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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第983話 劣悪な労働環境

「運のいいやつだ……命拾いしたな。殿下に感謝しろ」


 隊長はそれだけ言うと、部下たちに俺を連行させた。

 話すことはもうないというのが態度に出ている。


 縄は解いてくれたがガッチリと掴まれており、とてもじゃないが抜け出すのは無理そうだ。

 ラピスと呼ばれたアズによく似た女性のことが気になったが、あの様子では聞いてもろくに返事は帰ってこないだろう。


「こっちだ。早くしろ」


 兵士に槍の柄で背中を叩かれる。

 激痛に顔をしかめたが、ジッとしていたらまた叩かれそうなので我慢して遅れないように歩く。

 こういう扱いをされるのはいつ振りだろうか。

 いつもはアズたちが守ってくれていたからな……。


 しばらく歩いた先はろくに掃除されていない部屋で、そこで黒いウールの服を渡された。

 明らかに使い古されており、少し嫌な臭いがする。


「罪人はこれを着る決まりだ。着替えろ」


 裁判もなく罪人とは……。

 槍を向けられている状態で逆らえるはずもなく。

 服を着替え終わると、着ていた服は没収されてしまう。


 質の悪い材料なのか肌触りも悪い。

 太陽神のネックレスと道具袋だけは没収されずに手元に残ったが、隠していた金貨などは全部失ってしまった。


 太陽神のネックレスが没収されなかったのは、見た目がくすんだ真鍮のようだからだろう。

 安物の価値しかないと思われたのか。


 再び移動させられ、建物の外に出る。

 入った時は外に面していた通路からだったので分からなかったが、初めて都市の外観を身にした。


 大きめの砂漠の都市といった様子だが、中央には大きなオアシスがある。

 オアシスの近くに堅牢そうな城が建っており、ラピスと護衛の兵士の後姿が見えた。

 離れたところでは見慣れない黒色の羊が群れで移動させられている。

 砂漠固有の種か。ラクダもいる。


 オアシスがあるとはいえ、こんな砂漠でよくこれほどの都市を築き上げたものだ。

 そう思ったのもつかの間。

 この都市を支えている裏側を目にすることになった。


 砂漠の都市からずっと歩かされて到着したのは石で囲まれた農園だ。

 俺と同じ服を着た男たちが大きなバケツで水を運んだり、農園を広げるために石を積んだりしていた。


 たしか荘園での労働と言っていたな。

 ここが俺が働かされる場所のようだ。

 兵士たちは老婆に俺を引き渡したらさっさと居なくなってしまった。


 俺と老婆、そして後から来た隊長ほどではないが体格の良い男の三人がここにいる。

 老婆が兵士から渡された紙を見る。


「罪状は……徒罪の労働刑かい。」

「刑期はいつまでになってるんだ?」

「刑期? ヒッヒッヒ」


 嫌に耳に残る声で老婆が笑う。


「ズールの為に頑張ってればいつかは出れるよ。おい、案内してやんな」


 老婆がこの荘園を取り仕切っている様だ。

 立ち合いだけ済ませると引っ込んでしまった。

 あの言い方は死ぬまで働かせる気だな。

 鉱山よりはマシだが、さっきの働いている様子を見る限りここもかなりの重労働なのは間違いない。


「あんた、名前は?」

「ヨハネだ。……あんたは?」

「俺はクリクスだ。ここでは二番の班長を任されている」

「二番?」


 クリクスと名乗った男は簡単にここのシステムを説明してくれた。

 ここにいるのはズールで犯罪者とされた男たちで、十人ほどが一つの班で活動している。

 犯罪者といっても、ほとんどは軽犯罪者か他所から連れてこられた者たちらしい。

 軽犯罪も食うに困って僅かな金や食べ物を盗んだだけのようだ。

 隊長と呼ばれたあの男の裁量で罪の重さや刑罰の全てを決定しているとか。


 残念ながら司法という言葉はこの国にはないようだ。

 ズールという都市を賄うために必要な労働力をそうやって捻出しているんだろう。


「ここには見張りの兵士はいないが変なことは考えないでくれ。さっきの婆さんは兵士たちと連絡手段を持っていて、何かあればすぐに兵士たちが懲罰のために来る」

「……それでいいのか? こんな横暴なことをさせられて」

「いいわけがない。だが逆らえば死ぬ」


 兵士たちはよく訓練されていたようだが、ここにはかなりの数の囚人がいる。

 反旗を翻せばなんとかなりそうな気もするのだが、クリクスは小声で滅多なことは言うなと釘を刺してきた。


「兵士だけじゃない。王は不思議な力を持っていて、歯向かってきた者たちを亡き者にしてきたんだ。絶対に逆らうんじゃないぞ」

「分かった」


 返事はしたものの、こんな所に長居をするつもりはない。

 どうして俺がここにいるのかすら分からなかったが、さっさと抜け出して皆を探すために戻らねば。

 しかしどうやって……。せめてここがどこなのか分かれば。

 ズールという名前の都市は聞いたことがない。


 早速労働を指示される。

 俺が任されたのは、オアシスとここを往復して水を運ぶ仕事だった。

 木のバケツは重く、水を入れると持ち運ぶのに難儀する。

 一往復しただけで全身に汗が流れ、呼吸が荒くなってしまった。

 他の男たちもヒイヒイと言いながら運んでいる。

 能率も悪い。

 見張りがいないのが幸いだった。ただこれでは逆らう気など起きないだろう。


 二回往復しただけで立っているのも難しいほど消耗した。

 冗談じゃない。

 水を運ぶにしてももっと効率のいいやり方があるはずだ。

 ああ、だから労働刑なのか。


 食事は班ごとに配られるが、それも酷いものだった。

 できの悪かったであろう野菜と麦を煮ただけのもので、何より塩が薄い。

 あれだけ働いて汗を流したのにこれでは、あっという間に衰弱してしまう。


 周囲の様子を見ると、生気のない表情をしている者ばかりだった。

 班長のクリクスも体格はいいがよく見ると筋肉が痩せてしまっている。


(労働で扱き使うなら塩をケチるなよ。常識だろう)


 水の運び方といい、この荘園を考えたやつは何も分かっていない。

 このままでは気力の前に体力が尽きる。


 こっそりと道具袋に手を入れ、塩を一掴み取り出して出来損ないのごった煮が入った器に混ぜる。

 塩っ辛いが、よく汗をかいたからか美味く感じる。


「お、おい。今入れたのは塩か?」


 隣に座っていた痩せた男が声をかけてきた。

 どうやら目敏く見られていたようだ。

 口の前に人差し指を立てて静かにさせる。


 ……塩の在庫は売るほどある。

 恩を売りつつ、元気なやつは多い方がいい。

 そっと塩をそいつの器に入れてやると、すぐに飲むように食べた。


「うめぇ。こんなに塩っ気があるのはいつぶりだ」

「いつもこんな酷い飯なのか?」

「たいていはな。虫食いとか、ダメになった野菜と麦が俺らの飯だ」


 皿まで舐め始めたそいつの言葉は中々厳しいものだった。

 これでマシとはよく言ったものだ。

 あの隊長の男と、ラピスというお姫様にはやり返さないと気が済まない。


 とにかく、まずはここをなんとかしないと。

 与えられた薄い毛布一枚で雑魚寝する。

 身体の節々が痛むが、疲れからか眠気はすぐにやってきた。



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