第1026話 健康診断
清々しい朝を迎えた。
ユーペの部屋で目を覚まし、上体を起こす。
掛かっていたシルクの毛布がはらりと落ち、隣で寝ていたユーペの肌が露わになる。
気持ちよさそうに眠っていたので、起こさないようにゆっくりとベッドから降りた。
とりあえずシャワーでも浴びようと立ち上がると、手首が掴まれる。
「おはよ」
「悪い、起こしたか」
「私は寝つきも寝起きもいいの。十分な睡眠時間を確保できないと肌に悪いから」
裸のまま体を大きく伸ばす。
日に照らされた肢体はやはり完璧な美しさを誇っていた。
「汗がべとべとして気持ち悪いわ。早くお風呂に行きましょ」
二人でシャワーを浴びる。
ボディタッチを楽しみ、汚れをすべて洗い流した。
「失礼します。着替えをお持ちしました」
バスローブでお湯を拭っていると、ルーケが俺とユーペの着替えを持ってきてくれた。
俺たちが一緒にいることは知らなかったはずだが……ルーケにはお見通しか。
メイドとして完全無欠といってもいい。
受け取って着替えながらユーペの着替えを隣で見る。
正直、金を払ってもいいとすら思った。
「ありがとう」
「いいタイミングね」
「朝食も準備してありますので食堂にどうぞ。それと、ラミザ様から伝言を預かっております」
「必要なことは昨日聞いたんだが、伝え忘れでもあったのか」
「健康診断と仰っておられました。向こうの大陸では人類種はほぼおらず、亜人である獣人が大半を占めておりました。そのため未知の感染病などの調査が必要だと」
「そういうことか」
土地が違うだけで掛かる病も変わってくる。
海を隔てた大陸ともなれば、どんな病気があるか分からない。
ただ体調を崩したことはないから、念の為の措置なのだろう。
毒を浄化できるエルザがいるのだから、心配するほどのことにはならないはずだ。
「分かった。健康診断を受けるよ」
「はい。私としても旦那様にはなるべく長生きして頂きたいです」
「そうそう。私たちを置いていなくなったりしたら許さないんだから」
「善処するよ。俺だって任された役目の重さは分かってる」
「それだけじゃないの。前に言ったこと忘れた? 二人で遠くに逃げてもいいから一緒にいたいって」
「ルーイドに行った時のことか。てっきり冗談かと」
「冗談であんなことを言うほど軽い女じゃないって、もう分かったでしょ?」
頷く。
魔性の魅力を持つユーペだが、中身は無垢なところがある。
ルーケに付いて行き、ユーペと共に食堂に移動して席に座った。
他の皆も集まっていた。
ラミザさんは寝ていないのか大きな欠伸をして机に突っ伏している。
アズやアレクシアからチラチラ見られる。
なんだか申し訳ない気持ちだ。
今度ちゃんと相手をしよう。
ツカツカとフランがこっちに来る。
少しご機嫌斜めだ。
「ヨハネ。分かっていると思うが、私に魔力を補給できるのはお前だけだからな。それを忘れるなよ」
「あら、嫉妬しなくてもちゃんとシェアするわよ。なんなら一緒に可愛がってもらう?」
「……嫉妬じゃない。それに他の女が一緒だと恥ずかしいからそれはいい。あんまり相手しないとこっちから行くからな! ふんっ」
言いたいことだけ言ってフランは席に戻り、カットする前のバゲットを掴むと豪快に齧りついた。
照れ隠しのようにも見える。
全員で朝食を頂く。
パンはどうやらミーリアが焼いたらしく、少し硬かったが美味く焼けていた。
「色々お仕事を覚えて楽しいです。ご飯に寝床もあって、夢みたい」
「給金もちゃんと出すぞ。それと空いた時間は自由にしていいからな」
「……旦那様って本当にお金持ちだったんですね」
呆気に取られている。
早く環境に慣れてくれるといいのだが。
「はい、あーん」
「自分で食べれる」
「私のソーセージが食べられないっていうの?」
「ご主人様はこれが好きですよね。食べさせてあげます」
ユーペがいつもよりイチャイチャしてくる。
嬉しいのだがしつこくて若干鬱陶しい。
なによりもアズが対抗して同じことをしてくるので、落ち着いて食べにくかった……。
オルレアンまで真似してきたので、仕方なく全員の行為を受け入れる。
騒がしい朝食を終えた。腹が一杯だ。
この後は全員で何をするかを決める時間となっている。
「書類仕事の類は全て決済済みです。特に重要なものについては旦那様にその確認をして頂けたらと」
「分かった。回しておいてくれ」
といってもオルレアンが確認したものなら問題はないだろう。
文字通り確認するだけで済みそうだ。
「その前に! 大陸に行ったメンバーはこの後健康診断ね。どんな病気でも私なら完治させる自信があるから心配はしなくていいよ」
「どのくらいかかりますか? アレクシア様には農地を広げてもらおうと思ったのですが」
「オルレアン、農地の拡張なら私で十分よ」
「エヴァリン様……。ではお願いします」
「心配しなくてもそれほど時間はかからないよ」
「なら後から合流するわね」
「あ、私も一緒に行きますよー。祝福があった方が仕事も早く終わるでしょうし」
パパっと予定が埋まる。
アズは基本的に戦闘以外は普通の女の子なので、暇な時は俺にくっつく感じだ。
フランも同じだろう。というか仕事をしている姿が想像できない。
フィンは健康診断の後は留守にしていた間の諜報について確認するようだ。
まずは健康診断のため遠征組で集まって、ラミザさんの研究室へと向かう。
「ちょっと、ラミザあんたちゃんと掃除してるの?」
ゴホッとフィンがむせた。
無理もない。
広い部屋の中は色々な実験器具でひしめきあっていた。
薬草や甘ったるい匂いが充満している。
……前みたいにピンクの煙が充満はしていないようだ。
「相変わらずですね」
「私が居ない間にこんな……」
ルーケは少しショックを受けていた。
彼女は何事もきっちりするタイプだ。
出発前はもっと奇麗に整頓されていたのだろう。
「てへ。ごめんごめん。つい忙しくて。あ、でも必要な道具はすぐ取り出せるんだよ?」
「それはラミザさんだけでしょう。ラミザさんしか分からないのは整理されているとは言えないんですよ」
「それはそうだけどぉ」
ラミザさんがいじけている。
大人なのに可愛い反応をする人だ。
窓を開けて換気をしている間に、ルーケが凄まじい速さで道具を片付けていった。
ラミザさんは抵抗しようとしたものの、何かあってからでは遅いと怒られて諦める。
ちゃんとしたスペースを確保できてよかった。
「それじゃあ、健康診断を始めるよー……。といっても、これで全部分かるんだけどね」
聴診器を取り出す。
おそらくラミザさんが手を加えた魔道具に違いない。




