第976話 明日決行
ノラスの指示で技師たちが残りの魔石爆弾を運んでくる。
事前の説明通り10個が積み重ねられた。
……もしここで起動したらシージが丸ごと吹っ飛ぶ。
安全装置があるとはいえ、よくこんなことを領主が許可したものだ。
ユーペならどうするだろう?
そうする以外なくて必要なら躊躇なくやれと言いそうだな。
見た目は可憐なくせに苛烈なところがある。
ふとシージの領主が気になった。
「そういえば、シージの領主はどちらに? 一度も顔を合わせていませんが……」
シージの存亡がかかった危険な作戦に協力するのだ。
後々の為にも顔合わせくらいはしておきたい。
するとノラスは首を横に振る。
「領主はすでに亡くなっています。シージは慣例としてもっとも勇敢な者が長となる決まりでして……シージを守る戦いで命を落としました」
「それは……お悔やみ申し上げます」
「本当に惜しい人を失ってしまった。今は私が代理として全体の指揮を任されている状態です」
アズたちが襲撃の対応をしていた頃、やけに兵士たちがノラスの所に来ると思った。
領主が不在で彼女が代理になっていたからか。
「他にも必要な物資は今集めさせています。明日の朝には出発を予定していますが、問題はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
アズたちの顔を見て確認する。
エルザの治療もあるためダメージは残っていない。
疲労も明日の朝には残っていないだろう。
「タリアさんの方は大丈夫ですか? かなり辛そうでしたが」
「心配してくれるのは嬉しいけど、そんなやわな身体じゃないよ」
よく見るとタリアの顔色はよくなっており、そこそこあった怪我も癒えている。
エルザが治療したわけでもないので、自己治癒力だけで回復したようだ。
「では、明日に備えて休息をとって下さい。部屋を用意しました。あまり豪華でなくて申し訳ありませんが」
「横になれれば十分ですよ。ありがとうございます」
今シージはこの領主の館ですら怪我人を運び込んでいる有様だ。
そんな中で部屋を確保してくれるだけでもありがたい。
タリアの治療が終わったのでポーションを兵士に配れるようになったのも影響しているだろう。
案内されたのは大部屋だった。
宿舎のように見える。
ベッドのシーツなどは新しくなっており、清潔そうだ。
ツンとすり潰した薬草の匂いがした。
やはり直前まで仮設病棟代わりに使用されていた場所なのだろう。
「ではこれで失礼します」
「案内ありがとう。あ、ちょっと待ってくれ」
「なんでしょうか?」
案内してくれた兵士が戻ろうとして立ち止まる。
鎧の下に隠れて分かりにくいが、腕を怪我している様だ。
エルザに目配せし、癒しの奇跡で治療する。
「これでもう大丈夫です」
「あ、ありがとうございます。司祭様の奇跡は初めて見ました」
こうしているとまさに聖母のように見える。
兵士にもきっとそう見えたのだろう。
何度も頭を下げて兵士は去っていった。
アレクシアが繋がっているドアを開けて中を確かめている。
「あ、シャワーがあるじゃない。先に使わせてもらうわね」
「ちょっと、こういう時はジャンケンって決めたじゃないの」
「早い者勝ち~」
フィンの抗議を無視してアレクシアが服を脱ぎ、道具袋からタオルを取り出してさっさとシャワー室へ入る。
「次は私、私だからね。埃っぽくて気持ち悪いし」
フィンがシャツを掴んでバタバタと揺らす。
インナーも丸見えだが気にする様子はない。
「別に構いませんけど」
「どーぞ。あ、ご主人様も一緒にシャワーを浴びますか?」
「あ、エルザさんずるいです。なら私と入りましょう」
エルザが腕を掴んで誘ってくる。
さっきまでの貞淑さが嘘のようだ。
ゆっくりと浴びたいので断る。
俺が入るのは女性陣が終わってからでいいだろう。
アレクシアがタオルを巻いてシャワー室から出ると、フィンが入れ替わりで入る。
ミーリアに着替えとタオルを用意してやり、自分の順番を待った。
「私は最後でも……」
「疲れて眠いだろう。そこまで待っていたら寝てしまうぞ」
「すみません」
ミーリア以外の皆はいつも通りに振る舞っているが、やはりどこか緊張しているように見える。
せっかく太陽神との戦いを生き残ったというのに、また危険な目に合わせるのは申し訳なかった。
だが、俺の嫌な予感はよく当たる。
どうしても解決しておきたかった。
ルーケを見ると、ベッドに腰かけて何か考えているようだ。
普段ならせっせと何か仕事をしているところだが、やはりドラゴニュートのことが堪えたか。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
即答された。
だがいつもなら俺の顔を見てハッキリ話すのに、今回は俯いたまま小さな声だ。
普段のまるで鉄のような姿からは想像できない。
これで大丈夫と受け取るのは無理がある。
「色々と思うところはあるだろうが、考え過ぎてもよくないぞ。今日はもう休め」
「ですが……」
「なんなら、アズたちに付いて行かずにここで待ってもいいんだぞ」
同族同士で争うのだ。
これ以上はルーケにとっても負担が大きいかもしれない。
タリアは覚悟を決めていたようだったが、ルーケはそうはいかないだろうし。
「最後まで」
ポツリとルーケが喋った。
「ドラゴニュートが本当にいなくなるというのなら、私は最後まで見届けたいと思います。そうでなくてはきっと後悔してしまいますから」
「なら尚更休め。酷い顔だぞ」
ようやく顔を上げる。
……憔悴しても奇麗な顔だ。
「タオルを持ってきました。身体を温かくすれば気持ちが少し楽になります。私もそうでしたから」
ミーリアもそういえば散々な目に合っている。
だが、今は甲斐甲斐しくルーケにタオルを持ってくるくらい元気になった。
「ふふ、ありがとうミーリア。そうね、知りたいと思ってついてきたのは私だもの」
ミーリアと共にシャワーを浴びに行った。
そして俺が最後にシャワーを浴びた後、精を付けるためにやや豪華な夕食を食べる。
シージからの差し入れで肉も貰った。




