得意分野「幸せの押し売り」
「っはぁ〜」
思い切り息を吸い込む。
「帝国はクソッッッッッ!!」
ワールドストーリー的には帝国と対決することになるんだろうけど、こうもヘイトが溜まるような動きをされるとクソとしか言いようがなくなる。どうするんだこの行き場のない気持ち。
「あり鯖で、帝国に勧誘されてついて行った後技術を盗むだけ盗んでばっくれた人がいたんでしたっけ? 噂だけは聞きました。グッジョブ!!」
『なーるほど、それで【NGワードです】を利用して戻ってきてほしいと』
『あ、そっかごめん』
『NG設定しておいてよかったね〜』
コメントの雰囲気的にも、やはりこの『夢幻回廊』自体がこの話に関係があるんだな。それに、手記のラストの一文とか完全にフラグだし、そのシルヴィって子は、きっと女の子が亡くなってしまったことを知っている。どこで知ったのか、知らされたのかは分からないけれど。
夢っていうと獏だが……手記に書いてある特徴とも一致しているから、多分ラスボスは獏の魔獣で正解か。白黒の見た目してるし、ゾウほどではないけれど鼻は長い。
「もし、私がこの女の子と同じ立場だったら……」
どうしただろうか。
足元に視線を落とす。おすわりをして、こちらを見上げてくるオボロとジンの瞳がそこにある。この子達が、もし、自分から取り上げられて……研究材料として利用されていたとしたら……。
そのときは、多分。
「似たようなこと、やらかしそうな気はしますが……」
手記を持っていないほうの手を、ぐっと握る。
アカツキもシズクも、肩の上で私を心配そうに覗き込む。本当にそんなことをしたら許さないぞと、そう言いたげな顔で首を振る。ダメだよと。分かっている。これはゲームだから、ただの仮定の話だ。もしそんなことになったら、いざというとき、私は自身の命を張れるほど心が強くない……と思う。
だから、それを実行してしまったその女の子は素直にすごいと思うし、真似はしたくないなとも思う。
百合の花の飾り。
ペチュニアさんの姿を思い出す。
魔女っ子帽子に、百合の花の飾りをしていた。
そして、近くにいたケルベロスは、彼女のパートナーではないという。
なら、なぜケルベロスを連れているのか。
……二人とも同じ目的があるか、もしくは、監視……とか。あとは……もし、彼女が既に死んでいる幽霊のキャラクターだというなら、『パートナー』はただ一匹だけと決めているから、とか。
今のところ考えられるのはこれくらいか。
「ま、私ならきっと研究施設全部燃やして帝国の偉い人をぶん殴りに行きますね! きっと!」
『そ し て こ の 野 蛮 さ で あ る』
『エレヤン否定したいならせめてエレガントさを取り繕えよwww』
「ほら、落ち込んだままでは悲しいままですし、気分を明るくするのには、やはり笑いが一番ですから!」
あんまりしんみりしていても私らしくないもの。コメント欄までしんみりしてたら、いつまでもしんみりしたままになっちゃうし、ここは私が笑いをとっていかないと! そんな謎の使命感に突き動かされて腕を挙げる。手記を胸に抱きしめ、左腕だけで。
私が目指すのはいつでも登場人物が幸せなハッピーエンド!!
「会わせてあげようじゃないですか。感動の再会ってやつを最高の演出で彩ってやろうじゃないですか」
ペチュニアさんから渡された百合の花は鍵になっているという。奥まで必ず持っていかなければならないアイテムだ。つまり、この百合の花を届けることにも、必ず意味がある。
なら、この百合の花を届けることができれば、これを媒介にしてワープしてくるなりの方法で二人は再会できるんじゃないか? そう思っても決して間違いではないだろう。
「私の我儘ですが、皆さん。どうぞお付き合いくださいますよう、よろしくお願いします!」
ストーリー付きのイベントを嫌う人はもちろんいるだろう。
けれど、私にとっては大好物。この手の切なく悲しいシナリオを幸せで明るい未来に導くのが、私は大好きだ。悲しいだけで終わらせはしない。絶対に幸せにしてやる。幸せにならないだなんて、絶対に許さない。
傲慢で結構! ゲームなんだから好き勝手にやる!
これは、ユールセレーゼのときと同じだ。
本人達が望もうと、望むまいと、『私が見たいと望んだから』幸せにしてやるんだと、我儘を貫き通すだけ。それだけのこと。
――幸せの押し売りなら得意分野だ。
「覚悟してなさい、まだ見ぬシルヴィくんちゃん!」
……性別が分からないから断言できないし、なんだかこれだと締まらないな?
「まずは二階を突破することからです!!」
えいえいおー! とばかりにみんなで腕やら翼やらを挙げながら士気を高めるのだった。
火刑のことを教えた人は、どこの街にもいるだろう無神経なおばさん的な概念。




