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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
奏√after 繋いだ心の明日。

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久遠家の動乱。

 その日、久遠家は不穏な空気に包まれていた。

 俺はソファーから、その光景を眺めている。


「悪いけど、もう一回、言ってもらっても良い?」

「何度でも言ってやる。姉ちゃん、もうあたしらのこと気にせず、史郎兄ちゃんとイチャイチャ過ごしていれば良いんだよ」


 花音ちゃんと音葉ちゃんが並んで座り、テーブルを挟んで奏と向き合っている。

 奏の眉が、ピクリと動く。


「何よ、その言い方。私がいつ、あなた達のこと蔑ろにした?」

「してねぇよ。だからだよ。もうあたしらのこと気にせず、史郎兄ちゃんと楽しくやっててくれよ」

「うん。姉さん。私たちはもう、大丈夫」

「何でよ!」


 正直、奏が怒る理由はわかるようで、わからなくもない、というのが正直なところ。

 奏の人間性に多少なりとも理解があるから、見えてくるもの。 

 奏の責任感が許さない。男にかまけて家族を蔑ろにする自分を。全てを完璧にこなす自分を求めている。

 難しいところだ。どちらの意思も尊重したい。

 どちらも、互いを思っているからこその提案なのだ。

 だから、俺としては、折衷案を探したいところなのだ。


「まぁ落ち着けよお前ら……」

「史郎君は」

「史郎兄さんは」

「史郎兄ちゃんは」

「「「黙ってて」」」


 となるのだ。

 どうやら、俺にこの喧嘩に口出す権利は無いらしい。

 まぁ、そうだな。

 言ってしまえば、俺が口を出すとややこしくなるのは間違いないのだ。

 奏側につけば、それは逆に言えば、奏とのイチャイチャを控えたいと言っているようなもの、それはいくらでもマイナスの解釈が可能なこと。

 妹側につけば、奏に、奏自身が許せない自分になるように強要しているようなもの。その事態を未然に防いでくれる三人に密かに感謝しつつ、さて、どうしたものかと俺は考えるのだ。





 「ごめんね、史郎君。険悪になっちゃって」

「珍しく感情的だったな、奏」


 一旦冷静にするべく、俺は奏を連れて自分の家に戻った。

 また三人から黙れ攻撃を受けるところだったが、そこは押し切った。

 膝に頭を預けて横になる奏の頭を撫でながら、どうしたものかと思案する。

 まぁ、俺が悩んだ時、相談する相手なんてそんなにいないわけだが。この場合、頼るべき人間は……。 


「結愛ちゃんに相談しようとか考えてる?」

「まぁな」

「まぁ、適任だよね」


 そう言って呆れたように笑う。


「自分の妹たちのことすら、私は納得させられないんだ」

「家族と言っても、違う人間だからな」


 奏の、少しだけ哀し気で、寂し気な笑みで、少しだけ焦る。だけど、家族と言われても。


「スゥっ。おいで、史郎君」


 腕を広げて、甘くて柔らかい声に引き寄せられる。

 奏の腕の中に。ギュッと頭を抱えこまれ、優しく、丁寧に、撫でられる。


「私がいる。史郎君には、私がいる」


 私が、史郎君の家族になる。史郎君の帰る場所。史郎君が一番力を抜いていられる人になる。

 そのために私は……。


 「というわけで、結愛。頼んだ」

「無理です。家族の問題とかさっぱりです。姉妹喧嘩なんて経験ありませんし」

「いや、なんだ。上手い落としどころって奴をだな」

「知りませんよ」


 次の日、学校の廊下に設置されている自販機にて。結愛に紅茶を献上。知恵を拝借しようと思ったのだが。


「奏さんなら放っておいても良い感じにまとめてくれるのではないでしょうか?」

「今回はそうはいかない。どっちも間違えていない」

「そうですね。どちらも正しいです。お互いを思ってるが故の衝突という、めんどくさいパターンですね」

「身も蓋も無いな」

「ふむ……」


 無理とか面倒とか言いながらも、一応、それなりに考えてくれるのが結愛のありがたいところだ。

 さて、俺も考えよう。

 家族というものとの繋がりが薄い俺達でも、納得できる折衷案って奴を、考えられるはずだ。




 「何も思いつかねぇ」


 気がつけば頭を抱えていた。

 なるほど、そりゃ、人は武器を取るわけだ。何日も、何年もかけて話し合うわけだ。

 どっちも間違えていない。間違えていないのだ。


「やっ、史郎」

「あー。志保」

「奏ちゃんは?」

「職員室」


 髪をかき上げ耳にかけ、志保は目の前、奏の席に座る。その動きに合わせてふわりと、名前は知らないけど爽やかな香り。初夏には涼しさを連想させる香りがした。


「奏ちゃんと妹ちゃん達が喧嘩したって聞いてさ。その様子だと、史郎も良い感じの案が思いついていないんだ」

「まーな。喧嘩らしい喧嘩なんて、したこと無いからな」

「精神が成熟していると、喧嘩をする合理性なんて無いことに気づくからね。余程感情が揺さぶられない限り、起きないよ」

「俺が大人だって褒めてくれるのはありがたいが、俺の場合、人とそんなに関わって来なかったんだ。だからわからない」


 結愛も同じだ。だから。


「喧嘩がわからなければ、仲直りの仕方も、わかるわけが無い」

「やはは。しょうがない。その案件、私が預かるよ」

「……良いのか?」

「うん。任せて」


 志保はそう言って、胸をとんと叩いた。


「大人ばかりの世界で生きてきたこの私がどうにかしてみましょう。だいじょーぶ。史郎君達って、私が出会って来た大体の大人よりは大人だから」

「そんな奴らに運営されているこの社会ってどうなんだよ……」

 



 さて、そんな話をした夜。いつも通り、久遠家の食卓にお邪魔させてもらおうと家に入ったのは良いのだが。


「姉ちゃんは兄ちゃんところ行ってろよ。音葉が作るから」

「いつも通り私が作るわよ。私の夕飯に何か不満でもあるの?」

「うっさいな。荷物まとめるの手伝ってやるから、もう隣に住んでろよ、姉ちゃんは」


 一緒に帰って、俺が色々片付けている間に何があったと言うのだ。


「むー。花音、正座っ!」

「やだね」

「はいはい。奏、ムキになるな、花音も、追い出すようなことを言うな」


 とりあえず場を治めにかかる。


「うっ、言い過ぎたとはもうけどさ。史郎兄ちゃん、今日も連れて行ってくれよ」

「……奏、行くぞ」

「史郎君!」

「今は冷静な話し合いとか無理だろ」

「むー」


 むくれる奏を連れて行く。奏がなぜそこまでムキになっているのか読み切れていない。ちゃんとしていたいというのなら、それこそ、さっさと妥協点を見繕えば良い。いつもなら、そうしているところの筈だ。

 だが、奏は譲らない。

 妹たちも譲らない。


「やぁ史郎」


 家に入ると、ソファーに座りタブレットを弄る結愛と、紅茶を四人分準備する志保がいた。


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