9、発作
9
その胸の音を聞くと、私の胸がさらに苦しくなった。
ナニコレ?冷静に考えたら完全にBLじゃん!!
保健室で、生徒会長に抱きしめられた。
どぉゆう事!?
さて、何の恋愛感情も無い私達二人がどうしてこういう経緯に至ったかを説明すると……
それは、生徒会長と中庭でバドミントンをしていた時。
必然というか案の定というか、生徒会長の打った豪速球のシャトルが、煙草を吸っていた1人に当たった。人殺しかと思うくらい人相の悪い、モヒカン頭の先輩だった。
「痛って!枝本コラァ~!!」
ひぃいいいいいいい!!
それからあっという間に喧嘩になった。だけど、そこは校内最強。生徒会長は次々お人々をなぎ倒していった。当然、無関係の人も巻き込んで。
「すみません!すみません!もうやめてください!生徒会長!私が悪いんです!私が取れなかったから!」
どうにか私が謝り倒して、生徒会長を止めた。
「なんでお前が謝るんだ?」
「だったら生徒会長が謝ってください!元はと言えば、当てたあなたが悪いんですから!」
片手で無関係な人の胸ぐらを掴んでいた生徒会長は、その手を放すと素直に謝った。
「悪かった……」
「あと、関係の無い人に手をあげるのもダメです」
「悪い……」
あまりに素直に謝るその姿に、この人はやっぱり悪い人じゃなさそうに思えた。
険悪な雰囲気の中、そのまま生徒会長は煙草を吸い始めた。
良かった。もう終わりかな?私もこれ以上ここにいるのもキツイ。
「じゃ、私は教室戻りますね」
「待てよ。これ、片付けろ」
生徒会長は足元に落ちていたシャトルを指差した。
「あ、はい。わかりました」
私が生徒会長の足元シャトルを拾おうとした瞬間、煙草の煙をかけられて驚いた。
「うわっ!」
「あはははははは!何ビビってんだよ!ただの煙だ」
私のあまりの驚き様に、生徒会長は大笑いしていた。
まずい…………今ので煙吸った!!
正直、こっちは全然笑い事じゃない。
「げほっごほっごほっ……」
ダメだ……これ以上ここにいたら発作が起こる。私はなんとか逃げようとした。
「おい、大丈夫か?」
「ごほっ……ごほっ……すみません……」
予想通りどんどん胸が苦しくなって来た。次第に息をするたびにヒューヒュー音がするようになった。
やっぱり…………喘息の発作だ。
稲高に来て、なんとか今まで1度も発作は起きなかったのに……それに、なるべく煙を吸わないように極力喫煙所から離れていた。
「く……薬……」
「薬?薬が必要なのか?保健室!!」
生徒会長はまるで私を人さらいのように肩に担ぐと、保健室に連れて行ってくれた。だけど……
保健の先生はいなくて、生徒会長は私を椅子に座らせると、血相を変えてあちこち薬を探した。
「薬、これか?」
頭痛薬の箱を見せられたけど、私はすぐに首を横に振った。発作が起きている時は、普通に話すのさえ辛い。肩で息を大きく吸っても、なかなかこの苦しさは取れない。
「それともこっちか?」
今度は整腸剤。そもそも喘息の薬は一般的な常備薬は何の意味も無い。多分……この保健室には無いと思う。
寮の自分の部屋になら薬があるんだけど…………
「ゼェ……ゼェ……苦し……」
喘鳴がゼーゼー音がするようになってきた。本当に苦しくて辛くなってきた。
「どうすればいいんだよ!くそっ!」
寮の部屋に行けば……
でも、待って?
もしこのまま生徒会長と一緒に薬を取りに寮へ行ったら、女である事が確実にバレる!!発作の起きたこの呼吸で全速力で走っても、生徒会長を撒ける気がしない。
この最悪な状況……どうすればいい!?どう切り抜ければいい?どうにかしないと……冷静に考えろ!冷静に……でも苦しくて何も考えられない!!
そうだ!1人にしてもらおう!生徒会長が保健室を出たら、薬を取りに行こう!
「少し……寝れば……げほっ……治まる……」
そう言って、私は座っていた椅子からベッドに潜りこんだ。
お願いします!どうか生徒会長!ここから出て行ってください!!
「じゃあ、お前はここで寝てろ。俺は芳子探して来る!」
運良く生徒会長は保健室の先生を探しに外へ出て行ってくれた。……良かった!これで寮に薬を取りに行ける!
私は辛い呼吸の体を引きずって、なんとか寮にたどり着いた。門を開けてもらうと、寮母さんは発作を心配してくれた。
「大丈夫?呼吸、辛そうね」
「薬を吸えば大丈夫です」
階段を一段一段を登るのに呼吸を整えた。整うはずも無いのに、呼吸が辛くて辛くて、足が止まってしまう。
もう少し……もう少し……
なんとか自分の部屋にたどり着いて、すぐに薬を吸入した。
これで……治まるはず。少しホッとした。ゆっくりしてる暇は無い!
私はまだ治まらない発作のまま、保健室に戻った。保健室のドアを開けると、私を睨み付ける目がそこにあった。
うわ……生徒会長、戻ってた!
「どこ行ってたんだよ?」
「寮に……薬を取りに……もう、もう大丈夫です!」
さっきよりだいぶ呼吸が楽になってきた。
「まだ寝てろ」
そう言って生徒会は私の背中を押してベッドに寝るように促した。
「薬なら俺が取りに行ってやったのに……」
それだとバレますから!ベッドに座ったものの、寝られない。ぶっちゃけ横になる方が呼吸が辛い。
「どうした?顔が赤いぞ?」
「多分……薬の副作用です」
「副作用?」
動悸がした。さっきから心臓がバクバクいってる。そのせいで顔がほてる。気がつくと、手も震えて来た。
すると、私が自分の手をもう片方の震えた手で抑えながら胸を押さえていると、突然生徒会長が私を抱き締めた。
その胸に顔を埋めると、生徒会長の胸の鼓動は自分の胸の音と同じくらい早く脈打っていた。
「まだ苦しいか?」
私は黙ってわずかに頷いた。
苦しい。
副作用のせいなのか、抱き締められたせいなのか、胸の動悸がなかなか治まらなかった。
「大丈夫だ。このまま苦しいようなら病院まで担いで連れて行ってやる」
「大丈夫……大丈夫です……」
「どうしてお前は……そうやって人に頼らないんだよ」
そう言って生徒会長は私から離れた。
頼らない?生徒会長からはそう見えてるの?でもそれは、単に女である事を隠したいからで……
とは言えず。
「私は強くなりたいんです。生徒会長みたいに、1人でも強くいられるように。何でも自分の力でなんとかしたいんです」
と、当たり障りの無い事を言った。私の中では何の深い意味も無かったんだけど…………
「……強くなんか無い。俺は……1人でいて、強くいられた事なんか無い……」
そう言った顔が……何だか寂しそうで、苦しい胸が止まりそうだった。




