「Sky」をプレイする室生家の人々《マンタの語り部》
結界師の朝は早い。
時計の針は六時を指している。
豆を挽き、サイフォン式で淹れたモカ・マタリをすすりながら、俺はハザマが来るのを待った。
今日の『Sky』のデイリークエストが難しいので、ヤツが助けを求めに来るに決まっているからだ。
本日のデイリークエスト
・峡谷を訪れ、しばしの間若木を愛でる
・青い光を集める
・フレンドと手を繋ぐ
・マンタの語り部を解放する
この『マンタの語り部』は、あちこちに飛び散る光を回収するだけのクエストなのだが、峡谷の天球儀のあるエリアで行われる。
制限時間があるうえに風も強く、光が速いスピードで逃げるため、スマホ操作では非常に難易度が高い。
『マンタの語り部よ、ひょっとして解放を望んでいないのか?』と思わずにはいられない。
今日に限っては、襖がそーっと開けられ、ハザマが静かに現れた。どうやら、朝から襖を開ける音がうるさいと、使用人たちに陰口を叩かれたらしい。
「御影。今日のデイリーはスマホで大丈夫なのか?」と、ハザマが上から目線で聞いてくる。そして、笑みを浮かべながら付け加えた。
「Googleアカウントと連携済みなら、私のSwitch、お前に譲ってやっても良いぞ?」
今日の精霊解放は、Switchのコントローラーで操作した方が断然楽だ。
「え? 良いのかよ? なんか今日のお前、やけにしおらしいな。何かいいことでもあったのかよ?」
ハザマは『よくぞ聞いてくれた』と言わんばかりに胸を張った。
「Switch2が手に入ったからな。古いSwitchも、女も、お前に譲ってあげるよ」
(……マウントかよ……! くそぅ、よりにもよってハザマのとこにSwitch2がっ!)
(ていうか女って、お前が初音に婚約を蹴られたんだろうが! 都合よく記憶の改竄をするんじゃねぇ!!)
俺は屈辱と悔しさでいっぱいだった。意地でもスマホでプレイを続行し、とりあえずハザマと協力して『マンタの語り部』をなんとか解放した……。
「じゃあなハザマ。俺、サインアウトするわ」と挨拶してログアウトしようとすると、ハザマは慌てて引き留めてきた。
「待ってくれ、まだ『フレンドと手を繋ぐ』クエストが残ってるんだ!」
「色んな女のフレンドを侍らせてるんだろ? そいつらに頼めばいいだろ。俺は男となんか手を握る趣味はねえから」
「夜の生活に力を入れたせいで、私の活動限界があと三十分しかないんだ! それまでに他のフレンドがサインインしてくれるとは思えない!」
ハザマは体と魂が不調和なので、某汎用ヒト型決戦兵器のように活動限界がある。俺はムカついていたので
突き放した。
「んなこと知るか! じゃあな!」
焦ったハザマは、部屋中に響くような大きな声で叫んだ。
「御影ーッ! 私と手を繋いでくれ、頼むっ!!」
その時。襖の外からゴホンッ、と咳払いが聞こえ、惟光の冷ややかな声が響いた。
「……お話の途中、誠に申し訳ありませんが。お声が、廊下に筒抜けでございます」
あぁ。終わった……完全に屋敷の人間に誤解されたわ……。




