横道の回廊へ
拝殿から出て、扉を閉める。それから鈴をガランガランと鳴らして手を合わせた。
……どうか、この先にハッピーエンドを届けられますように。
口には出さない。
願い事は、口に出したら叶わないというから。
「なあん、なあぁん」
「ジン、まだなにかあるんですか?」
「んん〜ぅるるる」
喉をゴロゴロと鳴らしつつ、鳴き声をあげながら三毛猫が拝殿の手前を歩き回る。しかし、特になにもなかったのか、満足すると彼はお尻を高く上げて、ピンと伸ばした尻尾をふりふりと……あっ、これは。
「いらっしゃーい!」
「なあん!!」
私の腕の中にジャンプしてきたジンを、よしよしと抱きしめながら拝殿に背を向ける。多分、ジン的にももういいのだろう。アカツキ達に目配せをしてみても、首を振って進もうと翼を指し示すだけである。
私よりもよほどこの子達のほうが状況を掴めている気がする。もしかしたら、ここを作り上げているのが魔獣だから、なにか同調するところがあるのかもしれない。
私が同じ立場だったら「帝国の思惑をぶっ壊してやる」と思うように、この子達だって、私が誰かに殺されたとあれば……それも、取り返しのつかないことならば、ここのラスボスと同じようなことを考えてしまうんだろう。それだけ、私はこの子達に愛されている自信がある。
長い石畳を歩いて行き、ざわざわと風に揺れる木々の影を注視しながら石段を下っていく。
途中で「ホウ、ホウ」とフクロウの鳴く声が聞こえて顔を上げた。杉の木がずらっと並んでいる中、その辺りでフクロウの鳴き声は聞こえてくるが……肝心のフクロウそのものは見当たらない。ただの環境音なのかもしれない。
そういえば、ここに来たときは耳に痛いくらいの静寂が包み込んでいたが、鈴を鳴らした後くらいから木々の葉が擦れる音や、鳥の声。それこそフクロウの声がし始めた気がする。
これにもなにか意味があるのだろうか? 考えても、原典が分からない今では考察することができない。階層のどこかで引き返すか、死ぬまで取り敢えず考察は後回しだ。そのときに思ったことだけ、詳しく覚えておこう。あとで答え合わせをしたいし。
「シズク、なにもいないですか?」
「しゅぅ」
定位置のシズクが首を縦に振る。なにもいない。やはり、演出的な環境音なのだろうか? 気にしないことにして、進む。
しばらくすると、石でできた鳥居が終着点にあった。
雑誌や旅行で見るような立派な赤色の鳥居ではなくて、その土地に元々あったような素朴な灰色の鳥居だ。毎回こういうのを見るたびに、地震があったらどうするんだろう? なんて思ったりもするが、現代では根本と接着部辺りにきちんと割れたり崩れたりしないように対策が施されているらしい。
もしくは、元からある鳥居は撤去されていて、簡易な木組みの鳥居をホログラムで補強し、そこにあるように見せかけているだけにしているとかか。
鳥居自体をなくしてしまうことはできないのだそうだ。そりゃそうだ、一応神様の家の玄関なんだから、さすがに完全に撤去することはできない。現代技術でそこになくてもホログラムで再現できたりするが、それとこれは別だ。
ある程度の信仰やオカルト的な要素も人には必要なのである。それを心の支えにしている人がいなくならない限り、こういうのは絶対になくなることはない。
さて、暗い杉の木立の中から出ると、片側は田んぼになっていて、もう片方は小さな笹のような低木がずらっと並んでいる。これ、なんていうんだっけ? よく通学路とかで見るやつとは微妙に違うよね。葉っぱの形はササだと思うんだけど、名前は知らない。
そのままどこに向かえばいいのか分からず困惑していたが、とりあえず進めばいいのかと思って道なりに進んでいく。それから、やがて見上げるような大きな銀杏の木まで進んでくると、道が分かれていた。
さて、これはどうすればいいのだろう?
なんとはなしに右側に進み……そして、目の前に扉が現れた。
『あ』
『ん?』
「ん、どうしました?」
『いや、ごめん。なんでもない』
『ちょっと、思わせぶりなこと言うなよ』
「もしかして、あそこの道、間違えてました?」
『あー、ほら気づいちゃった』
『ネタバレ非推奨なんだから黙っとけ』
『うん、まあ多分そうなんだけど。とりあえず初見のまま進むんでしょ?』
『本当にごめんって』
「そうですね。あと、あんまり責めないであげてくださいね? 私は構いませんよ。のんびりやりましょう」
なるほどね、銀杏の木で左に曲がる。ケイカ、覚えた!
「しかし、正しく進んだわけでもないのに扉が現れましたが……なんだか、扉の形が違いますね」
目の前に浮かんでいる扉はなんというか、横長だ。
今までの扉が縦長で、大きな両開きの扉だったなら、これは天井の低い横に長い扉だ。ちょうど、横に長い絵画の額縁がこんな感じの見た目じゃないだろうか?
「不正解でも道は開けるんですねぇ」
『なんか、正規ルートになってるモチーフじゃない、別のモチーフが元になってる横道もあるみたいなんだよね』
『一階層目はチュートリアルだからか分岐しないんだけど、それ以降は分岐するらしい』
『え、そこまで言っちゃっていいの?』
「ふうん? まあ、いいですよ。モチーフが二つ……ですか。この扉を無視して正規ルートに戻ってもいいんですが、そっちも気になるのでまずはこっちから行ってみましょうか。どうせ周回前提ですし」
『ケイカちゃんがやりたいことからでいいよ〜』
『気になるなら飛び込んじゃえ』
『横道のほうはまだモチーフ判明してないし、ケイカさんの考察も聞きたいわ』
「おっけー、ならこちらからにしますね」
ふわふわと浮かんでいる扉に手をかける。
扉はあっさりと開いた。
「こっちはユリの花の鍵、いらないんですね」
それが最大の違いだろうか。
そして扉の中に飛び込む。
――瞬間、今度はなにか本を閉じたときのような音がした。
原典では「拝殿の鈴を鳴らして、柏手を打ってからフクロウの声がぱったりと聞こえなくなった」(意訳)という記述があるので、後ろから始まりへ向かっている本編中では逆に鈴を鳴らしてからフクロウの声などの環境音が復活している演出となっていたりします。




