ツクヨミの依頼
EROの世界にはプレイヤーが個人で所有できる敷地が存在する。
家もその一つだ。
マイハウスと呼称されているそのスペースは家具の配置などを自由に決められ独自のレイアウトが楽しめるようになっている。あとはアイテムの収納数も増えるため、倉庫代わりなどの用途もある。
家のタイプも固定の土地から、ツクヨミのように移動できるタイプまで様々だ。
こうした個人のスペースは必須ではないが、ファンタジーライフを満喫したい人にとっては人気の高いシステムである。
キョウヤに関していえば倉庫代わりに使うことが多いが、たまには休憩する際にも用いている。つい最近では避難所に使っていたこともあったが。
家具などは初期配置でベッドが並んで二つと隅に箪笥が置いてあるだけの簡易なものだ。装飾は何一つない。それでも個人の空間という心地良さで寛げてはいる。
ただキョウヤにはどうしても気になることがあった。
それはキョウヤが腰掛けているベッドの隣にいるチアだ。
彼女はベッドに寝転び、ゲーム内での人気漫画を特集した『月刊EROリスト』をお菓子のポテチを食べながら読んでいた。
面白いのか時々口元を押さえて唸ったり、身を反転して脚をばたつかせて笑い声を上げたりしている。
キョウヤの部屋だが本人よりも寛ぎまくっている。
おまけに今は装備を外し部屋着のような格好なので、女子高生の私生活を見せられているに等しい。これではファンタジー感ぶち壊しである。
そんな光景にさすがのキョウヤもたまり兼ねて口を開いた。
「チア……もう少し節度というか、自重はできんのかね? 私とて異性への幻想などを持ち合わせているのだが、いま目の前で物凄い勢いで瓦解していってるよ」
「えー……こんなもんだってーじょしこーせー。蓮見さんもー」
「断じて違うぞっ! 蓮見くんはそんなではないっ!」
キョウヤは何度も妄想した理想の蓮見像を思い返し、精神攻撃に対抗する。そんなキョウヤを横目で眺めつつチアは、
「あんまり夢見るなよー、少年」
ポテチを口にくわえながらニヤニヤする。
懊悩するキョウヤをチアが面白がって見ていたが、そこで部屋のドアがノックされた。
顔を見合わせる二人。またノックが響いてから少し間を置くと、扉の向こうから声が静かに届いた。
「キョー……?」
その声と呼び方にすぐさま誰か理解したキョウヤは、扉に向かって言った。
「入りたまえよ、ツクヨミくん。君には制限を解除してあるよ」
また僅かに間が空き、やがてゆっくりと扉が開かれた。
そこにはやはりツクヨミの姿があった。
青い髪と瞳が印象的な少女だ。イメージカラーの青い帽子とコートに身を包んでいる。
完全に開いてからも外へ立つツクヨミに、キョウヤはまた入るように促す。
するとツクヨミは丁寧に扉を閉め、そこからちょこちょこと移動し、少し横にずれたところの壁際で止まった。
もっと入るように言ってもここでいいと手振りで示した。何とも慎ましい遠慮がちな態度である。ベッドで胡座をかいているチアとは大違いであった。
しかし両者の間には微妙な距離ができていた。話をするにはちょっと遠い。
キョウヤは、ならば、と立ち上がりツクヨミに歩み寄った。チアもキョウヤに続く。
二人で目の前に行くと、ツクヨミは少し困り顔を見せていたが次に息を整えた。キョー、と一度呼んでから、
「手伝ってほしいことある……」
その用件は小さな唇から密やかに告げられた。
キョウヤたち一行は王都から離れた場所にある古びた坑道の前にいた。
入口からトロッコのものと思われる線路が伸び、奥の暗闇まで続いている。
「うわ……また洞窟っぽいとこなんだ……」
露骨に嫌がる声を出すチア。彼女にしてみればいい思い出もないので当然の反応か。
ツクヨミは無表情だった。特にこれといった感想もなく口を噤んでいる。
ツクヨミの依頼はこうだ。
とある素材を手に入れるために、ここを抜けた先にある山峽に生息するフィールドボスを狩りたいとのこと。
いくらツクヨミでも一人ではきつい相手なので、キョウヤたちに頼みにきたのだ。フレンドを作らない主義から知り合いの少ないツクヨミには他に思い付く宛てもなかったのだろう。
しかしそんなことはどうでもよかった。
キョウヤとチアには嬉しかった。自分たちに頼むという選択肢があってくれたことに。ツクヨミと比べればまだまだレベルも経験も頼りないが、それでも力になってあげたい。
それが二人の答えであった。
「行こうかね」
キョウヤが歩き出すと、二人も後へと続いた。
内部は森閑として薄暗く、天井や壁は不揃いでいびつな岩肌をしていた。だが地面だけは均等に舗装されてる場所が多く歩き易かった。
「ところでツクヨミくん。そのフィールドボスというのはどんな奴なのかね?」
キョウヤを仰ぎ見たツクヨミは答える。
「サイ……大きいサイ……とってもだ『サイ』……」
「はっはっはっ、ナイスジョーク! いっそ戦わずに頼んでみるかね? 『サイ』高の誠意を込めて!」
「それ嘘く『サイ』……」
隣で聞いていたチアは頭を抱え、
「つっこんだら負け……負けだから……」
それから何かを思いついたのか急にキョウヤの十八番の得意顔で胸を張った。
「二人とも……変なこというのはやめな『サイ』!」
「……何をくだらないことを言っているのかね、君は」
「最悪……」
「ひっど! なにこの扱いーっ! っていうかツクヨミちゃんの最悪って『サイ』悪ってノリだよね! 本心じゃないよね!」
ツクヨミは珍獣を見る目を向けながらチアから離れていき呟いた。
「『サイ』なら……」
「待ってー! それもギャグなの!? ツッコミ待ちなのー!?」
それから暫く歩いていくと開けた地形となっていた。
入口からの線路が一旦途切れており、端にトロッコが停車している。
その奥は大空洞といった様子で天井も地面も底が深くて見えない。周囲には他の線路が何本もあり、それが複雑に通路となって入り組んでいた。
キョウヤがここからはトロッコで進むべきなのかなどと考えていると、少し離れたとこでチアが線路の端の部分に乗って下を眺めていた。
「チア、それは危険だと思うのだが」
「平気、へーき! うあっ……!」
肩越しにキョウヤを見てアピールするが、そこで若干バランスを崩した。チアは慌てて身体を線路側に向けて倒れ込む。
あはは、とばつの悪そうなチア。
しかしキョウヤはもっととんでもない事態になることを悟った。
彼女が倒れ込んだとき、そこにあった物を無意識に掴んでしまっていたのだ。チアも腕に持った何かの先を見て固まっている。
そこにはレバーがあった。
それもチアによって完全に押し込まれている。
沈黙。
そして突然の轟音と同時に線路が外れ、チアは線路ごと落下した。
急いで駆け寄って下方を見るとチアは無事な様子だった。
こちらに手を振っていたが、自分の背後を見ると顔色が一変した。
そして全速力で走り出す。その背中を大岩が転がり追い掛けていった。
「いやぁああああああ〜〜〜っ!!」
キョウヤたちはその上の路線を並走する。
眼下には線路を砕きながら高速で迫る岩。その前を行くチア。見事な疾走を見せるチアにキョウヤは感心して微笑みながら、
「相変わらず彼女のトラブルメーカーっぷりは芸術的だね」
暢気な感想を述べた。
彼女は何かとこういったトラップに掛かる才能でもあるようだ。
隣で走るツクヨミが同意と小さく頷く。
「しかもあれで巻き込まれ体質ときたものだから……もう人生楽しいだろうね!」
色々と巻き込んでいる張本人がこれである。
ツクヨミが半目をキョウヤに向けているが、全く気付かない。
下ではチアと岩の距離が迫っていた。もうすぐ線路は狭い岩壁に入っていくが、そこまで間に合わない。
「ツクヨミくん!」
キョウヤが叫ぶ。
同時にツクヨミは薬を取り出し、それを調合してキョウヤに振り掛けた。
瞬間キョウヤが加速した。速度増加の秘薬だ。
加速を得て一旦チアを抜かし、線路脇から離れるとキョウヤは線路を真横に突っ切り、そして飛んだ。
空中を突き進む大跳躍。
一気に眼下にあった線路まで着地する。
着地点はチアの目の前だ。衝撃で脚が線路を破壊しライフが減少していくが、キョウヤはそれを無視して掌に火炎を呼び出した。
チアが横切った刹那、岩に向かって投げ付ける。
大岩を火炎が直撃すると縦半分に砕け、キョウヤを避けるように脱線してから爆発した。
キョウヤは驚いて止まっているチアの方に向き直った。
「キョーヤ……!」
キメのポーズを取って自分を讃える声を待つ。しかしチアから来たのは意外な言葉だった。
「キョーヤ! 逃げて!」
怯えた声で言い、またしても走り出すチア。
キョウヤには疑問だった。なぜだろう。危機は去ったというのに。
もう一つ疑問が浮かんだ。なぜだろう。危機は去ったというのに、まだ後ろから何かが転がる音がする。
気になって振り向くと背後に大岩があった。一投だけではなかったようだ。
キョウヤは覚悟を決めると、大岩に轢かれ死亡した。
『甦りの腕輪』の効果が発動するとキョウヤは目を覚ました。
チアとツクヨミがこちらを見下ろしている。
身体は壁の付近にあり、正面には崖の狭間とそれに激突してめり込んで停止してる大岩があった。
そうか。自分は岩に当たった衝撃でここまで跳ね飛ばされたのか。
考察しているとチアが心配そうな顔で覗き込んできた。
「大丈夫……?」
ダメージから立ち直ったキョウヤが立ち上がる。
「問題ないよ。それにしても君は本当にトラブルを呼び寄せる天才だね」
「うー……そんな才能いらないよー……」
チアは反論するも心なしか遠慮している様子だった。
自分の招いたことに対し、助けようとして死亡させた上に課金アイテムも使わせてしまったからだろう。
だからキョウヤはそんなことは噫にも出さない態度をとった。実際のところ気にしてないのだが。
「その才能を生かしてダンジョン案内人などやってみたらどうかね? きっと私のような派手な死亡者が後を絶たないはずだよ!」
「なにその地獄ツアー!」
「私も月一くらいで通わせもらおう」
「うわー……なんかリアルだね。刺激を求めるサラリーマンみたいな」
そこにツクヨミが割ってくる。
「ツアーできたら手伝う……爆破係……」
「一体何を爆破する気なの!? それ営業妨害だからっ!」
「ははは、スリルとサスペンスに満ちた日常を提供とはやるね、新感覚だ」
「そんな日常を提供できる人生なんていやだぁー!」
いつもの調子が戻ったところで不意にキョウヤは歩き出した。手間取ったが早いとこ坑道を抜けて依頼を達成しなければ。
チアとツクヨミも釣られて歩き出す。
それからも道程が続いた。
様々なトラップや難所を突破すると、やがて辺りは平坦な道となっていた。
「しかしこうして探検しているとあのゲームを思い出してくるね」
「あのゲームって?」
キョウヤが口にした感想の中に珍しい単語が混じっていたのでチアが聞いた。
「スーパーマジキチブラザーズといって少し前に一世を風靡した名作横スクロール型アクションゲームだよ。当時あまりの高難度に挫折したプレイヤーは数知れずの今や伝説となったゲームだね」
「マジキ……え……? ち、ちなみにどんなゲームなの内容」
「ある日わるーい亀の大魔王が、市民に重税を課して苦しめる姫をさらうところから物語は始まる」
「それもういっそさらわれてよかったんじゃないかなぁ……その人」
「そこに赤の兄と緑の弟が立ち上がる!」
「立ち上がっちゃうんだっ!」
「謝礼金が目当てという設定だったようだね」
「なにそれリアルでやだな……」
「そんなに大した苦労もなくラスボスまで辿り着くと、そこには衝撃の展開がっ!」
「え? 高難度って言ってなかった?」
「そうだね。ストーリーがあまりにシュールで残酷すぎて耐えきれなかったのだろう」
「精神的に高難度っ!? ……それで衝撃の展開って?」
「うむ。なんと大魔王は姫に一服盛られて毒殺されていたのだ」
「その姫間違いなく魔王より極悪だからっ!」
「更に追い撃ちを掛けるように弟の裏切り! 弟は最初から魔王側だったのだ」
「まさかの展開っ!」
「最初に弟から姫がさらわれたとの一報を知らせてきたのに、犯行はその数日後だったというのがまさか共犯フラグだったとはね」
「疑う余地もなく真っ黒だよ弟っ! 共犯もっと足並み揃えようよ!」
「めでたしめでたし!」
「終わっちゃった!?」
チアのその言葉通り、ようやく坑道に終わりが見えた。
出るとその眩しさに一瞬戸惑うも、すぐさま景色が映り込んできた。
それは美しい山だった。
山間なので周囲はそうなのだが、内側からは靄がなく視界が冴え渡り、遠くの影ですら群青の色合いを覗かせている。
地面には草原。
それも身の丈の高い黄金色だ。全体が風の揺らめきに身を預け、一律の動作で煽られた先へと向かっていく。
そんな楽園のような神秘的な風景に目的の物があった。
フィールドボスだ。
見た目は本当にサイそのものだが、山のように聳える巨体だ。グレーのボディに太い角、とにかくすべてが規格外のスケールだった。
今は腹部を床につけて堂々と寝そべっている。リラックスしているようである。
「うっわ……ホントに大きいねー」
背後でチアが誰もが抱く感想を述べた。
「気をつけて……」
ツクヨミが警戒するよう呼び掛ける。
油断してる今のうちに叩こうかとチアとツクヨミが構えると、サイに変化が起きた。
急に腹部を地面から離して立ち上がり、のっそりとこちらを向き見つめてくる。
そして大きく口を開けると咆哮した。
耳を劈く音と吠えたことで生まれた風が周囲に衝撃をもたらした。僅かに押される程度のものだったが敵を怯ませるには充分な役割だ。
サイは二人の敵意に気付いたのだ。まだ距離はあるというのに。
吠え終わるとサイが走り出す。
先手を取られた。再び構え直す二人。
そこで誰よりも早く行動したのはキョウヤだった。
彼も走り出し、サイとの距離を一気に詰めると突進の先陣を切る角に向かって剣を突き出した。
「行くぞ!」
キョウヤの気合いの一声。
角と剣が衝突する。
そして次の瞬間だった。なんとキョウヤは呆気なくサイに轢かれ吹っ飛ばされてしまった。
この体格差を考えれば当然といえば当然の結果だが、これほど盛大に跳ね飛ばされるとは。
チアは唖然とし、ツクヨミは吹き出してから背中を向け口を押さえて肩を震わせ笑いを堪えている。
おまけに『甦りの腕輪』を装備し直すのを忘れていたようで本当に死亡している。
一体何しにいったのか。
呆然としていた二人だったが、やっと動き出した。
チアはサイの真横へ跳んで弓を構える。
「バーストショット!」
破砕の意志はサイの首元を捉えた。
しかしそれほど効果がないのか反応は薄い。少し首を焦がした程度に終わった。
チアに注意が向こうとする前にその反対側からも爆発が起こった。ツクヨミの爆薬だ。
サイは威力のあるツクヨミを目掛けて走り出した。
チアは安全が確保されたのを確認するとキョウヤに駆け寄り『復活の薬』を使った。
キョウヤはむくりと上体を起こし、
「今回ばかりは死ぬかと思ったよ」
「いや死んでたしっ!」
ツッコミを入れている場合でもなかった。
ツクヨミの方を見るとサイの突進を障壁で防いでいた。角と壁の間に火花が散り力が拮抗をみせた後、徐々にツクヨミが押され始めている。
障壁が砕け、その衝撃でツクヨミが吹っ飛ばされた。
チアが気を引くために再びサイの背面に矢を放った。そして振り向くと顔面にバーストショットを見舞った。
チアへ突進するサイ。爆発を身体に浴びても止まらない。
移動しようとするチアへ、サイが構えを見せた。
前脚を振り上げ地面を蹴ると、振動が地面を伝いチアの足元を揺るがした。バランスを崩したチアが転倒する。
サイはそこに向かって走り出した。
飛び込もうとする真横からツクヨミの爆薬が割って入る。だが怯みはするものの、すぐにチアへ向いた。
しかしそこにもう一つ割って入ったものがあった。
「どこを見ているのかね?」
キョウヤだった。
いつの間にか戦線に復帰したかと思うと、言葉と共にサイの顔面に飛び蹴りを放った。
「キョー……風とお腹……」
「了解だ、ツクヨミくん!」
首を傾げるサイの右側から頭を狙い風の衝撃波。
一発目は右拳から撃ち出すように。切り替えして二発目は左拳で。そして両の掌底打から繰り出した三発目。
突風の三連発にサイが微妙にバランスを崩す。
キョウヤはツクヨミから飛ばされた攻撃力増加の秘薬を受け取ると、剣を打ち鳴らした。
「ストームブレード!」
集まってきた透き通る緑色の風が剣に纏い、渦状の疾風を展開する。そのオーラの奔流は鍔から切っ先までを行き交っては大気を震わせる。
キョウヤの狙いは右前脚一点だった。
このサイは脚が短いために通常の状態では腹部を攻撃できない。だから衝撃波で左に傾いた今こそ、反対の脚を攻撃することで転倒させればいい。
理屈は簡単だがサイの巨体を転がすなど、並大抵のことではない。例えバランスを崩していてもだ。
だがキョウヤの剣に加わった風の力と、ツクヨミからの強化がそれを可能にした。
右前脚を下方から掬い上げるように切り込むと、押し込む風に全力を込め身体ごと持って行く薙ぎ払いの一撃を決める。
サイの巨体が横臥した。
キョウヤは今こそ風の力で弱点の腹部を穿った。
速度と風圧が織り成す連続の突き。穿つ度にサイの身体が激しく震えた。伝っていく緑の衝撃が全身を切り裂いて走る。
サイが弱っていく。
そして決めたのはチアだった。
チアは跳び起きると弓を遥か頭上に向けて構え、
「レインショット!」
それを勢いよく撃ち出した。
矢は弧を描き高々と空へと上る。高空で停止した矢は爆散し、数多の矢となって空域を占領した。
「キョーヤ!」
キョウヤとチアが同時にサイから飛び退いた。
その直後、天から嵐のような矢が降り注ぎサイに襲い掛かった。
レインショットは広範囲への攻撃を主とするために単体には不向きだが、このサイの大きさならば効果の程は抜群だろう。
弱点もさらけ出していたサイは空からの凶弾になす術もなく消滅していった。
チアが駆け寄りハイタッチを求め、キョウヤがそれに応じる。手が交わって音を奏でると、キョウヤはツクヨミの方を見た。
ツクヨミも何やら手を挙げていたが視線が合うとその手を後ろに引っ込めた。
これで素材も手に入ったし依頼は無事に完了した。
ツクヨミも満足そうにアイテム欄を覗いていた。それから彼女は一つのアイテムを取り出す。
「キョー……お礼にあげる……」
消耗品のようだ。それにはオーバードライブというスキルのクールタイムを打ち消す効果と書いてある。
オーバードライブとはレベル80以上のプレイヤーが使用可能な各職業ずつある固有スキルである。
「キョーはまだ使えないけど……きっとあとで役に立つから……」
「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
「ううん……こっちこそありがとー……キョー……」
照れくさそうに礼を言うとツクヨミは帽子を目深に被り直した。
「よかったねー、キョーヤ?」
横からニヤけながら茶化すチア。
彼女は笑顔ではあったが、どこか寂しさの片鱗を覗かせていた。理由はおそらく自分にはお礼がなかったからだろう。
するとツクヨミはチアの方を向いた。
上目でチアを見て少し躊躇してから、ボソボソと呟いた。
「チーも……ありがとー……」
それを聞いたチアは一瞬固まったが、すぐに満面の笑みが溢れ出した。
ツクヨミが親しき者に使う愛称でチアを呼んだ。それはチアに対して心を開いたということである。
「ツクヨミちゃーん!」
チアは嬉しさの余り飛び込んで抱き着き、その反動で二人は草原に寝そべった。
「もう一回呼んでー!」
「うざ……うっざ……」
頬ずりするチアに脚をばたつかせて嫌がるツクヨミ。
そんな様子を腕を組んで見ていたキョウヤは感慨深く頷き、
「ははは、仲良きことはいいことだねっ!」
「よくない……!」
締めに入ったキョウヤに、本当に珍しくツクヨミがツッコミを入れるのであった。




