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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第969話 最後の生存者タリア

 気絶させた女性をとりあえず湯船に戻して寝かせる。

 一度意識が戻ったならポーション風呂はもう不要だろう。


「とりあえず移動しませんか? ずっとここにいたらポーションの匂いで鼻がおかしくなりそうだ」

「え、ええ。そうですね。服を用意してきますので少しお待ちください」


 ノラスが部屋から出ていく。

 短い時間に色々なことが起きて動揺していたが、すぐに切り替えられる所を見るとやはり優秀なのだろう。


 足元に白い綿のようなものが転がっていた。

 アズが女性に魔力を注いだ時に女性の口から吐き出されたものだ。

 それからすぐに意識を取り戻したのだから、これが昏睡状態の原因だったと見るべきか。


 念のため手袋を着けて採取しようとしたが、その前にボロボロと崩れ去ってしまった。

 欠片すら残っていない。


「寄生、あるいは浸食系の力みたいですね」

「何か分かりそうか?」

「詳しく調べられたら、でしょうか。今わかるのは、とても魔力に弱いということくらいです」


 エルザの手首を見る。

 白い肌にくっきりと手の形で赤い痕が残っていた。


「大丈夫か? 相当な力で握られたみたいだが」

「あら、心配して頂けるんですか? ふふ、大丈夫です。すぐに腫れも引くかと。さすがはドラゴニュートといったところですね。ご主人様が掴まれていたら骨が砕けていたと思います」


 冗談ではなく本当なのだろう。

 もし俺だったらと思うとゾッとする。

 一応痣に効く軟膏を塗っておいた。

 ……わざとらしく喘ぐような吐息はやめて欲しい。


 ノラスが着替えとタオルを持ってきたので、着替えなどを任せて俺は手前の部屋に移動した。

 さすがにあまりジロジロ見るのも失礼だ。

 ようやく深呼吸できる。


 ノラスとアレクシアが二人で着替えさせた女性を運び、ベッドに寝かせる。

 呼吸も落ち着いているし、少し時間が経てば目を覚ますだろう。


「タリアの目を覚ましてくれてありがとうございました。救出はできたものの思いつく限りのことは試したのですが効果がなく、難航していたんです」


 どうやらこのドラゴニュートの女性はタリアというようだ。

 獣人は魔法を使えない。

 つまり魔力を放出できないためどうにもならなかったのだろう。

 ドラゴニュートがもう一人いれば手はあったと思うが……。


「彼女が計画の核だと言ってましたよね。何をするつもりなんですか?」

「我々は魔力を扱えませんが、その分魔石の加工などに注力してきました。魔防壁などもそうですし、他にも色々と。その成果の一つとして、魔石から強力な爆弾を作ることに成功したんです」

「爆弾、ですか」


 基本的に魔石は燃料で使用されることが多い。

 それだけのエネルギーがある。

 なので魔導士は魔法のブースターとして使ったりもする。

 アレクシアが使用しているブローチも上質な火の魔石で作られており、彼女が火の魔法を使うたびに強化してくれる。


 だが魔石そのものを爆弾のように使うのは聞いたことがない。

 なぜかといえば、単純にもったいないからだ。

 魔石そのもので攻撃するより、燃料にしたり触媒にした方が得だと考えられている。


 魔法を使えない獣人たちは燃料として運用するのはともかく、触媒に使用することはできないから有効利用するために色々と研究していった。

 その一つが魔石を爆弾化することのようだ。


「魔石に内包されている魔力を増幅し、爆発させます。白くなった場所は魔力を受けると元に戻るのはお伝えしましたよね? 発生源にそれを投入すれば効果があると思うんです」


 たしかドラゴニュートが白くなった土を踏むと白くなった部分が消えていったと聞いた。

 強力な魔力を保有しているからだ。

 獣人たちと違い、その魔力を身に纏っている。


「実は調査隊に参加した獣人は皆死亡しているんです。正確に言えば、白い地に足を踏み入れた者全員。報告のために短時間しか滞在しなかった兵士も」

「それは……普通ではありませんね」


 最初に思ったのは病だった。

 白い地にはそういうものが充満しており、足を踏み入れた者を許さない。

 だが病なら伝染するだろうし、やはり白くなった場所そのものに原因がある。

 さっき崩れて消えていった白い塊が悪さをしているのだろう。


「死んだ者は皆身体の一部が木のようになっていました。なので、爆弾を奥へ投入するには我々では不可能なのです」


 だからドラゴニュートの生き残りであるタリアを治療していたわけか。

 ポーション風呂という手段を使ってまで。

 採算度外視の行為だが、文字通り死活問題だったというわけだ。


「白い大地は徐々に広がっています。抑えている魔防壁の杭も長くはもたないでしょう。できればヨハネ閣下の部下にも力を貸して頂きたい」


 ドラゴニュートを撃退したアズたちも参加して欲しい。

 獣人と違い魔力で身を守れるし、ノラスの気持ちも分かる。

 だが危険すぎる。本当に魔力で身を守れるのかも分からない。


「んん……」


 タリアが小さく声を出す。

 もうすぐ目を覚ましそうだ。


「今すぐ答えていただかなくても構いません。ですが考えておいて下さい」

「分かった」


 海を越えてこないという保証もない。


「……ここ、どこ? 私さっき同じこと言わなかった?」

「おはようございます、タリア。目を覚ましてよかった。ここは採掘場の地下ですよ」

「ねぇ、ノラス。なんで地下いるのよ。他の皆は? それにそこの人間たちと……新顔は誰?」

「落ち着いて。全部説明しますから。身体は動かせそうですか?」

「当たり前じゃない」


 タリアがベッドから足を下ろし、立ち上がろうとした。

 だが不意にバランスを崩し、床に転がりそうになる。

 かろうじてベッドにもたれかかったが、タリアは今起きたことが信じられなさそうにしていた。


「無理もありません。一年以上眠っていたんですから」

「……どういうこと」


 いかに超人的な身体能力を持つドラゴニュートでも、一年以上の寝たきりは堪えたようだ。

 だがノラスが肩を貸しただけで立って歩けるのはやはり普通ではない。


 一度椅子に座り、身体を休める。


「タリア。今から何が起きたのかすべて話します。落ち着いてよく聞いてください」

「少なくともいい話は聞けなさそうね」



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