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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第970話 ただではやられない

 話をする前に、腹の虫が鳴った。

 音がしたのは長い間眠りに就いていたタリアからだ。


「その前に何か食べたいわ。魔力もかなり消耗してるし、喉の奥までポーションの味がして最悪だから」

「……体力と魔力を取り戻すためにも食事は必要ですか。でもあなたたちはたくさん食べるんですよね。ここのことを知っているのはごく少数なので運ぶのに時間がかかりますよ」

「我々も手伝いますので」

「助かります。ヨハネ閣下たちをもてなすための食事と伝えれば、大量の料理を持ち込んでも問題ないでしょう。備蓄にもまだ余裕はあります」


 ルーケやミーリア。

 エルザもノラスの手伝いに行った。

 残った俺たちはドラゴニュートであるタリアと部屋に残る。

 うーん、気まずい。

 よく見ると彼女は腹が減って気が立っている。

 和やかに雑談は難しいだろう。


「あの子、名前は?」

「ルーケのことですか?」

「ルーケっていうのかい。半分の血とはいえ、ドラゴニュートの生き残りがいるとはね」

「……全滅したことは知ってるんですね」


 そのことについてはまだノラスが話していなかったはず。


「目が覚めて時間が経ってきたら頭が回ってきて色々と思い出してきたよ。それに他にも仲間がいるならここにいるはずだ。私たちは仲間を大事にする。なのに迎えはノラスと面識もないあんたたちだけ。そういうことなんだろう?」

「私も詳しくは分かりませんが、あなたが最後の生き残りだと聞いています」

「そうかい。緩やかに滅んでいくだろうと思っていたらまさかこんな終わり方とはね」


 しばらくタリアが黙る。

 それから長く息を吐きだすと、その目に強い怒りが浮かび始めた。


「ここまでやられてタダで済ますつもりはないよ。私をああやって生かしてたってことは、獣人たちも諦めてないんだろうしね」


 ドラゴニュートが受けた仕打ちに対する怒りだった。

 周囲が歪むほどに迸る魔力。

 アズやフィン、アレクシアはともかくその圧迫感は俺には中々に辛い。

 タリアは復讐を誓うと、魔力を抑え込む。

 頭の芯は冷静なようでホッとした。


「それにしても、そのルーケというのは誰の子だ?」

「それが分かっていないんです。この大陸出身なのは間違いないんですが」

「これまで人間と暮らすことを選んだドラゴニュートはいないわけじゃなかった。そのうちのどれか、か。まあいいさ。私一人じゃないだけ上等だよ」


 話しているうちにノラスとルーケたちが料理を運んでくる。

 ……アズたちが普段食べているのと同じくらいの量はある。

 やはり魔力が多いと食事量も比例するらしい。

 しかし寝たきりだったのに胃は大丈夫なんだろうか?


 心配をよそに、タリアは肉を詰め込むように食べてはワインで飲み干しパンや麺料理をみるみるうちに平らげていく。

 食べれば食べるほどタリアに生気が戻るのが見ていて分かる。

 おそらく、食べた端から魔力に変換していっているのだろう。

 全てを食べきる頃には、少し前まで意識すらなかった病み上がりの人物には見えなくなっていた。


 歩くのもままならなかったはずなのに、それが嘘のようにピンピンしている。


「ここは辛気臭い。なによりポーションの匂いで鼻が馬鹿になってて気が滅入る。話しをするにしても外に連れて行ってくれ」

「分かりました。ここまで元気になったのなら隠す必要もありませんし」


 ノラスも覚悟を決めたようだ。

 全員で地下から階段を上り、ノラスの執務室に移動する。

 壁が塞がり、隠し通路は再び見えなくなった。


「ドラゴニュートが全滅したのはもう分かってる。それで今はどうなってるんだい」

「……シージ以外の主要都市はもう残っていません。小さい集落などは現存しているようですが、精々数十人が隠れ住む程度です」

「ここが無事なのは魔防壁があるからか。あれを破壊するのは私たちでも骨が折れるからね」

「はい。タリアが昏睡状態になってからは完全に防戦一方です。ほとんど連携せずともドラゴニュートとはまともに戦えませんので」

「だろうね。私がどれだけ説得しても効果はなかった。死体を操ってるようなもんなんだろう」


 改めて現状を共有する。

 聞けば聞くほどかなり厳しい現状だ。


「それで、あんたのことだから起死回生の一手はあるんだろうね?」

「起死回生かはともかく、我々にできる最大限の抵抗はするつもりです。……魔石爆弾をあの地に使います」

「ゴソゴソと研究してたアレか。威力は?」

「大量の魔石を使用しましたので、巨大な山を消し飛ばすくらいは」

「なるほど。それをあそこにぶつけるわけか。ああ、だから私の回復を待ってたんだね。獣人じゃ空も飛べないし、魔力で身を守れない」

「ええ、そうです。せっかく生き残ったタリアに死にに行けと言うのは心苦しいですが」

「ハッ」


 タリアは口を開き、獰猛な牙を見せつけるように笑った。

 顔が奇麗なだけに、その気迫はより強烈に映る。


「ノラス。お前がなにも用意しなくても私は行くつもりなんだよ。仲間があんな目に合わされて逃げるなんてあり得ない。我々が強いのは何のためだと思う? 戦うためだ」

「そういうと思ってました」


 さっきから思っていたが、かなり仲が良いらしい。

 ドラゴニュートによる獣人の支配は緩いと聞いていたが、ほとんど共存だったのかもしれない。

 こんなことがなければ今も仲良く暮らしていたかもな。


「問題はいくつかあります。まず、威力を優先した結果爆弾の数が五つしかありません。それから白くなった地の奥には操られたドラゴニュートが必ず待機してます。それを突破しないことには爆弾は使えないでしょう」

「いいように使われてるじゃないか……。早く解放してやらないと」

「時間もあまりありません。楔である魔防壁の杭はいつ機能を停止してもおかしくないでしょう。そうなれば浸食が広まって奥に進むことすら難しくなります」


 やるなら今しかない。

 だがタリアだけでは恐らく失敗する。

 それでも彼女は行くだろう。

 死など恐れない誇り高さを感じる。


 選択肢は二つだ。

 協力するか、自分たちの大陸に逃げ帰るか。

 もしかしたら海を越えられないかもしれない。

 この大陸を犠牲に、安寧を得られるかも。


 ……そこまで考えて、自分の都合のいい言葉を並べているだけだと思った。

 そしてそういう考えで動いても現実は容赦してくれないとも。

 ただ、俺は足を踏み入れることすらできそうにない。


 なのでアズたちに判断を委ねることにした。


「やります」


 力強く、ただ一言返ってくる。


「ご主人様に危害を加えそうなものは、ここで潰しましょう」


 アズの判断基準はシンプルだった。


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