( ΦωΦ )♡#14 やきもち〜湊音side〜
やきもちPart1と2の間の話です。
少し、いつもと書き方を変えてみました。
美琴とルナと別れたあと。
俺は、自販機の前でしばらく立ち尽くしていた。
ガコン、と落ちてきた缶コーヒーを取り出しても、すぐに開ける気にもなれなかった。
頭の中が妙に騒がしかった。
「……なんなんだよ、本当に」
誰に言うでもなく呟く。
当たり前に返事はない。
だって伝えたい相手は今頃、先程までいた部屋であの猫と過ごしているのだから。
俺は缶コーヒーをおもむろに開けた。
炭酸でもないのに、妙に大きな音がした気がした。
ひと口飲む。
少し、苦い。
昔は飲めなかったのに、いつの間にか慣れてしまった。
「大人になったってことかねぇ……」
そう呟いて、苦笑した。
大人になったからって、諦めが良くなるわけじゃないらしい。
むしろ現実が見えるようになった分だけ、諦められなくなる。
スマホが震えた。
美琴からの着信だった。
思わず口元が緩む。
「……はいはい。」
通話ボタンを押した。
『もしもし?』
聞き慣れた声。
それだけで胸の奥が変に温かくなる。
「どうした?」
『帰れた?』
「帰れたけど」
『なら良かった』
「いや、そこ心配するところ?」
『だって夜だし』
「俺何歳だと思ってんの」
『二十二?』
「疑問形で言うな。同い年だろ」
電話の向こうで美琴が笑う。
少し安心してしまう自分が腹立たしい。
「なぁ」
『うん?』
「お前ん家の合鍵」
『うん』
「普通渡す?」
『湊音だから』
「答えになってねぇんだよ」
俺は少し嬉しく思いつつ頭を抱える。
昔からそうだった。
信頼しているから渡した。
ただ、それだけ。
そこに男女の意識なんて欠片もない。
『でも便利じゃない?』
「便利って」
『来たい時来れるし』
「だから危ないって言ってんの」
『湊音だよ?』
「俺は男だぞ」
『わかってる』
「分かってねぇんだよなぁ……」
本気で理解していない。
電話越しでも分かる。
高校の時だって、周りの男子がどれだけ美琴を見ていたか。どれだけ勘違いしていたか。
本人だけが分かっていなかった。
『そういえばさ、さっきからルナの機嫌が悪いんだけど…』
「は?」
思わず笑ってしまった。
『なんでか分かんなくて…湊音分かる?』
「お前、、分かれよ」
『だって何もしてないもん』
「俺と電話してるからだろ」
一瞬の沈黙。
『え?』
本気で分かっていないようだった。
俺は思わず天を仰いだ。
駄目だ。
こいつは恋愛って物を理解できるようにできていない
「お前さ、恋人いる自覚ある?」
『……』
「赤くなってるだけじゃわかんねぇよ」
『な、なんでわかったの!?』
「幼なじみの勘。他の男と夜中に長電話すんな」
『私たち幼なじみじゃん』
「そういう問題じゃない」
『?』
「その顔やめろ」
『今ビデオ通話じゃないし』
「なんか分かるんだよ」
また笑い声が聞こえた。
すると、電話の向こうから美琴以外の声がした。
『みこと』
低い男の声がする。ルナだろう。
『ルナ?』
『もう寝る時間』
『まだ電話中』
『だめ』
『えぇ』
『みことは俺の。』
思わず吹き出す。
「相変わらずだな、そいつ」
『なんか怒ってる』
「そりゃ怒るだろ」
『なんで?』
「俺だから」
『???』
本当に分からないんだな。
俺は苦笑した。
少し離れたところにいる白い野良猫が一人で喋る俺を見て、不思議そうにしていた。
ルナの警戒は正しい。
むしろ甘いくらいだ。
もし今でも可能性があるなら。
もし少しでも隙があるなら。
俺は迷わず手を伸ばす。
それくらいには好きだった。
いや、好きだ。
今でも。
これからも。
『湊音?』
「ん?」
『元気ない?』
「…ない。」
…そこは気付くんだな、と少し悔しいような気持ちになりながら正直に答えた。
『なんで』
「失恋中だから」
『え!?誰?』
思わず吹き出した。
本当に鈍い。
お前だって言いたくなる。
「みこちゃんには内緒。」
『えー…気になる〜』
「そのうち分かる」
『そうかなぁ』
「分かってくれないと困る」
『???』
たぶん。いや一生。美琴はこういうところだけ鈍い。
『グルルルル…』
『あ、ごめん。ルナが電話切れって』
「聞こえてる。というか猫の言葉分かんのかよ」
『んー。なんとなく?』
笑うしかなかった。
負けていたのかもしれない。
ずっと前から。
高校の頃から。
ルナは全身で美琴を好きだと言う。
隠さないし、誤魔化さない。
遠慮もしない。だから今、隣にいれるのだろう。
『いろいろあったけど、楽しかったし。また遊びに来てね』
不意に美琴が言った。
湊音は少し黙る。
それから。
「……いつでも。行くよ」
『ほんと?やった〜!』
電話越しでも耳が痛くなるほど嬉しそうな声。
こっちも嬉しい。でも、やめて欲しい。
期待してしまうから。
電話が切れたあと、俺はしばらくその場に立ちすくんでいた。
マンションの上階を見上げる。
あの部屋の明かりの下に、美琴がいる。
そして、その隣にはルナもいる。
胸の奥がチクリと痛んだ。
それでも、不思議と嫌な気分ではなかった。
「……まあ」
俺は無意識に空き缶を握り潰した。
「泣かせたら奪うけどな」
冗談のようでいて、本心だった。
美琴の幸せを願っている。
だからこそ。
もしその幸せを壊す奴がいるなら、俺はきっと黙っていられない。
たとえ、その相手が、あの猫だったとしても。
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