( ΦωΦ )♡#11 病院
「……行かない」
「行くの」
「やだ」
「何歳?」
休日の朝。
美琴は部屋の隅っこに丸まっているイケメン男子を見下ろしていた。
今日はルナの猫としての健康診断の日だった。
「別に元気」
「猫は元気そうでも病気隠すの」
「やぁぁぁ……」
完全に嫌そうな声。
猫に戻って威嚇するルナはキャリーケースから全力で距離を取っていた。
瞳孔は縦長になり、尻尾ふわっと膨れ上がっていた。
分かりやすすぎる。
そしてちょっと可愛い。
「ほら」
「シャーッ」
「威嚇しても行きます」
美琴が抱き上げると、ルナは必死にもがく。
「……前から思ってたけど、ルナ、病院嫌いすぎない?」
ルナは無言で美琴の首元へ顔を埋める。
病院までの道中。
キャリーケースの中で、ルナはずっと不機嫌だった。
「にゃ……」
「そんな声出してもだめ」
「なーぉ……」
「可哀想アピールしてもだめ」
青い目でじっと見上げてくる。
美琴は一瞬ぐらついた。
「……だめなものはだめ」
「にゃ」
今度は拗ねた。
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動物病院へ着くと、ルナの毛が逆立った。
「にゃっ!」
「暴れるなって!」
待合室には犬も猫もいる。
ルナは警戒心MAXだった。
今日は、人間化厳禁。
もしここで突然イケメン男子になったら事件だ。
なんなら警察が来てもおかしくない。
待合室では美琴が小声で念押ししていた。
「絶対、絶対に人間姿にならないでね?」
「にゃ……」
ルナは嫌そうにしながらも頷く。
しかし、緊張すると本人無自覚で変わる時があるから怖い。
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診察室へ呼ばれると、
「にゃああ゛っ!!」
「まだ何もしてないよ!?」
先生が笑う。
「元気ですねぇ」
「元気すぎて困ってます……」
診察台へ乗せられたルナは、完全に美琴へしがみついていた。
爪まで出てる。
「ルナ、力強い!痛い!」
「シャー……」
「威嚇しないの!」
でも、先生が優しく頭を撫でると、ルナはぴたりと止まった。
「綺麗なシャムですね」
「……にゃ」
ちょっと得意げ。
「単純な……」
体重測定、聴診器、触診。
そのたびにルナは嫌そうな顔をする。
注射では、針を見ると硬直していた。
「にゃ……」
「ルナ?」
青い目がうるうるしている。
美琴は思わず吹き出した。
「そんな嫌!?」
「な゛ぁ……」
助けを求めるみたいな声。
でも次の瞬間、注射。
「に゛ゃああああ!!」
「大げさ!」
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終わったあと、ルナはしょげていた。
美琴の腕へ顔を埋め、尻尾はだらんとしている。
先生が苦笑する。
「甘えん坊ですねぇ」
「ええ、とても……」
するとルナがじとっと美琴を見る。
「にゃ」
「はいはい、頑張った頑張った」
撫でると、ようやく少し機嫌が戻る。
喉まで鳴り始めた。
現金な猫である。
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帰り道。
キャリーケースの中で、ルナはぐったりしていた。
魂が抜けてる。
「そんな疲れる?」
「んにゃ……」
家に着くなり、ルナはソファへ飛び乗った。
ぽん。
即人間化した。
「死ぬかと思った」
「大げさでしょ」
ルナは真顔だった。
「針あった」
「ワクチンだからね」
「許さない」
「思考回路が幼稚園児と同レベル…」
美琴は、小さい頃とても注射を嫌がっていたと親に聞かされたことがある。
今なら親の気持ちが分かる。
美琴が親の気持ちを痛感していると、ルナは突然美琴へ抱きついてくる。
「頑張った」
「うん」
「人間姿にならなかった」
「それはほんとに偉い」
「褒めて」
「はいはい」
頭を撫でると、ルナは満足そうに目を閉じた。
猫姿の時と全く同じ反応。
美琴は思わず笑ってしまう。
「……ほんと病院嫌いなんだ」
するとルナは、美琴の肩へ顔を埋めたままぼそっと言った。
「だって、みことと離されそうでやだった」
その言葉に、美琴は少しだけ目を見開く。
昔。
拾われたばかりのルナは、病院でずっと鳴いていた。
美琴が待合室からいなくなるだけで不安そうにしていた子猫だった。
たぶんだが、今も根本的には変わってない。
美琴は苦笑しながら黒髪を撫でた。
「安心して。私は離れないよ」
するとルナは少しだけ安心したみたいに目を細める。
「……ならいい」
毎日イケメン猫に振り回されているけど、それもまた楽しいかな、と思ってしまう美琴だった。
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