第985話 信仰を捧げよ
正直かなり驚いた。
太陽神はアズによって打ち倒され、そのまま消滅したと思っていたからだ。
まさかペンダントの中に残っていたとは。
圧倒的な力を持ち、薪と評し生贄として世界を滅ぼそうと多くの犠牲者を出した神。
俺やデイアンクル王国もその対象だった。
しかし同時に、アズもいないこの状態を打破できるのもこいつしかいない。
(……私と話したいなら太陽の出ている時間にしろ。無駄な力を消耗させるな)
一方的な通知の後、繋がりが切れる感じがして何をやっても反応しなくなった。
ここはどこで、お前は俺に何をした?
聞きたいことはいくらでもあったし、おそらく何か知っているはずだという思いもある。
だが、相手が答えないのではどうしようもない。
仕方なく横になり、眠りに就くことにした。
次の日の朝、目が覚めて朝食を食べたらなるべく目立たない仕事を班長のクリクスに融通してもらう。
塩や肉を提供したり、仕事の改善を通して負荷を減らしたこともあってこのくらいは楽なものだった。
やはり恩は売るもの、貸しは貸すものだ。
人目に付かない場所で仕事をしながら再びネックレスに問いかける。
傍から見るとかなり怪しいが仕方ない。
(ペンダントが日光に当たるようにしろ。そうだ)
ようやく聞こえてきた声に従い、太陽神のペンダントをギラギラと刺すような日差しに晒す。
(それじゃあ話してもらおうか)
(ふん。まあいいだろう)
不遜としか言いようのない態度だが、しかし本来ならば俺など無視して相手にするはずがない。
ということは、アズに負けたことで俺すら無視できないほど弱っているのだ。
そうでなければこんな回りくどいことはせず、さっさとペンダントから出ればいい。
(貴様……なにかよからぬことを考えているな? 言っておくが、お前の生殺与奪の権利は私が握っているのも同然だぞ)
せめてもの意思表示か、ペンダントが熱を持つ。
火傷するほどの熱さだが、素肌に触れなければどうということはない。
まずは一番聞きたいことを聞く。
(……ここはどこだ? お前が俺に何かしたんだろう? こんな場所は知らないし、元居た場所に戻してくれ)
(まるで聞けばなんでも教えてくれると思っている子供のようだな)
(お前だってずっとここに居たいわけじゃないんだろう? 俺に何かあれば都合が悪いから助けたんだろうし)
図星だったのか、太陽神が黙る。
意外と人間っぽい神様だな。
助けてくれたのは事実だ。礼は言っておくか。
(昨日は助かったよ、ありがとう)
(こんな人間に頼らなければならないなんて恥だな。……何度も聞かれるのは面倒だ。最初から話してやるからお行儀よく聞いていろ)
心底嫌そうな感じで太陽神が話し始めた。
(お前がここに来る前、何をしたか覚えているか?)
(突然部屋が崩れて、ミーリアを庇ったのは覚えている)
(そうだ。その時、アレの一部がお前たちのいた場所に飛来した)
アレと言った瞬間だけ、恐ろしい敵意を滲ませる。
(アイン・ソフ・オウル。無限の光。自らの繁栄のために全てを飲み込む大食らい。それがお前たちが倒そうとしていた神だ)
アイン・ソフ・オウル。
聞いたことのない名前だ。
どこか神聖さを感じる。
(私が全てを破壊する神なら、アレは無限に繁殖する神だ。かつて別の世界で遭遇した時は永遠に等しい時間を争った。しかしアレはいわば生命という概念そのもの。滅ぼしきれずにその世界は全て食われて、アレは分身だけを残して消えた)
(負けたのか?)
姿は見えないがムッとしたのが伝わってくる。
(私は負けてない。性質が悪いのは、私は薪として世界を消費してもその後には関与しない。長い時間をかければ燃え尽きた世界でも再び生命は宿り、世界を満たすだろう。しかしアレは一度支配すれば永遠に世界を汚染する。どれだけ多くの世界が飲み込まれていったか、お前は知らない。破壊と創造はセットでなければならない。無限に生きて増え続ける神など、もはや災害だ)
太陽神の矜持のようなものを感じた。
(そんなものがこの世界にきたのか……。お前といい、全くエルザは運がないな)
(お前と呼ぶな。一度は信仰を口にしたのだから敬意を示すがいい)
(あれは意識が朦朧としていたからで)
(信仰せねば私に力が戻らないぞ? 永遠にここにいたいのか?)
言い返してきた。
どうやら根に持っていたようだ。
(アイン・ソフ・オウルを倒すためにこの世界で力を蓄えようとしたら、あの小娘に邪魔された。完全な私がいればあっという間に蹴散らしてやったというのに)
アズに負けたことか。
だが太陽神が力を得るということは人類の全滅を意味する。
その後にアイン・ソフ・オウルを倒しても俺たちには意味がないのだ。
あの行いは正しかった。
(お前はアレに取り込まれるところだった。私が残っていた力を使ってこの世界を生み出し、避難させたというわけだ)
(一緒にいたミーリアは?)
(ここと外の時間はズレているが、無事だ)
(ならすぐに戻してくれ)
(それはできない。咄嗟のことでこの世界は私の力だけではなく、お前の記憶やアレの力が交じり合ってしまった。私が力を取り戻すか、世界の核を壊さないと出られない)
……助けてくれたのは事実らしい。
だが事態はそう簡単には解決しなさそうだった。
(どうすればいい?)
(まずは私の力を取り戻せ。信仰を捧げるなり、太陽にかざすなりしてな)
(それでお前が復活するくらいならここに居た方がマシじゃないか?)
(忌々しいが、多少力を取り戻した程度ではあの小娘には敵わん。お前以外に生贄もいないし、取り戻せる力もしれている。それと、小娘が助けに来ると思うな。こちらとあちらでは時間の流れが違う。あちらの誰かが気付く前にお前が寿命で死ぬぞ)
難しい判断だ。
嘘は言っていないと思う。
太陽神教はもう滅びたので、太陽神さえなんとかすれば同じようなことは起きないはずだ。
だが、俺の判断で復活させていいものかどうか。
抑え役としてアズを信じるしかない。
あるいは、いざとなったら心中するか。




