まずは穏やかな会談のはじまり
目隠しをするりとほどくと、まず目に入ったのは美しい少年の肖像画でした。
いや、うん。想像はしていたけれども。むしろですよねー!! としか言えないのだけれども。
ええと、正面に一際大きな肖像画。その左右に明らかに隠し撮りとしか思えない通常サイズの写真がずらっと並んでいる。
その写真達もピンで留めてあるのではなく、しっかりと額縁に入っているし、あの蛇楽……ルキフェって名前だっけ? あの子の写真もしっかりと飾られている。少年と一緒にいる写真しかないけれども。
向かい合ってそれぞれ書類を真剣に見ている少年とルキフェの図とか、向かい合ってカップから紅茶? もしくはコーヒー? どちらかは分からないが、とにかく上品に飲んでいる図とか。
翼を器用に使い、書類をめくっているルキフェの図が一番驚いた。堕落なんだしそういう真面目そうなこととは無縁なものかと……。
ついでに、堕落なのだし七大罪の怠惰も兼ねてるのかなと思っていたから意外だった。よく考えれば、パートナーがヴァルスエル皇帝なのだし、傲慢枠なのかもしれない。
んー、海底の竜宮城で嫉妬。天楽の里で憤怒。皇帝のパートナーが傲慢だとすると、リンデもなにか役割があったりするのだろうか。色欲? それとも強欲? どっちかだよね、多分。
閑話休題。
先ほど聞こえていた『肖像画』のズレは多分、あの真ん中の大きいやつだろう。他は全部、額縁に入っているから一瞬肖像画にも見えるが、写真だし。
他にも手作りっぽい皇帝の顔を再現したやたらと繊細な刺繍とか、ぬいぐるみっぽいのとか、フィギュアまであって恐ろしくなる。
……いや、フィギュアとか。もしや公式でグッズ展開考えてたりする? まだ早くない? それともこの部屋を演出するためだけに用意された代物か? そうだとしたら気合い入りすぎ!
にしても、どの肖像画を直せって指定がなかったから、ひとつしかないのかと思ったらこれだよ。やっぱりオタクの祭壇って怖いわ。
わ、私はここまでしたことないもの……!! ぬいぐるみ集めは好きだけど!!
壁一面のそれらと、お洒落で豪奢な部屋の感じが妙にマッチするのが不思議だ。普通に怖いのに。
フレーバーテキストで読んだときは、もっと金色のお金持ちっぽい部屋!! という印象があったが、キラキラしてはいてもそれほど目に眩しい感じではない。
他には隅にある大きな蜘蛛の巣と、それに乗っかった1号ちゃんらしき姿に。その足元にいっぱいあるカラフルな毛糸玉が特に目につくだろうか。さっき言っていたやつだよね、あれ。編み物するのだろうか……? この蜘蛛とリンデが……? ちょっと可愛い。
それから皇帝の笑顔の写真が上部の真ん中に嵌め込まれたドレッサーと、女性らしい衣装部屋へと続くのだろうドレスのピクトグラムが印象的な扉が奥にある。
「お、お邪魔します」
「いらっしゃい、まずはそこに座りなさい」
「あっはい」
流れるように下座に案内するリンデさん本当リンデ。
確かに向こうが上の立場なのは間違いないし、私はお客でもないけれども、自由に座らせるとか、私に下座を選ばせるとかそういうのではなく、わざわざそこって指定してくるそういうところ。そう、そういうところが好きだよなあ……ってなるんだよ。
「2号ちゃん、お茶を用意してちょうだい」
「……!」
そばに控えていた2号ちゃんが、部屋から出て行く。
えっ……あの子にやらせて大丈夫なんです???
落ち着きなく部屋の中を見渡しているジンを撫でながら、不安そうに見送ったからだろうか。リンデはこともなげに言ってみせた。
「あの子はメイドよ。それくらいそつなくこなせますわ」
「そうですかー、あはは」
はい。
うん……つまり、やっぱり私の前でドジってたのはわざとってことでよろしいか!? いいけど!! いいけどさ!! なんとなくそうなんじゃないかなとは思っていたことですし!! でもそっちからバラしてくるんかい!!
「ところであなた、お嬢様言葉はどうしたのかしら?」
「うぐっ、ごご、ごめんあそばせ……!」
そしてそれは続行なんですねリンデさん!
愉快そうに笑っているリンデさんのお顔のなんと綺麗なことよ……! 悔しい! でも従っちゃう!
なんか他の人の前だと猫を被っているけれども、私の前だとわりと酷薄な本性曝け出して煽ってくるのが癖になりそうというか……ほら、素でいてくれてる感があってよくない? みたいな、うん。
ここまできたら取り繕う意味がなくなった、とも取れるけれども。
「おかえりなさい、2号ちゃん」
しばらく経つと、扉を開けて2号ちゃんがトレイにティーポットと紅茶のカップ、それにクッキーの皿を4セット分乗せて現れた。本当だ……すごい。大きいトレイと、複数の物を運んでいるのに安定感がある。いつもならものすごく自然に転んでぶちまけたりするのに、今日は全然そんな素振りを見せない。
完璧なメイドとしての仕事に、心なしか胸を張って誇らしげにしているようにも見える。表情も声も分からないから、なんとなく態度でそう判断するしかないのだけれど。
2号ちゃんは相変わらず可愛いなあ。
しかし、紅茶もクッキーも4セット。自分の分なのかな? 可愛いね……と思っていたら、ふたつはリンデと私、そしてジンに。最後のひとつは1号ちゃんのほうへ渡しに行った。
いつのまにか1号ちゃんこと大蜘蛛はふたつの腕に毛糸で編まれたミトンをつけていて、それを使って器用に紅茶のカップと皿を受け取っている。あの蜘蛛さんもなかなか可愛いな??? なにあれ???
しかし、それでは2号ちゃんの分がないのでは……。
「気になるのかしら」
「えっと……」
「2号ちゃんの分がないから気になるのよね?」
「えっと、はい、気になりますわ」
気になっていたのは確かだ。
「この子はメイドなのだから、自分のものを用意するのは苦手ですのよ。ですから、わたくしのものを少し分けてあげればそれでいいの。食べさせられるのが好きという振る舞いは、今まであなたもよく見ていたでしょう?」
ああ、そういえばそうだったかもしれない。
いつも顔はヴェールで隠れているから、直接食べているところは見たことがないが、ヴェール越しに食べ物を摘んで入れて、美味しそうなリアクションをするというのはよく見る姿だ。
メイドのプライド的なやつだろうか?
聖獣にもそういうのがあるのだろうか……。
いただいたクッキーを食べたがるジンを制止して、先に私がジンのお皿にあるクッキーと自分の分のクッキーをひとつずつ食べる。それから、自分の皿にあったクッキーをひとつジンの皿に移し、様子見。
……うーん、一応やってみたけれど、当たり前だが食べ物に毒っていうのはなさそうかな。ゲームの毒はイベントでそういう必要がない限りは速攻性のものばかりだし、毒があれば食べた瞬間に状態異常通知が来るはず。
さすがにそこまでゲスなことはしないかと、ちょっと安心した。
そんな私達の様子を見ていたリンデが、2号ちゃんを抱き上げて膝の上に乗せる。2号ちゃんはだいぶ照れているように顔のあたりを両手で覆った。可愛い。
そして、彼女が口を開く。
「そうですわ、ケイカさん。あなた2号ちゃんのことを気にかけているでしょう? この子の素顔、気になるのではなくて?」
えっ、めっっっっちゃ気になりますけどこれ大丈夫? 罠とかじゃないよね???




