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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第980話 最大速度による投擲

「奇麗」


 最初に刀を褒めたのはフィンだった。

 武器に対する造詣が深いからか、その価値が分かるようだ。

 タリアさんは刀を持ったままのルーケさんに話しかける。


「そのまま持っていきなよ。それはあんた専用だ」

「構わないのですか?」

「ああ。誰が用意したのかは分からないけど、このままここに置いてても仕方ないだろうし」

「ですが私はハーフですし、ここに来たのも初めてで」

「……それは多分あんたに対する詫びなんだろう。両親の顔も知らないんじゃ、それなりに苦労してきたはずだ。別に許すってわけじゃないけど、受け取ってやってくれ」


 刀からは凄まじい魔力を感じる。

 魔剣と呼ばれる名剣と比較しても決して劣らないだろう。


「不思議と手に馴染みます。……もし何事もなくここに来ていたら、私も迎え入れてもらえたのでしょうか」


 ルーケさんは刀を鞘に戻す。

 普段から立ち振る舞いは隙のない見事なものだけど、刀を持ってもそれは変わらなかった。

 まるで最初からそうしていたみたいに。


「もしかしたらここで誰か一人くらい正気になってるんじゃないかと思ったけど、そう上手くはいかないみたいだ。時間を取らせて悪かったね。頂上に向かおう」

「分かりました。障害物もなさそうですし、そう時間はかからないと思います」


 祠を出る。

 ルーケさんは最後に深くお辞儀をした後、振り返ることはなかった。


「なんだか空気が生暖かくなってきたわね」

「見た目は寒そうなのに」

「白は寒く感じる色ですからー」


 山の頂上に近づくにつれて、湿度が高くなってきた。

 白い木の数も増えているし、なにより頂上にある巨大な木が近くなってきたからだと思われる。


「フィンは大丈夫?」

「精霊の加護無しだと多分速攻倒れる」

「やっぱり汚染がひどくなってるんだね」


 変化は湿度だけではない。

 目に見えるほど、白い粉のようなものが空気を漂っているのだ。

 そのせいで視界が少し悪い。


 ……神の力で大陸を俯瞰しようとした時、雲のようなもので遮られたことを思い出す。

 あの時視界を遮っていたのはおそらくこの白い粉だと直感的に分かった。

 これは神の力の一種なんだ。

 魔力によって無害化されるものの、生物にとっては猛毒となる。


 こんなものが大陸……、いや世界中にバラまかれたらこの木以外は死に絶える死の世界になってしまう。

 太陽神ですら、全てを更地にして生贄にする以上のことはしなかっただろうに。


 太陽神は破壊と再生だと言っていた。

 焼き尽くされても時間が経てばいずれまた生命は蘇り、地上を埋め尽くす。


 だが、この世界はそれを許さない。

 永遠に新たな生き物を許容しない、恐ろしい世界だ。


「……ドラゴニュートの魔力なら、それでも問題はない。十分対抗できるはずさ。一体何に負けたっていうんだい」

「頂上に行けば分かることよ」

「鬼が出るか蛇が出るか」


 なるべくスレイプニールに近寄って進む。

 巨大な体格と魔力のおかげで、白い粉が手前で消失する。

 もしかしたらと思ったが、やはり他のドラゴニュートとは遭遇しなかった。

 彼らはもういないのかもしれない。

 タリアさんもあえて口にはしなかったようだ。


「ほら」

「ありがとうございます」


 アレクシアさんに引っ張ってもらい、頂上へとついに辿り着く。

 白い粉はここにはないようだ。

 クリアになった視界で周囲を見渡す。


 本来はもっと別の形だったはずだが、墜落による衝撃で大きくえぐれて天辺がそのままクレーターとなっていた。


 そしてその中心には巨大な木の幹が見える。

 空の上から降ってきた来訪者。

 この汚染を生み出した元凶なのは間違いない。


「邪魔が入らないなら、都合がいいさ」


 タリアさんが身に着けていたタスキを脱ぎ、右手に掴む。

 魔石爆弾は全てタスキに縫い付けてあったようだ。

 羽をはばたかせ、宙に浮く。


「気を付けて下さい。何をしてくるか分かりません。危険を感じたら一度後退を……」

「その必要はない。言っただろう。必ずこれをあれの根元にぶち込むって」

「ですが……」


 目を見れば、言葉ではもはや意思が動く余地はないのが伝わってくる。


「行ってくるよ。もし私が起爆に失敗したら、あんたが代わりにやってくれ。私が巻き込まれるとか、そういうことには一切躊躇せず。約束して欲しい」

「必ず」


 犠牲は出ないに越したことはない。

 だが、タリアさんの決意を無駄にするつもりはなかった。

 ……死にたがっているように見えるのも間違いではないだろう。


 タリアさんはその場から一気に加速して上空へと向かう。

 どうやら上空から目的地へと最大まで加速して、魔石爆弾を投下する様だ。

 もし今更ドラゴニュートたちが現れて妨害しようとしても、最大速度に至ったタリアさんを止めることはできない。


 起爆用の魔道具を取りだし、握りしめながら見守る。

 巨大な木は私たちに興味がないのか、一切動こうとはしなかった。

 もし魔石爆弾でダメージが与えられたら、追撃して一気に倒してしまおう。


 タリアさんは加速により空気の壁を越え、木の根元に突っ込む。

 タスキを根元へと投げたのを確認する。

 後は魔石爆弾を爆発させるだけだ。


 タリアさんが軌道を変えようとした瞬間、上空にある枝の方から放たれた槍がタリアさんの身体を貫く。

 それも複数が一度に。

 ドラゴニュートの防御をいとも簡単に突破するなんて……。


 タリアさんは明らかに致命傷だ。

 速度を失い、落下している。

 このまま激突すれば……。


 受け止めるために走ろうとした瞬間、タリアさんと目が合った。

 それは一瞬のことだったが、来るなと言われた気がする。

 タリアさんの手が動き、魔道具が発動した。


「危ない!」


 私はアレクシアさんに肩を掴まれ、地面に伏せる。

 一瞬の間が空き、それからすぐに魔石爆弾が連鎖しながら爆発した。



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