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言の葉ウォーズ  作者: 二ノ宮明季
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「《武器》《銃》《具現化》」

 樒は、まず物騒な武器を具現化させた。

「茜音、あげるー!」

 今の樒と茜音の間には、結構な距離があった。しかし、彼はためらうことなく、たった今《具現化》させた銃を茜音へと放る。

 対して、ごく普通の少女である筈の茜音は、空中で銃をキャッチした。

 銃の構造だとか、硬さだとか、細かいこと全部をなかった事にしたように、ゴムボールでのキャッチボールかの如く、彼女はいとも簡単に銃を手にしたのだ。

 既に異常な状況ではあるが、輪をかけて異常だ。

「ありがとう」

 異常性は、それだけではなかった。

 茜音は樒に礼を言うと、受け取ったばかりの銃を能漸と藤に向けたのだ。

「蓮夜、よそ見しないでよ。僕と遊んでくれなきゃ、イ・ヤ」

 語尾にハートマークでも付きそうな程、ねちっこい発音で、樒が俺に言う。キモい。

 俺は無視して、「《武器》」と零した。

 ――と。耳の奥まで、金属的で、人工的で、破壊的な音が響いた。

「ほ、本当に撃ちましたよ!?」

「だろうな。冷静にどうするべきか考えろ」

 音の正体は、直ぐに分かった。茜音が、手に持った銃を撃ったのだ。

 横目に確認するが、よろけた様子も見当たらない。洗脳状態とは、鉄壁の肉体を手に入れることとイコールなのだろか。

 だが、茜音の肉体は銃を打つことに慣れている物ではない。重ねて言うが、彼女は普通の少女なのだ。

「気になる?」

 樒が俺に問う。頷くと、「ちょっと教えてあげる」と、上機嫌そうに笑った。どこか、狂気を纏わせたまま。

「茜音と僕はお友達だから、彼女は僕に協力してくれるんだよ」

「何言ってるんだよ」

「友達はね、一生懸命協力してくれるものなんだよ。特に、素敵な物語の中では、ね」

 やっぱり何を言っているのか、イマイチ分からなかった。

 それと同時に、知りたくない気持ちが、胃からせり上がって来るようでもある。このまま吐き出してしまった方が、かえって楽だろうか。

 この、楽という感情は、誰にとってのものなのか。

 俺だけが楽になるだけの行為ならば、吐き出してはいけない。しわ寄せが、モモに行くかもしれないから。

 他は、まぁ、どうでもいいけど……モモが苦しむのだけは、駄目だ。

 俺は必死に飲み込んで、落した《武器》の言葉を拾い上げる。

 そして、そっと《具現化》した。今度は刀になっている。モモの武器の認識がそうなったから、だろう。

 この場面で目玉焼きとか出てくると、ただでさえ勝てそうも無い物が、勝機ゼロになってしまう。それを考えて、ものすごく安心した。

「僕を無視して、普通に戦う事にしたの? ちぇー。僕、おこだよ。激おこぷんぷん丸だよ」

 樒は、微妙に古い言葉を吐き出しながら、わざとらしく頬を膨らませた。

 新しい言葉って、直ぐに廃れて難しい。個人的には激おこぷんぷん丸は面白くて気に入っているけど、それを樒が使っていると急激に熱が冷めるようだ。

 それこそ、ムカ着火ファイヤーというものなのである。

「《ナイフ》」

 俺が刀を構えて、樒を睨み付けると、彼は新たな言葉を吐きだした。

「《ナイフ》《ナイフ》《ナイフ》《ナイフ》」

 彼は大量に同じ言葉を零す。

 あまり、相手に口を開かせない方が良いだろう。俺は、樒に向かって刀を振り被り――思いきり、振り下ろした。

 …………感触は、なかった。

 よくよくみると、黒い靄に阻まれて、俺の振り下ろした刀は途中で止まっていた。

 先程まで、樒は靄を纏わせたりはしていなかった筈だ。それが、何故――?

「びっくりした?」

 樒はにっこりと笑って首を傾げた。

「一応ね、ちょっと切れたんだ。僕から退色血《スミゾメ》は少し流れた」

 そうは言うが、彼から黒い血が流れている様子は見られない。

「だから僕は、自分の退色血《スミゾメ》に願ったんだ。いつものあの靄になって、僕を守って欲しいな、って」

 瞬間、全身が粟立った。慌てて刀を引き、後ろに跳ぶ。

 その刹那、俺の元居た場所には、真っ黒な靄が現れた。いや、現れた訳ではない。樒を守ったアレが、その場に降り立った、とでも言うのだろうか。手も足も、なにも無いが。

 退色血《スミゾメ》が靄に変わるなんて、聞いたことが無い。

「退色血《スミゾメ》も、自分の一部なんだからさ。お願いすれば、そりゃあ聞いてくれるよ」

 こいつ、化け物か。俺だって充分化け物のジャンルに分類されるタイプだが、そんな比ではない。俺と樒の間には、おそらく、クラーケンとイカの塩辛位の戦力差がある。

「蓮夜がすっかりおとなしくなった隙に」

 樒は笑顔を崩さぬまま、沢山落とした《ナイフ》という単語を拾いあげた。

「《コピー》《ペースト》」

 彼の言葉に反応し、倍の数になる、《ナイフ》。言葉をコピーするなんて、そんな方法、俺は知らない。

「《ペースト》」

 さらに増える《ナイフ》。姿こそ言葉のままだが、俺には本物のナイフの姿に見える位に、恐怖を覚える物だった。

「じゃ、蓮夜、遊びの続きをしようよ」

 樒は笑う。狂気を孕んで。真っ黒な靄を纏って。


   □◆□◆


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