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チートが無いなら無いなりに  作者: 古賀仁成
1章 11歳少年エド。魔法を失う。魔法が無いなら無いなりに。

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13話 動悸

励みになるのでブックマークと評価をお願いします。

淡い朝の光が、森の梢をゆっくりと染め始めていた。

夜の名残を宿した薄闇の中、エドとアニタは湿った土を蹴り、枝葉をかき分けるようにして駆けていく。


背後に残した小さな足音はもう聞こえない。

ルナが選んだ道は木々の奥深くへと消え、その気配さえも森に吞み込まれていた。

ただ、立ち止まって振り返る余裕はない。

冷たい朝の空気が肺を刺し、荒い呼吸が白くにじむ。

足元には露に濡れた草が絡みつき、踏みしめるたびにかすかな音を立てた。


空はわずかに白み始めている。

夜と朝の狭間。世界が静かに目覚めるその時刻にもかかわらず、

二人の胸には追われる者だけが知る緊張が張り詰めていた。


「アニタ、大丈夫?」

足を止めることなく、エドは隣を走るアニタに声をかけた。


「はあっ、はあっ......だ、大丈夫。」

答える声はかすかに震えていた。

走り続けているせいだけではない。

張り詰めた緊張と、先の見えない不安が、その小さな体を強張らせている。


細い肩は上下に大きく揺れ、握り返してくる手にも、かすかな力みがあった。

それでも彼女は、決して立ち止まろうとはしない。


「すまない。でも、まだ足は止められない。」


エドもまた、息を切らしていた。

冷たい空気が喉を刺し、言葉を紡ぐたびに胸が焼けるように痛む。

それでも、今伝えなければならない。


この先を生き延びるために。


「そのまま聞いてほしい。」


一拍置いて、エドは言った。

「このまま走り続けても、たぶん追いつかれる。」


その言葉は、朝の森の静けさを裂くように重く落ちた。


アニタの息が、一瞬だけ乱れる。

だが、彼女は黙ってエドを見上げ、小さくうなずいた。

怖くないはずがない。それでも、彼女はエドの言葉を受け止めようとしていた。


「相手はどうやらこの森に慣れているみたいだ。逃げるだけじゃ、いつか必ず捕まる。」


枝を払い、露を蹴散らしながら、エドは前だけを見据える。

胸は激しく上下し、肺は焼けるように熱い。


「じゃ、じゃあどうするの?」

アニタの不安に揺れる声。

けれど、その問いにはエドを信じたいという強い意志も滲んでいた。


「どこかで追跡を断つしかない。」


エドは短く息を吸い込む。

喉がひりつき、言葉を吐き出すだけでも苦しい。


「方法は、一つだけある。」

その言葉に、アニタは息をのんだ。


「少し。いや、かなり危険だ。それでも、やるしかない。」

木々の間を縫うように走りながら、エドはようやくアニタへ視線を向ける。


「アニタ。僕を信じてついてきてくれるか?」

アニタは荒い呼吸の合間に、強くうなずいた。


「うん、信じる!」

その答えに、エドもまた小さくうなずく。

朝露の向こうに、二手へ分かれる獣道がぼんやりと浮かび上がってきた。


「あそこだ、右に行こう。」

「え?」


アニタの声に戸惑いが混じる。

左へ進めば村へ続く。逃げるならそちらのはずだ。


だが、エドは迷わない。そのまま右の道へと駆け込んでいく。

一瞬だけ立ち尽くしかけたアニタだったが、すぐに唇を引き結んだ。

信じると決めたのだ。今さら疑うつもりはない。


「待って、エド!」

小さな叫びとともに、アニタもまた右の道へ飛び込む。

朝露に包まれた獣道を、二人はさらに奥へと駆けていった。


「これからやることを、手短に話すよ。」


エドは前を向いたまま言った。

息は荒く、それでも声には揺らぎがない。


アニタは黙ってうなずく。


エドは走りながら、途切れがちな呼吸の合間に作戦を伝えた。

その内容を聞くにつれ、アニタの目は少しずつ大きく見開かれていく。


「そ、そんなこと......」

思わず漏れた声には、不安と驚きが入り混じっていた。


「怖いと思う。でも、成功すれば追手はもう追ってこられない。」

エドは短く言い切る。

「できるね?」


アニタは一瞬だけ唇を噛み、それから力強くうなずいた。

「......うん。やる。」


その返事を聞き、エドは前を見据えたまま小さく笑った。

「ありがとう。あとは、僕の合図を待って。」


右へ折れた獣道は、ほどなくして緩やかな上り坂へと変わっていった。

踏みしめる土は乾き、露に濡れた草の感触も次第に薄れていく。


傾斜は少しずつきつくなり、足をあげるたびに太ももが悲鳴を上げた。

息はさらに荒くなり、胸の奥が焼けるように熱い。


それでも、二人は足を止めない。

木々の間から差し込む朝の光は次第に強さを増し、長く伸びた影が揺れながら後ろへ流れていく。

やがて道が大きく曲がったところで、エドはほんの一瞬だけ背後を振り返った。


木立のはるか下。

薄く漂う朝靄の向こう。

かすかに揺れる影が見える。


人影――二つ。


まだ距離はある。

だが、確実にこちらを追ってきていた。


「――来た。」


エドは低くつぶやく。

その声に、アニタも思わず振り返る。


遠く小さくしか見えないはずなのに、追手の存在は妙にはっきりと感じられた。

迫り来る気配が、背筋を冷たく撫でていく。


「急ごう。時間はあまりない。」


エドは再び前を向き、足に力を込めた。


坂道の先――

そこに、この追跡を終わらせるための場所が待っている。

頑張って更新をつづけようとおもってますので、ブックマークと評価をいただきたくお願い申し上げます

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