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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
奏√after 繋いだ心の明日。

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姉として

 「さて、奏ちゃん。私が来たわけですが」

「し、志保さんが来るとは、予想外」

「えー。友達が大変な時に何もしないなんて。そんな薄情なことするわけないじゃん」


 テーブルに四人分のマグカップが並び、それぞれ席に着く。


「あっ、そうそう。家からチョコ持ってきたんだ。一緒に食べてねー」

「……スゲー高そう」


 俺でも知っているブランドなんだが。


「やはは。お茶菓子に丁度良いでしょ。食べちゃってね」

 志保はそんな風に言って無造作に開けて一つ口に放り込んだ。

「あー、美味しいなーこれ。食べてみてよ」

「どれ……」


 一つ貰ってみる。

 ほう、香り、苦み、甘み、全てにおいて良いな。


「おっ、舌にあったみたいだね。良き良き」


 志保は上機嫌に紅茶を優雅に一口。


「どうかな? 史郎。今度家でお茶会でも?」

「奏も連れて行くが」

「……うん、良いよ」

「志保さん、今の間は?」

「気にしないでよ。友人たちとお茶会。楽しいじゃん?」


 志保さんはニコニコしている。しかし対面する奏に油断は無い。心なしか微笑みが引きつっている。


「やはは」

「ふふっ」


 なんというか。

 これに対してやれやれと思うのは、よく見る鈍感系主人公染みててどうなんだと思いつつも、やれやれと思ってしまう。


「奏、落ち着け。気が立ってるぞ」

「やはは。でもこれで、大体状況は把握したよ」

「そうですね」


 そう言いながら、結愛はタブレット置いた。一瞬だけ見えた画面は、久遠家の妹たちが、二人で食事をとっている様子だった。


「奏ちゃんに質問。奏ちゃんは、どうなって欲しい?」

「私は、ちゃんとしたい」

「ちゃんとって何?」


 志保の目が変わる。ゴクリと、奏の喉が鳴ったのを聞こえた。冷たく、逆らうことを許さない、圧力。初夏の温かさを忘れさせる。部屋の温度がガクッと下がったような錯覚。

 睨んでいるわけじゃない。けれど、怖い。本能に訴えかけらる怖さがある。


「奏ちゃん、あなたがちゃんとしなきゃいけないほど、妹さんたちは駄目なの?」

「そ、そんなことは、無いけど」

「あなたが拘る理由、ちゃんと話せる?」

「そ、それが、何よ?」

「ねぇ、言ってみてよ。聞くから」

「話して、どうなるって言うの?」


 志保の口から、小さく笑みが零れる。片頬が少し釣り上がり、不敵な笑みが生まれる。


「まぁ、言ってみなよ。こんなところで私を納得させられないで、意固地になってる妹さん、納得すると思う?」


 キュッと奏の唇が引き絞られ、動揺が伝わってくる。志保の眼はその一つ一つの乱れを見逃さない。


「どうして? 妹さんたちに、どうなって欲しい?」

「……ちゃんと、部活とか、勉強とか頑張って、それで、その。ちゃんと自立しても、一人になっても問題無いように生きて欲しい」

「うん。立派だね。じゃあ、家事も、自分でできるようになった方が良くない?」

「それは、その。今はその時期じゃない。今は、そういうことは気にしなくても良くて。後々、学校とかそういうこととかのバランスの測り方と一緒に覚えてもらいたい。今は勉強と部活に集中して欲しい」

「うん。そうだね。家事をこなしつつ、勉強と部活の両立は難しいよね」

「だから、今は、一番余裕がある私が、やりたいの」

「立派だね。大量の宿題をこなしつつ、生徒会、恋人、家事と色々同時並行している奏ちゃんが言えたことかと思うけど。でも、それを何で最初に言えなかったの?」


 志保の視線は問いかける。奏は目を伏せた。

 もう、きついか。奏も、普通の女の子だ。頑張った方だろう。


「……覚悟が足りなかったから」


 そろそろ志保を止めようと口を開きかけたところに、ぽつりと零れた声。


「私は、そう言われると思っていなかった。私の覚悟が、足りなかった。いつか、そう言われる覚悟を、しておくべきだった」


 絞り出すように、途切れ途切れながら、志保の強い視線を、冷たい圧力を、正面から必死に受け止めながら、言葉を続ける。


「甘えてた。妹たちが、自立を望む可能性、もっとちゃんと考えておくべきだった。上から押さえつけるだけなんて、馬鹿なやり方しかできないなんてね」


 困ったように笑って、奏は目元を拭う。


「奏らしくなかったぞ」

「うん。自分が頼られている。だから、このまま、楽しい時間のままでいられる。そう思っていたんだ」

「奏が頼られているのは間違いない。でも、花音ちゃんも、音葉ちゃんも、だからこそ、もっと楽しんで欲しい。そう思っている」


 実際、そう言っていた。


「一度しかない時間を過ごしているのは、奏も一緒だ。妹たちも立派だから、周りのことを考えられるから、あんな風に言えるんだ」


 普通だったら、奏にやってもらえば良い。楽だなぁとしか、考えられないだろう。いや、そんなことも考えられないかもしれない。奏にしてもらえるのが普通で、当たり前で、景色の一部としか考えない人もいるだろう。


「良い妹達じゃないか」

「やはは。史郎が良い感じにまとめちゃった」

「さて、ここからは私の時間ですね。奏さんの思いをちゃんと伝えれば、という志保さんの話があったので」


 結愛がちらりと見た方向に置いてあったのはタブレット。そのカメラが、オンになっていた。


「……えっ、まさか」

「はい。テレビ電話です」

『いやー。びっくりしたよ。勝手にスマホの画面が動いて勝手に通話モードになって、そこに姉ちゃん達写ってるんだもん』

『結愛さんに、静かにしてって合図されたから、黙って聞いていた』

「う、うぅ」

「奏?」

「う、うわぁぁあああああ!」


 奏はそう叫んで机に突っ伏した。


「やはは。やり過ぎたかな?」

「あぁ。主に志保が」 


 メンタルに圧力かけた後にこれはな。黒歴史ノートをよく知っている人に読まれたくらいのダメージはあるだろう。


「華麗に止めを刺した形になってしまいましたが、これで話し合いは円滑に進むかと」

「……手段を選ばないにも程があるぞ、結愛」


 奏を宥めるのには、少し時間がかかった。


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