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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第1027話 生命の息吹

「まずはアズちゃんからやろうか。他の人は座って適当に待っててね」

「分かりました」


 アズが移動し、俺たちは椅子に座る。

 周囲を眺めると、薬研などのポーション用の道具が目立つ。

 しかし他に見たこともない道具もいくつかあった。

 見るからに高価だ。


 ラミザさんの研究は相談の末全て自費で行っている。

 個人的研究の側面が大きいのもあるが、予算が付くことで自由を奪われることを嫌った。

 首輪を付けられるのが心底嫌らしい。


 研究で生まれた魔道具などはあの通信鏡のように有効活用されてもらっている。

 出来上がったものが商売になると判断し、大量に量産する際には承認の末スワン公国の国庫から材料費を出す決まりだ。


 お互いの希望を最大限擦り合わせた形といえるだろう。


「服をまくり上げて、お腹を見せて。そうそう」


 まるで医者のように聴診器を使ってアズの体を診断していく。

 ……少し邪な想像が浮かんだが、すぐに頭から追い出した。


「ふんふん。なるほど」

「どうですか? 自分では調子の悪いところはないんですけど」

「うん。分かんない」

「えぇ……」

「正確にいうと、アズちゃんの体は病気になることはないね。超高密度の魔力によって生成されたアストラル体だから。物理的にも薬学的にもほぼ無敵。ほら」


 ラミザさんが注射器の針をアズに刺そうとしたが、極細の針は一向に刺さる様子はなかった。


「この針は鋼にだって刺せる特別製の針だけどこの有様。無理に押し込んだら確実に曲がるね」

「はぁ」


 神の肉体が規格外に頑丈なのは分かっていたが、ラミザさんでもどうしようもないらしい。


「服を戻していいよ。もしこの体を害せるとしたら、同じアストラル体を持つ存在だけだろうね。そういう存在を神と評するなら、私も否は言えないかな。特別すぎる」

「褒められているんでしょうか?」

「褒めてるよ。ヨハネ君の部下じゃなければ、どうにかして閉じ込めて永遠に研究したいくらいに」


 アズはそれを聞いた瞬間服を直して即ラミザさんから離れ、俺の後ろに避難してしまった。

 顔は少し青くなってガタガタ震えている。

 ラミザさんが研究対象に向ける目をしていたから怖かったんだろう。


「そんなことしないって。安心して?」

「約束ですからね。……ご主人様、しばらくこうしてていいですか?」

「別に構わないが。大丈夫、ラミザさんは本気なら確認はとるから」

「大丈夫じゃないです!」


 怒られてしまった。


「次は新人のフランちゃんにしようか」

「私もそこのアズと同じだ。今のところ魔力密度は劣るだろうが、結果は変わらないだろう」

「この子もアストラル体なの!?」


 どういうことだ、とラミザさんがこっちを見る。

 そういえばラミザさんは詳しいことは知らなかった。

 太陽神の姿も見ていなかったので、フランの正体も知らない。


「事実です。どういうことかはご想像にお任せします」

「あー……うん。政治の匂いがするからこれ以上追及するのはやめておこうかな。物凄く面倒なことになりそうだから」

「ラミザさんはそういうことには敏感ですね」

「そりゃそうよ。私くらい優秀だと政治に疎い振りをしないと一生幽閉されたりするんだから。鈍感に生きるのも処世術よ。ヨハネ君はそんなことしないだろうけど……ね!」


 もしそんなことをしたらこの国から脱出してやるという強い決意を感じた。

 逆を言えばそういうことから遠ざけて居心地良くすればこの人はいつまでも居てくれる。


 ペロンとフランがドレスをまくり上げ、診察を受けた。


「本当だ」

「私は嘘はつかない」

「ヨハネ君、この子うちにくれない?」

「潤んだ瞳で言ってもダメです」

「ケチ」

「ヨハネ。この女、薄ら怖いんだが……」


 フランも少し引いていた。

 研究対象としてはこれ以上ない存在だが、しばらくすれば諦めてくれるだろう。

 具体的には次に興味を示す何かが現れれば。


 続いてアレクシアが診察を受ける。

 アズたちとは違って、舌や目なども確認し紙に記載していた。


「アストラル体ほどじゃないけど、高ランクの魔導士も心配は必要ないね。魔力によって守られてるから。向こうで汚染されたって聞いたけど、その影響も残ってないよ」

「よかった。若いうちに病気で死ぬなんてごめんだもの」


 ドレスを直してアレクシアが立ち上がり、エルザと場所を代わる。

 エルザは元は神なのだが、体はどうなっているのだろう。

 傷は負うようなので、普通の人間と変わらないのだろうか。

 エルザは司祭服を着崩して上半身裸になる。


「司祭だけあって、何かあっても自分で治せるから問題はなさそう」

「私も自覚症状はありませんねぇ」

「でももう少し運動した方がいいわよ? やっぱり太ったんじゃないかしら」

「アレクシアちゃんはまたそんなことを……。ちゃんと自己管理してますっ」


 ラミザさんがエルザのお腹に聴診器を当てたまま動かない。

 何か探っているようだ。


「……エルザ、尿意はある?」

「いきなりなんですか?」

「トイレに行って、これにちょっと尿を垂らしてきて」


 ラミザさんが渡したのは、何かの小さな箱だった。


「これは?」

「小麦を砕いて色々工夫した道具。いいから、ほら」


 急かされるようにエルザがトイレに押し込まれた。

 俺たちは何が起きたのかさっぱりわからない。

 いや、ルーケだけは見当がついたのか小声でラミザさんに話しかけている。


 少し時間が経ってエルザが出てきた。

 ちょっと恥ずかしそうだ。

 箱をラミザさんに渡す。

 ラミザさんが箱に薬品を垂らすと、そこから芽が生えてくる。


 その辺りでエルザもなにかに気付いたようだ。


「ラミザさん、一体どうしたんですか?」

「念のために聞いておくけど、エルザはヨハネ君以外と性交渉してないよね?」

「してません。ええ、ご主人様一筋ですから」

「じゃあ決まりだ。……おめでとうヨハネ君。彼女は懐妊してる」

「……懐妊!? 俺の子供!?」


 あまりにも驚いて頭の中が真っ白になった。

 やることはやっているので当然なのだが、自分が父親になったという現実感がない。

 エルザが俺に抱き着く。

 戸惑いながら抱きしめた。

 今抱きしめているエルザの中に新しい命が……。


「ようやく身籠りました。私とご主人様の子供です」

「そうか……そうか!」


 ようやく頭が働くようになると、嬉しいという感情が溢れてきた。


「あの子供だったヨハネ君が、ついに父親かぁ。時間が進むのは早いものだねぇ」

「産んでいいですよね?」

「もちろんだ」


 エルザが腕の中で泣いている。

 そういえばずっと子供が欲しいと言っていたな。

 誘うための冗談かとも思っていたが……。


「エルザさん、おめでとうございます!」

「重くなった理由はそっちかぁ」


 雰囲気が一瞬にして祝福モードになる。


「私が祝福してやろう。新しい生命の誕生は私の起源でもある」

「いえ、私が加護を与えますから引っ込んでてください!」


 アズとフランが揉め始めた。

 まだ生まれてもいないのに、どっちが子供に自分の加護を与えるか競っているらしい。


 そんな中で、エルザとそっとキスをした。

 涙の味がする。




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