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言の葉ウォーズ  作者: 二ノ宮明季
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 見覚えのあるそれは、俺とモモ、樒と茜音の組み合わせで対峙している、丁度中ほどに出現している。勿論、本当に間にあるわけではない。俺達を横から見たとしたら丁度中間くらい、というだけの話だ。

「あちゃー、来ちゃった?」

 樒が切込みに向かって話しかけた。モモには答えないのに。

「来ちゃいましたよぉー」

「来る機会が無いのなら、その方が良かったのだがな」

 切込みから身を滑り込ませてきたやつらは、見知った奴らだった。掃除屋《シュウセイシャ》の、藤と能漸だ。

 今から樒と一発やり合わなきゃいけないだろうに、こいつらもか……。

「で、百合」

「何?」

 樒は、白い二人組の事は気にせずに、モモに話しかけた。話しかけられたモモはと言えば、大層不機嫌そうに、樒を睨めつけている。

「答えはね……《過去》」

 樒の口からこぼれた言葉が、形となって《床》に落ちた。こいつ、何をするつもりだ。

 俺はモモの前に出て、彼女の楯になった。本当になれているのか、意味があるのかはさておくとしても、やらないよりはマシだろう。

 全部、俺の自己満足なんだろうけど。

「《百合》に《反映》」

「そんな事言ってる間に、消してやりますよぉー! 石鹸《ケシゴム》!」

「待て、突っ走るな!」

 樒が新たな言葉を零した瞬間に、藤が石鹸《ケシゴム》を取りだして、彼に襲い掛かる。先輩である能漸の静止は、全く聞いていないようだ。

 モモは俺の背中から顔を出して、必死に今の状況を見ようとしている。見なくていいから、大人しく守られて欲しい。

「助けてー、茜音ー」

 樒は藤を一瞥してから、センに言った。センは自然に……本当に自然に樒の前に立つと、両手を広げる。

 藤は、慌てた能漸にもこもこの長い髪の毛を掴まれて、強制的に止まった。が、油断は出来ないだろう。

「茜音、止めて!」

 俺の後ろからモモの悲鳴じみた声が聞こえた。

 しかし、彼女の声は空しく、センは微笑みを浮かべたまま、樒と藤の間から退けようとはしない。その間に樒は《床》に落ちた言葉を拾い上げていた。

「実行《スタート》」

 樒は、掌の文字に、もう一つの単語を降らせた。

「何を――」

 俺の言葉は、最後までは続かない。

 背後で、ドサ、という音がしたからだ。慌てて振り向くと、モモが倒れていた。

「モモ!」

 こいつ、何をしたんだ!? 手も触れず、一体モモに何を――!?

「大丈夫、ちょっと眠ってるだけだよ」

「眠ってる?」

 俺は樒に視線を向けて、眉を顰めた。

 センは相変わらず両手を広げて微笑んでいるだけだ。モモの考えはどうやら正解だったらしい。誰がどう見たって、倒れた友達を放って微笑む人間なんて異常で、異様だ。

 視界の端では、綿埃娘がコスプレイヤーに掴まれている髪の毛を離してくれと言っているようだったが、今はまぁいい。関係ないし。

「彼女には、色んな過去を見て貰おうと思って」

「意味が分からない」

「平たく言うと、戦いに参加させると、君が心配し過ぎて本気で遊んでくれないから、とりあえず眠って貰ったんだよ」

 ここまで言うと、樒は人差し指を俺の方へビシッと向ける。

「で、ただ眠るのは面白くない! そう考えた僕は、百合にも素晴らしい余興を用意したんだ。僕偉い!」

 偉くない。あと、この状況が面白くない。

「百合には、君のモモメモリアルを見てもらう事に決めたんだよ。とはいえ、君の視点から、って訳じゃないけど。何代も前の百合を、夢の中で見てもらう。何てファンタスティィィック! 色気すら感じるよね! ね!?」

「そうね。とっても色っぽいと思うわ」

「嘘だろ!?」

 セン、どう考えても可笑しいじゃん! 今のどこに色気があった。モモが倒れている今、色気に同意する意味がどこにある。

「で、君は公森茜音に何をした」

 能漸が、藤の髪の毛から手を離し、代わりに首根っこを掴みながら樒に尋ねた。

「お願いしただけだよ。友達として、ね」

 樒の笑みが深くなる。同時に、何かが噴出したようだった。

 含みがあるとか、なんとなくあやしいとか、そういう物ではない。これはいうなれば、狂気。

 最初に会った時に感じたそれを、今、樒が纏っているのだ。

 上手く隠していたものだ。こいつの本性は、こういう恐ろしい物。俺一人でどうにか出来るようなものではない。

「どうするんだよ。四人も敵にして、俺何とかなるの? 絶対何ともなんないじゃん。終わった。詰んだ。死亡フラグだ」

 俺は大きなため息を吐き出しながら、ぼやく。

「いや、少なくとも二人は敵ではないかもしれない」

「は?」

 俺のぼやきに反応したのは、意外な奴だった。

 白い綿埃の飼い主にも見えてきた、コスプレイヤーの能漸だ。

「私達は、貴方に協力する可能性がある、と言っているんだ」

「どういう事だ?」

「いいよいいよー! 楽しくなってきたー! このまま相談続けて! 僕はわくわくしながらじっくり見ておくから」

 何でお前がテンション上げてるんだよ、樒。

「この侵蝕者《カキソンジ》が厄介そうだったからな。神としてはこいつを生かしてはおきたくなかったのだ」

 能漸は樒を気にしながらも、俺に向かって話す。

「それ故に、特例を作る事を考えた。ただし、お前が、利害が一致したと認識するかどうかで、敵か味方かが変わるが」

「いいから、さっさと本題に入れ」

 何だって、のんびり前口上を聞いていなければいけないのか。

 こんな長ったらしいセリフを喜んでいるのは、今の所樒だけだ。わざわざ喜ばせたくはない。

「侵蝕者《カキソンジ》の蓮夜という設定で、主人公《ヒロイン》公庄百合の物語のメインキャラになる事をどう思う?」

 能漸は、質問として俺に提案し、そして答えを促した。

 つまり、元のキャラクターとしての蓮夜はもう出せないが、今の俺としてならば良しとする、と。

 この提案は、俺にとって悪い物ではない。それどころか、いい物だ。

 俺は誰かに成り代わるつもりもなく、あくまで寄主蓮夜として百合の近くに居たかったのだから。

「願ったり叶ったりだ」

 俺は、そう答えた。

「あぁ、それはよかった。侵蝕者《カキソンジ》二人を掃除しなければいけないかとひやひやした」

「消せばいいじゃないですかー」

「お前は黙っていろ」

「先輩、藤に厳しくないですかぁ? 藤が可愛すぎて素直になれないんですか? そうなんですよね! やだーっ!」

 うわー、藤ウゼー。能漸も、露骨に嫌そうな表情を浮かべている。

 ……藤は、仕事熱心と言えば聞こえはいいんだろうけど、ただ単に侵蝕者《カキソンジ》を消したいだけなのだろう。ま、俺はどっちでもいいけど。

 ウザいのだけは勘弁してほしいけどさ。

「つまり、協力してあいつを倒せれば、俺を侵蝕者《カキソンジ》の寄主蓮夜としてメインキャラ入りさせる、という事でいいのか?」

「そうだ。どうする?」

 断る理由も無い。俺は能漸の問いに、「勿論協力する」と答えた。

 それに、樒をどうにかしなければ、モモに何かあるかもしれない。現に倒れてしまっているのも問題だ。センに関しても、元に戻さなければモモが悲しむだろう。

「決定? 話し合いお終い?」

 樒が、わざとらしく首を傾げた。

 周りからの評価が、可愛いフリして割とやるもんだね、となるような仕草で、シレっと言った。

「終わったよ」

「じゃ、たっぷり僕と遊んでね」

 樒は、俺に向かってワザとらしい笑みを浮かべた。

「その前に、茜音」

「何?」

「僕があの白い二人にイジワルされないように、助けて。僕は、茜音との約束通り、蓮夜をとっちめるから」

「わかったわ」

 物は言い様、だ。まるで掃除屋《シュウセイシャ》が悪者であるかのように聞こえる。いや、まぁ、共闘すると決めなければ俺にとっても敵だし、悪者にもしたくなるのだが。

 尤も、「この世に悪の栄えたためしなし」という言葉も、「勝った方が正義」だから言うのだ。それを考えれば、自分=正義で、自分の敵=悪でも間違いはない。故に、樒から見れば掃除屋《シュウセイシャ》が悪なのかもしれない。

「何を言いやがりますか――」

「待て!」

 樒に特攻しようとした藤は、襟を能漸に掴まれていたせいでそれ以上は進めなかった。可愛い外見には似合わない「ぐえ」というカエルが潰されたような声が聞こえる。

「メインキャラクターを傷つけることはできない。今の状況で、どうやって侵蝕者《カキソンジ》だけを倒すつもりだったんだ」

「やってみないと分かりませんよー!」

「やる前に考えろ、馬鹿」

 藤は保護者に叱られている。センを傷つける云々はいいとしても、考えなしで特攻するのは良くないのは、能漸と同意見だ。

「じゃ、蓮夜。向こうで僕とシッポリ行こうじゃないか」

「その表現だと、冗談じゃないと言いたくなるんだけど」

「でもやる事は変わらないじゃない? 二人でやる事をやるんだから」

「……」

 もうやだ、こいつ。気持ち悪っ。

 俺の無言を肯定と取ったようで、樒は倒れているモモから距離を取ると俺に手招きした。一応、彼女に怪我をさせないようにという配慮なのか、他に理由があるのか。

 とにかく、俺としてもモモの近くで、あまり物騒な事はしたくない。

 近くに居なければ守れないかもしれないという不安はあるが、近くに居たって守れる確証はない。

 それに樒は、センと「モモの為に俺を倒す」契約をしているのだ。少なくともセンの目の前で今すぐモモに変な事はしないだろう。やるのなら、自分にとっての邪魔者を消してからだろう。

「じゃ、始めよう」

 樒が俺に言う。

 これが合図になったようで、掃除屋《シュウセイシャ》もセンと向き合う。

「……寄主蓮夜。こちらは友人《シンコウヤク》の公森茜音を、一時的に行動不能にする。先にそちらを押さえておいてくれ」

「分かったよ」

 彼らの動きを聞き、短い言葉で返す。

「一対一、一対二の構図がファンタスティックだよね。やった、楽しいな!」

 突然ファンタスティックとか言うなよ。ルー大柴かよ。

 掃除屋《シュウセイシャ》二人と、センもモモから距離を取る。なんか、モモがバレーボールのコートのネット役みたいになっているが……怪我をしないでいてくれるのなら、何でも良い。

 こうして、ゴールの見えない戦いの幕が切って落とされた。多分。


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