第972話 人間には荷が重い強者
雷の最大の特徴は、目にも見えぬ速度だろう。
大きく分類すると風の属性ではあるが、魔導士の中でも雷を扱えるものは少ない。
威力は申し分ないのだが、魔力消費の負担とその難度から候補に上がらないのだ。
同じ魔力で火の魔法を使えば事足りるケースがほとんどというのもある。
ゆえに、アレクシアは雷の魔法と初めて対峙した。
咄嗟に発動させているのが雷の魔法だと見抜き、氷の壁で受け止める。
あと一歩遅れていたら防御が間に合わず、直撃して身動きが取れなくなっていただろう。
(あっぶな)
顔こそ涼し気にしているが、内心はドキドキしていた。
アズならば雷の魔法を受けながら相手を倒せるが、あれはアズだからできる力技であって人間を辞めていない私たちには真似できない。
チラリとアズの方を見たが、すでに相手を圧倒していた。
あれでまだ全力ではないのだ。
最初に出会った頃はセンスがいいだけのまだ未熟な戦士だったのに。
「今から仕掛けるけど、当たりそうな魔法は全部防いでよね。こちとら防御は紙なんだから」
「無茶言うわね。なるべく防ぐけど、そっちはそっちでなんとか避けて」
フィンが空を蹴って加速する。
彼女は風の精霊による加護で、空にいてもまるで地上のように動くことができる。
普通の魔法ならいくら撃ってもかすりもしないだろう。
彼女の移動よりも早い雷の魔法も、相手の手や視線から方向を読んで事前に当たらないように動いている。
だが本人が言った通り一撃でも食らえばダメージが大きく、距離を詰められないでいた。
「なんとかして相手を地上に降ろしてねー」
ルーケにしがみ付いているエルザが叫んでくる。
頼もしいエルザも、空中戦となるとこれでは役に立たない。
バフはもらえるので、それでなんとかするしかないだろう。
ルーケと共に魔法を使ってフィンを援護する。
相手は片手で攻撃魔法を使用し、もう片方の手で防御魔法を使うという器用なことをしていた。
ドラゴニュートは実力に任せた力押しばかりだと思っていたが、歳を重ねるとああいうこともできるのか。
あの赤髪の少女よりよほど厄介だ。
エヴァリンが頭に浮かぶ。
(長寿種はこれだから!)
元々実力がある上に、寿命が長くて暇だからと魔法の腕を磨く。
これじゃあ生きるために必死に魔法を覚える人間が馬鹿みたいではないか。
「フィン、ちょっと離れなさい!」
そう考えるとなんだかイライラしてきた。
こういう時は大技を使うに限る。
杖代わりにしている戦斧に魔力を集め、巨大な火の玉を生み出す。
相手の警戒がフィンからこっちに移った。
この火の魔法は見逃せないというわけだ。
構わず魔力を集め続ける。
総魔力は人間である以上負けているかもしれない。
だが、魔力の多寡が戦いの勝敗を分ける決定的なものではないと示してあげようじゃないか。
私に向かって放たれる魔法は全てルーケが防いでくれる。
埒が明かないと相手がこっちに突っ込んで来ようとしたところで、フィンが離れる間際に爆弾をぶつけて動きを阻害した。
別に訓練したわけでもないのにコンビネーションはいい感じ。
爆弾の煙でドラゴニュートの姿が見えなくなる。
すぐに相手が風の魔法で煙を散らすが、その間に私は相手の上へと移動した。
魔法の打ち合いをしている間にシージからも幾分か距離をとっている。
地面は何もない平原で、多少地形が変わっても問題はないだろう。
さて、エルザの希望通り相手を地面に引きずり降ろしてあげますか。
周囲を赤く照らす、小さな太陽といってもいいくらいに大きくなった火の玉を手の平サイズにまで圧縮する。
そして、勢いよく放出した。
砲弾のように戦斧の先から放たれた火の玉は、一直線に下へと向かう。
いくら弾速が速いといっても、避けられないことはない。
なので相手は避けるために横に移動しようとした。
「だーめ」
そこを回り込んできたフィンが思いっきり蹴り飛ばす。
私の魔法に集中していたせいで、警戒がおろそかになっていたところを狙ったのだ。
見事に私の魔法がぶつかる。
とっさに盾のような防御魔法を展開したが、衝撃によって勢いよく地面にへと落下していく。
地面に触れた瞬間、圧縮された火が大きく爆発する。
ちょっとすっきりした。
いつの間にか隣にいたフィンが口笛を吹く。
「相変わらずおっかないわねぇ」
「火力には自信があるから。ほら、エルザ。お望み通り地面よ」
「ようやくまともに戦えそうです」
エルザがメイスを振るう。
ルーケもようやくお守りから解放されて動けるようになった。
……大型の魔物も仕留めるくらいの威力はあったが、だれもこれで終わりとは思っていない。
竜とはそれぐらい圧倒的な存在なのだ。
それと同等であるドラゴニュートも簡単に倒せる相手ではない。
(全く。驚くことばっかりね。落ち着いたと思ったらこれだもの)
しかし悪い気分はしなかった。
元々人生の大半は戦いに明け暮れていたのだ。
自分の実力がどこまで高められて、通用するのかを試すのは好きだし。
神とやらは例外だけども。
火の魔法が直撃した場所は土や岩すら高温で溶けている。
だが、老年のドラゴニュートは堂々とした足取りでそこから抜け出してきた。
身に着けていたマントの汚れを払う。
「ダメージは……よかった。一応効きはするわね」
「剣を突き立てないと倒すのは難しそうだけど」
無傷ではない。
防御のために突き出していた左腕が火傷を負っていた。
だが、致命傷には程遠い様子だ。
すでに回復が始まっている。
以前に赤毛の少女が見せた異常な回復ではなく、ゆっくりと傷が塞がる感じだ。
個体差があるのだろうか。
それとも、火に強いのかもしれない。
武器を構えたところで、何かが地面に衝突し転がっていった。
赤毛の少女だ。ボロボロになっていたが、すぐに回復していく。
私たちの近くにアズが降りてくる。
どうやら蹴り飛ばしてきたみたいだ。
「首を斬ってみたんですが、それでも回復しちゃうみたいです」
「ということは、何か別の弱点がありそうですねぇ。ほら、タリアさんが吐きだしたあれみたいに」
白い綿のような塊のことだろう。
あれが異常な再生力の元だとしたら、それをどうにかしない限り倒せないということになる。
……老年のドラゴニュートは傷の治りが遅い。
魔力でボロボロに崩れる白いなにか。
「アズ、これで斬ってみて」
アズの剣に火の魔法を纏わせる。
魔法剣だ。
アズは魔力は桁外れだが魔法が得意ではないので、こうしてやった方がいいだろう。




