フレーバーテキスト「深紅の女」と、猶予期間
◇
「あら」
広く、豪奢な部屋の中で深紅のドレスを着た女が一人。
鏡の前に座り込み、その金色の髪を背後の人影に委ねていた彼女は長い爪に滑らせていた赤いマニキュアの筆先の動きを止める。
金色の髪を夜会巻きにするべく梳いていた背後の少女らしき影は、そんな彼女に戸惑ったように首を傾げている。
深紅の女が目にしているのは、部屋の隅に張り巡らされていた大きな蜘蛛の巣。その上に乗っかった、夕焼け色の目を持つ蜘蛛が「キシャア」と忠告するような声で鳴きかけ、女は口元に手を当ててくすりと笑った。
「ねえねえ、1号ちゃん。とっても元気な羽虫がわたくし達の巣にかかったようですのね。うふふ、楽しくなりそうねぇ。楽しくなればいいわぁ」
蜘蛛の巣の意匠が散りばめられた深紅のドレス。
女は、己の元にカサカサと寄ってきた巨大な蜘蛛を愛おしげに撫でてやりながら目を伏せた。
「手早く済ませてちょうだい、2号ちゃん。今日はいつもより遅いわよ」
「……」
女が棘のある言葉をかけると、彼女の背後に座る少女らしき子供が慌てて髪を結い始める。その姿はメイドのようなエプロンドレスに、まるで修道女のように顔の前面にヴェールを被せたものだ。
女はそんな姿に眉を顰めて、突然後ろを向くとそのヴェールを引き上げてしまう。そして、慌てた子供の顔を眺めると意地悪げに女は「そのほうがお似合いよ」と口にする。
「夜会にはおめかしをして、恥ずかしくないようにしなければなりませんわ。そして、できるだけ多くの人から資金を集めるの。集めて、集めて、たくさん集めて……帝国に送るのですわ」
言うだけ言って鏡に向き直った女は、ふと壁にかかった額縁の写真に目を向ける。
「ええ、そう全ては我が君のお役に立つために」
鼻にかかるようなひどく熱っぽい言葉をもらし、女は額縁の中で薄い笑みを浮かべる幼い少年へと、祈るように目を伏せた。
◇
【シナリオ・フレーバーテキスト】
【深紅の女】
◇
……
…………
………………
「し、進展……してますね……!?」
あれから……再びカジノのスロットで荒稼ぎした私は、あのお客さんの男性との会話を重ねつつも三十万ものチップを貯めることに成功していた。
正直、男性との会話は普通に下心のある人との会話でしかなくて辟易していたのだが……彼がようやく満足していなくなり、ふと思い立ってメニューを開くと、なんと進展していたのだ。
シナリオの進行度が一番最初の10%のところに到達し、まさかの【フレーバーテキスト】の閲覧がひとつできるようになっていた……ということである。
普通にお客さんと話しているだけでこうなったってことは、ある程度客と話すことが条件だったのか? それとも、フレーバーテキストの内容的にあの蜘蛛の巣がきっかけだろうか?
ともかく、フレーバーテキストの書きかたから察するに、この『深紅の女性』っていうのがここのラスボスだろう。蜘蛛を連れてるようだし、自分のパートナーを持っていることもほぼ確定か?
すでに神獣郷では虫系聖獣も魚系聖獣も解禁済みのため、敵側で出てくることに違和感は特にない。
にしても蜘蛛か……。
しかもメイドっぽい子供も連れていると。
うーん、この女のパートナーが蜘蛛という可能性もなくはないが、メイドっぽい子供のほうのパートナーが蜘蛛で、どちらも協力させられている被害者って線もあるな。一応両方の線は追ったほうがいいかな?
とりあえず、メイドっぽい子のほうは被害者で間違いないだろう。
……にしても、愛称が1号ちゃん2号ちゃんはさすがにひどいのでは?
「あと、分かったことと言えば……帝国の王様? 皇帝様? が描写からしてショタかもしれないって事実ですか……」
ショタの暴君かあ……正直萌えるなあ……ま、まあ? 帝国の君主をどうするかとかは会ってから考えればいいことですし? とりあえず今は結論を出さずに置いとくとして。
「こんな感じでフレーバーテキストを回収していけばいいのでしょうかね」
流れるようにスロットでさらに稼ぎながら首を傾げる。
よし、五十万まで行ったらジンとラブラブ展望室デートをすることにしよう。
「ジン、そろそろ次の台に行きましょう。他の人もここを使いたそうにしています。良さげな台はありますか?」
「にゃあ〜お!」
「あれですね? 分かりました」
幸運のお猫様の力は今日も健在である。
この力に私の器用さを組み合わせればサイキョーになる。自明の理。
「ふっふっふっ、あーはっはっはっはゔぇっ」
『こっちのほうが悪役みたいな笑いかたをしている件』
『違うよ、こっちは偽令嬢で向こうは真悪役令嬢でしょ??? ほら、種類がそもそも違うから』
『そうだね、美人な悪役お嬢様と令嬢の皮を被ったヤンキーは比べるものじゃない』
本当に皆さん私に対しては言いたい放題だよね??? なんで???
我正義の味方ぞ???
『ヒント: 日頃の行い』
『セツコ、それヒントじゃない。答えや』
知ってた。
「お、フィーバー」
なんか悪役さんに目をつけられたようですけど、本当に私でいいんです? って気持ちになってくるな。だってあの女の人の言う「羽虫」って要するに「スパイが紛れ込んでますわね!」ってことでしょ?
本当に気づいたのが私でいいんです?
必死になってカジノで稼ぎまくるこの私で???
自分で言うのもなんだが、多分一番賢くなさそうなスパイだと思うんですけど。ターゲットにするのが? 本当に? 私で? いいんです?
まあいいけども。
どーーーせあの子も私がシリアスブレイクすることになるんだ。
それまでの間、私が稼ぎ終わるまでどうぞご勝手に悪役やっててくださいませ。
タイトルの猶予期間は多分「(悪役の)」って言葉が前に入りますね間違いない。
ケイカ「お前もギャグ堕ちにしてやる(宣言)」
悪役ちゃん逃げて超逃げて。
コミカライズの配信は先日言った通り、単行本作業を行なっていたために今月はなしです。




