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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第979話 ドラゴニュートの聖域

 戦いのあった場所には茶色い土が姿を見せていた。

 元々は緑豊かな山だと言っていたけど、汚染された影響で植物はなくなってしまったのだろうか?

 やがて絵具が沁みるかのように白く染まって痕跡も消える。


 白い世界を免れているのは私たちの足元だけだ。

 これではまるで私たちの方が排除されるべき異物のように思えた。


「進みましょう」


 ジッとしていても不利になるだけだ。

 魔力があれば害はなさそうだが、長時間滞在しているとどんな悪影響があるか分からない。

 全員で山を登る。

 ……覆い茂った木や草のない山は足場を邪魔されず、思ったより登りやすい。


 山にあるのは、点々と生えている白い木だけだ。


「……? あの」

「どうしたの?」


 隣にいたエルザに気になったことを話しかける。


「残っている木って、どれも形が同じじゃないですか? あの山の頂上にあるものも含めて」

「似ているだけじゃない? こんな似たような景色なんだし」


 初めは半信半疑だったエルザさんも、何度か通過した際に木を確認して神妙な顔つきになる。


「似てるってレベルじゃないね。葉のつき方まで同じってのはちょっと気味が悪いよ」

「やっぱりそうですよね」


 気付いた時はまさかと思った。

 だって植物にも個性はある。

 根付いた土の影響で生育も違うはずだ。


 高さも枝の伸び方も葉のつき方まで同じなんて、まるでオリジナルをそっくりそのまま写し取ったみたいじゃないか。

 この様子では幹を切った後に見れる年輪も一致すると思う。


 すると元々あった木を汚染したのではなく、汚染した後にいきなり成木した木が現れたことになる。

 ……これはおかしい。

 おかしいのだが、アズの知識や経験ではそれ以上のことは分からなかった。

 神の力ならそういうことができるだろうけど、それがどういう意味を持つのかまでは判断できない。


 そう思うとあの巨大な木がいっそう不気味に思えた。


 主人ならもしかしたら何か分かるかもと思ったが、汚染区域の影響なのか魔道具による通信ができない。

 声も届かないし、向こうからも連絡が来なかった。

 現場で判断するしかないということなのだろう。


 山の中腹まで来たが、想定していた妨害はなかった。

 てっきり激しい抵抗や遠くから魔法による襲撃があると思っていただけに、拍子抜けだ。

 一旦休憩のため足を止める。

 水分補給をしっかりと行い、軽く話すことにした。


「妙だね。こんなに遭遇しないなら最初の待ち伏せはなんだったんだ?」

「はい。いくらドラゴニュートの皆さんが強いといっても、バラバラに運用するメリットはないですよね?」

「ああ。私たちだって危険な魔物相手には組んだ方が安全だからそうしてたよ」


 やはり現状についての疑問がタリアさんから出る。


「よほどの運用が下手なヘボとか?」

「だと助かるけど。あるいは襲撃を予想していなかったのかもしれない。門番として置いてたから最初の6人は私たちを襲ってきただけで、残りは動いてすらないのかも」


 そんなバカな、と思う。

 私だってそれは悪手だと分かる。

 考える能力があればもう少し色々と何かするはずだ。

 植物には脳がない。

 本当にあの木が全ての原因なのかも。


 ……相手が対処してこないなら、有利なのは私たちだ。

 休憩を切り上げ、前進する。

 いくら険しいとはいえこの程度で疲れる仲間はいない。


「8分目までいけば、後はいくら妨害があってもこれを突っ込めると思う」


 タリアさんが魔石爆弾を手にする。

 どれだけ効果があるかは分からないが、初手の一撃としては十分な威力があると思う。


「安全に達成するためにも、できるだけ近づきましょう」

「そうだね……」

「どうしました?」


 頂上ではなく、別の所を眺めている気がしたので尋ねる。


「いや、そういえば私たちが聖域と呼んでる場所が近かったなと思って」

「聖域……ですか?」

「聖域といっても別に特別な場所じゃないんだ。ドラゴニュートの祖先を祭っている祠みたいなところさ。足を止めさせて悪いね、さっさと行こうか」

「気になるなら寄っていきますか? それくらいの余裕はありますよ」


 最初の戦闘以降は邪魔もなくスムーズにここまで来れている。

 遠回りするならともかく、近くにある祠に少し立ち寄るくらいなら問題ない。

 タリアさんは今回命を落としてもおかしくない役目に自ら立候補した。

 それは空を飛べることはもちろん、操られた味方のドラゴニュートに対する責任を果たすためだ。


 もしかしたら彼女がその祠を見る機会はもうないのかもしれない。

 なら、それくらいはいいのではないかと思う。

 それに、ルーケさんも顔には出ないがきっと行きたいはずだ。


「……すぐに終わらせるよ。こっちだ」


 タリアさんの案内に従って、行き先を変える。

 近いという言葉は本当だったようで、少し進んだ先に峪になっている部分があり外からは見えない位置に祠があった。


「この中だ」


 祠に入ると、そこには魔力が満ちているのがすぐに分かった。

 汚染もされておらず、祭壇には見たことのない文字と絵が描かれている。

 壁も同様だ。

 何かに守られているような、不思議な感じがした。

 だが嫌な気持ちはしない。


「数年に一度、ここでドラゴニュートたちが集まって祖先に起きたことを報告するんだ。だが二十年くらい前に騒動が起きてね。それからしばらく誰も立ち寄らなかった」

「……もしかして私の親のことですか?」

「ん。まあ、分かるか」


 ドラゴニュートが別の種族と結ばれ、子を産む。

 おそらくそれが問題になったんだろう。

 滅多に子を産まず、緩やかに滅んでいく種だからこそか。


「結局姿をくらませて、それっきり。皆反省したよ。私たちには新しい子には特別な武具を送るしきたりがあるんだけど、結局それも渡せず仕舞い」


 しんみりとした空気になる。

 ルーケさんも何といっていいか分からない様子だ。

 するとフィンが祭壇に近づく。


「祭壇に何か置いてあるわよ?」

「前に来た時はなにもなかったはずだけど」


 見に行くと、そこには立派な武器らしきものが台に掛けられていた。


「刀ね。この辺じゃまず見ないけど」

「……鞘にドラゴニュートの爪と角を混ぜてある。さっき言った特別な武具を送る時のやり方だ」


 タリアさんが抜こうとしたが、ビクともしない。


「やっぱりね。送った相手にしか抜けないようになってる。……ほら」

「私ですか?」


 受け取ったルーケさんが、ゆっくりと鞘に力を込める。

 すると鞘から簡単に抜けた。

 波紋と共にまるで鏡のように美しい刀身が現れる。




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