惜しい。



男は静かに結論を出す。

投資対象としては十分だ。

ならば。


ここは一つ、恩を売っておくとしよう。


前回地の文がかなり雑でしたね。もうしわけないと思いつつブックマークと評価ください。↓☆click!!

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