配信中の温度差もまた、いつものことで
「おおっと、17番、18番のウツボの兄弟!! 出だしで喧嘩かーーーー!?」
豪華客船最上階。太陽デッキの観覧席にスピーカーの大音量が響き渡る。
「あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝!!」
海とモニターをどちらも眺めることができる席で私は手に持っていた紙を放り捨てようとして、丁寧に畳んでから懐にしまった。
『知 っ て た』
『汚い高音』
『いつもの』
『知ってたwww』
『出オチで草』
『さっきまであんなに熱く語ってたのにwww』
『くっそwww』
『チケットを捨てないで仕舞うところに最後の理性を感じるw』
『そんなところにお育ちの良さを滲み出さなくていいのよwww』
『大草原』
『さすがエレヤン、期待を裏切らない』
思わず立ち上がって天高く吠えてしまったことに今更羞恥心に駆られ、その場に四つん這いになるようにして落ち込む。いわゆるORZのポーズだ。
肩から流れていく緋色の髪と、肩から落ちないように踏ん張りながら肉球パンチをしてくるジン。哀愁漂う私の姿に、コメントは大盛り上がりだ。う、嬉しくない……! 全然嬉しくない盛り上がりかただ……!!
『その格好で四つん這いはまずいですよ!!』
『カメラさん、後ろから撮って!』
『ヘイッ!! アルターエゴ!! ケイカちゃんの敗北シーンを舐め回すように撮って!!!』
『変態しかいなくて草』
いやまあ、そりゃあこんな格好してたらそうなるか……あまりにあまりなコメント達にスンッと表情を消しつつ目元を拭う。泣いてはない。泣いてはいないが……こうして落ち込む姿というものは『弱さ』を顕著に表す。
ここは太陽デッキ。もしかしたら、支配人や上流階級の客がいるかもしれない場所だ。聖獣を食い物にしている奴らのことだ、こういうか弱そうで可愛い女の子の弱みってやつを見せつけたら、そちら側からホイホイと釣られて来てくれないかな〜という打算も込みの仕草である。
一応限りなく素ではあるが、少しばかり大袈裟にしているのも事実。アニメとかなら、上流階級のお貴族様の部下的な人がこういう場面を見ていて、自分の主人に報告して「あの女を連れてこい!」みたいな展開になったりとかするものだ。
テロップでそんな作戦をつらつらと語っていると、なんだかコメントの様子がおかしくなる。あれ、さすがにこんな単純な作戦じゃどうにもならない……かなあ?
『まずいですよ!』
『あるあるシチュエーションだけどさあ』
『どっちかというとそれ、奴隷にされるアレでは???』
『エロ同人みたいなシチュを自分で作ろうとするんじゃねぇ!! w』
いや、だって向こうからホイホイしてくれるほうが楽じゃないですか。
いざとなったらヒールで顔面に蹴りでもいれればいいですし……ジンもいますし……扇子も今のところ没収されてませんし……。
『反撃すること前提www』
『いちいち物騒なんだよなあ』
『こいつ本当に不殺論者か???』
『ケイカちゃんは初めからエレヤンだろいい加減にしろ!!』
『そもそもスカウトするときも完全に手を出さないわけじゃなくて、大体は弱らせてからのスカウトだしな……』
皆さん結構ひどくない???
『えー、でも帝国の連中ならなにやってもいいのでは???』
『いや、それやったら向こうとやってることが同じになるのでNG』
『律儀だなあ』
『同じところに落ちる必要はないんよ。過剰すぎる反撃はエレヤンブランドの価値が下がるし』
『エレヤンブランド、とは(困惑)』
『なんだかんだエレヤンは許す人だからなあ』
まあ、それはそう。
リリィのときもそうだった。言葉での説得が効かなそうだったから、彼女に対しては実力行使で出ようとしたけれど……あれはこっとんちゃんが彼女を庇うだろうことを織り込み済みでの攻撃だったのだから。
……あと、攻撃するふりをして途中でピタリと攻撃を止めるやつ。あれ、ちょっと憧れない? 私は憧れてた。だからそれもあって、あのときはああしたわけだ。
ユールセレーゼのときもそう。
黒幕だったハインツを、私は結局許している。許さないでくれと言われたから、ちょっとした意趣返しで許した。あの優美な青いツバメが、グレイスが信頼をしてそばにいることを望んだ人だったから、最終的にはそれでいいと思った。
さて、今頃ハインツさんはどうしているだろう? あの人とも、もう一度会いたいなあ……そんな風に考えながら、目を細める。
そうして、テロップになるように意識して言葉を紡いだ。
……私は、聖獣が信じている、信頼している人に対しては許してしまうかもしれません。
どんな形であれ、魔獣堕ちしたとしても、聖獣や神獣がその人のことを好きだと言えるようなら、そこにはその人達独自の確かな信頼関係があるのだと信じて許すでしょう。
私は、なにも考えずに悪人を許しているわけではありません。
悪人を信じて許すわけではありません。
私が信じているのは、その悪人を慕う聖獣の心です。
連れている聖獣が諦めないのならば、私は信じてみることを選ぶでしょう。
だから、ひどいことをしている人だからといって、あんまり悪し様に言っちゃ嫌ですよ? そのコメント読む私も気が滅入っちゃうのでね!
「ま、帝国の人間が聖獣連れているとは限りませんけどね。なんせ共存者の紋章は適正のある人にしか現れないようですし」
悪役の幹部のはずなのに、実はそういう正義の紋章的なのを持っているっていうのはあるあるなので、普通に聖獣連れている可能性も否定できないわけだが。
「あ、あの……大丈夫ですか……?」
「あ、ごめんなさい……ちょっとさすがに落ち込んでいました」
「ああ、いきなり十万もなくなったら落ち込みますよね……」
例のお客さんに手を差し出され、私もその手を握って立ち上がる。
やっぱり不確定要素の強いギャンブルはダメだ……! ここはスロットでコツコツとチップを稼いでいくのが堅実である。
「みっ!」
コラッ! とでも言うように私のほっぺたをぷにぷにしてくるジンに癒されつつ、あ〜レキに怒られるなあと内心で呟く。
しかし、ここで。
『話の途中だがワイプだ!!!』
配信画面の中に赤色の小さなドラゴン、アルターエゴが現れた。
「へ?」
『ケイカ……話は……聞かせて……もらった』
「ひぇっ」
私の配信の枠の中に、緋羽屋敷のワイプ映像が出る。ある意味テレビ電話のような状態。その中心で、明らかに怒っていますと言いたげな財政大臣の姿があった。
『ふふーん! ワイプ配信できるようにしたんだよ! 嬉しいでしょ? ケイカちゃん、会えないの残念そうにしてたもんね!』
嬉しいけど!! 嬉しいけど!! アルターエゴくんさあ!! 絶対分かっててこのタイミングで繋げたでしょう!!
「ごめんなさい」
初手土下座だった。
せっかく手を取って立ち上がったはずの私が、突然の奇行をし出してお客さんがびっくりしているが……ここは仕方ないと思う。お爺ちゃんには勝てません。
『今回は……架空の……金銭だったから良かったが……すでに……二万を、使い込んで……いるだろう……欲しいものが、あるなら……残り、一万の、資金で……どうにか……するのだぞ』
「はい!」
元気よくお返事をして敬礼をする。
うちの財政大臣は怖いのだ。どうにかして汚名返上しなければ……!
もう失敗はできない。このあとは下に戻って、もう一度チップ一万の状態からコツコツ貯めていかないとね。
「……私は下に戻りますね。やっぱり欲しいものがありますし、ちゃんと当てられるスロットで稼ぐことにします」
「そ、そうですか? ではお供しますよ」
このお客さんもなかなかしつこいなあ。
さっきの奇行を見ていてまだ一緒に来ようとするなんて、ある意味すごくない???
情報をもらえるならそれに越したことはないし、行動を共にするのは別にいいのだけれど……ここまで私がやらかしておいて逃げていかないその胆力に感心さえするレベルだ。
「あー、ついてきたいのならご勝手に」
そうして私は階下に降りて行こうとして……。
「ぶえっ!? なぜ蜘蛛の巣!?」
まさかの蜘蛛の巣に引っかかった。
『海上の豪華客船で蜘蛛の巣とかwww』
『えーこんなに綺麗なのに』
『運わっるw』
『……いや本当に妙だな???』
「ははっ、また稼ぎ出す前にケチがついてますね」
「笑っている場合ですか!? 私! 実質あなたの誘いのせいでレースで大損したんですけども!!」
「乗ったのはそっちでしょう」
「そうですけど!!」
口喧嘩のようになりつつ、今度こそ階下へ降りていく。
――その様子を、蜘蛛がじっと見つめていたなんて知らずに。
今月末にあるはずの神獣郷オンラインの第7話配信はありません!
第7話からの配信は来月からになります!!
理由は以下のツイートに表示されています。
そちらをぜひご覧くださいませ!
内容的には悲しいお知らせではなく、嬉しいお知らせですとも!!
https://twitter.com/shigureookami/status/1418571051697524741?s=21
詳しいことなど、まだ大々的な告知をすることなどはできない状態なので、ツイートのみでの告知です。あっ(察し)と思ってくれたら嬉しいです。
また、コミカライズを担当してくださっている春千秋さんがケイカのイラストなどをあげてくださっています〜!
ぜひ見に行ってくださいね!!いいね百万回押したいっ!
↓
https://twitter.com/haruaki_000/status/1418370634153795584?s=21




