第974話 つかの間の平和
よほど激しく戦ったのだろう。
二人ともボロボロの姿になっている。
ただ、タリアの方が劣勢に見えた。
その理由はやはり相手の超再生によるダメージの差だ。
魔力によるダメージで再生を妨げることができるとはいえ、ダメージを与えたのが末端ではその効果が薄い。
実力が拮抗しているから深手を負わせるのが難しく、ドラゴニュートの魔力でも決定打が打てない様だ。
このまま放置するとタリアが負けて連れ去られてしまう。
そう判断し、援護を行うことにした。
エルザが回復とバフを行い、アレクシアが魔法で相手を攻撃する。
そうやって相手の動きを阻害し、アズが仕留める。
タリアが与えていたダメージもあり、決着がつくのにそう時間はかからなかった。
「……もうあの二人を倒したの? 信じられない」
「間違いなく強敵でしたよ」
相手を抑えつけ、心臓に剣を突き刺す。
若い男のドラゴニュートは、やはり最後は安らかに死んでいった。
止めを刺してからしか相手は正気にならないので情報を得るのは難しい。
「これで三人目。後どれくらい操られているのがいるのかしら」
「私以外のドラゴニュートが操られているとしたら、あと30ね」
「……本当に数が少ないんだ」
散り散りになる前のエルフだってもっといたと思う。
「私たちは寿命以外で滅多に死なないし、長生きだから生殖にあんまり興味がなくて」
「弱い生き物程よく増えるとは言うけど……それにしたって少なすぎるわ」
「そのせいで今全滅寸前だから何も反論できないかも」
疲れたのかタリアが地面に座り込む。
「本当はドラゴニュートに関しては私の手でなんとかしたかったけど、やっぱり難しい。実力差があっても身体が再生するからか無茶な動きをしてくるし……」
「一人抑えてくれるだけでもこっちは助かるわよ」
「……本当に何者なの? 人間なのに」
言いたいことは分かる。
竜に匹敵するという話は本当で、ドラゴニュートは間違いなく最強の種族だ。
獣人だろうと人間だろうと、どれだけ強くても本来なら勝負にもならない。
だというのにアズは二人の操られたドラゴニュートをあっという間に倒したのだ。
気にならない方がおかしいのだが、説明するのも難しい。
(知らない人に神だのなんだの言っても、怪しいやつだと思われるだけなのよね……)
宗教的な問題というべきか。
下手に本当のことを喋るとこっちの信頼を損ねてしまう恐れがある。
なのでアレクシアは冒険者だからという理由で乗り切ることにした。
竜殺しもそうだが、ごく一部の極まった人間ならば嘘ではないからだ。
タリアは納得はしていないものの、それ以上追及もしてこなかった。
「襲撃はなんとか撃退できたし、ノラスの所に戻りましょうか。多分ハラハラして待ってるでしょうから。あなたたちの仲間もきっとそうでしょう?」
「そうですね。せめてお墓かなにか作れたら良かったんですが、全部消えちゃいました」
「そんなの、全部終わってからでいいわ。今は操られている同胞を解放するのが先決。それが例え死であっても、ね」
タリアはすでに仲間たちの死を覚悟しているようだ。
たしかどんな方法を試しても元に戻すのはダメだったと言っていたから、せめてこれ以上被害を出さないようにしたいのだろう。
「……?」
「アズ、どうしたの?」
「何だか見られている気がして」
アズが何もない遥か遠くを見る。
それを見て話しかけたのだが、アズもよく分かっていないようだった。
シージからみて南東の方角。
何かが飛来したという山がある方角だ。
同じ神同士、何か通じるものがあるのだろうか?
今回の相手は、太陽神とは違う不気味さがある。
無事解決できればいいのだけど。
全員でシージに戻ると、私たちを迎えたのは大きな歓声だった。
どうやらドラゴニュートの襲撃を撃退したことで英雄のような扱いをされているらしい。
タリアはやや肩身が狭そうだった。
彼女もドラゴニュートではあるが、味方として受け入れられている。
これまでずっと耐え忍ぶことしかできなかったシージの住民にとっては、今日のことはまさに青天の霹靂だったに違いない。
私たちも直接こうやって歓声を向けられるのは慣れていないので、なんだかむず痒かった。
なんとか中央の館に戻ると、今度は兵士たちの歓声を受ける。
愛想笑いで進み、ノラスの部屋に入るとようやく騒がしさから解放された。
戦いよりこっちの方が疲れたかもしれない。
「シワができてるわよ」
「うそっ」
思わず顔に手を伸ばしたが、フィンがニヤニヤしているのでからかってきたのだとすぐに分かった。
弱みを見せるとすぐにこれだ。
全く。人をからかって何が楽しいのか。
「お疲れ様。ほら、これを使ってくれ」
「ど、どうぞ」
我らが主人とミーリアが温めたタオルを用意してくれていた。
それで顔を拭い、汚れを落とす。
サッパリして疲れが癒えるようだ。
本当はシャワーでも浴びたいのだが、もう少し我慢しよう。
その後はお馴染みのリンゴ酢のお湯割りを飲む。
アズは喉が渇いたのかお代わりをしていた。
圧倒的な力を手にしても、精神は以前のまだ成熟していないアズのままだ。
人の命を奪うことに慣れ切ったわけではない。
主人を守るという強い思いのもとに実行していても心は疲弊する。
割り切れれば楽なのだが、優しい面があるのでそれも難しいのだろう。
主人もそれを察してか、アズをしばらくハグして休ませていた。
……私にもしてくれたらいいのに。
「ありがとうございました。魔防壁を消耗することなく撃退できたのは初めてです」
ノラスに感謝の言葉を貰う。
「でもこれで終わりじゃないでしょう。もし残ってる30人がまとめてきたら、シージは守り切れないわよ」
「それは分かっています。襲撃が失敗した以上、なにかしらしてくるでしょう。ですがすぐではないはず。次が起きる前にこちらから仕掛けます」
ノラスが取り出したのは、少し大きな魔石だった。
色々な文字が刻まれており、普通の魔石に比べて明らかに内蔵する魔力が多い。
「これが魔石爆弾です。つい先ほど仕上げが終わりました」




