8、中庭
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寮に帰ると、美奈恵さんは私を見てしばらく呆然とした。
「一葉ちゃん……そうゆう趣味?もしかして、女の方が好き?」
「いえ、違います。これは違うんです」
ここへ来て、最初からまた説明する事になった。
「私、そんなに男に見えますか?」
「ああ、それはね、稲高の男子はあまりに女子の少なさに、あからさまに女子じゃないと女子として認識できないのよ。女子より女子力高い乙女男子もたくさんいるし」
「そんな……でもそれだと確かに私が認識されないのも無理も無いですね……」
女としての自信はズタボロだけど、似合う物を自由に着ればいいと割りきって、毎日ジャージのハーフパンツにパーカーで過ごす事にした。
ここは稲高、服装の校則はあって無いようなもの。そこは自由な校風に助けられた気がした。
次の日、学校へ行くとすぐに生徒会長に廊下に呼び出された。
「あの、授業……」
「どうせ自習だろ?」
まぁ、選択体育はほぼ自習。私は虫除けスプレーを思いついて、生徒会長に虫除けスプレーをかけまくった。
「お前、何やってんだよ。これなんかくせぇっ」
「多分ユーカリの匂いです」
「いや、だから何だよこれ?」
冷静に考えて、虫が嫌いなら虫除けスプレーを使えばいい。そもそもあんなに大騒ぎになるのに、虫除け対策をしないなんておかしい。
「今度買い物に行く時に、他にも虫除け買って来ますね。じゃあ、私はこれで……」
「ちょっと待て!」
虫除けを生徒会長にふりまき終え、さっさと教室に戻る事にした。すると、パーカーのフードを掴まれて引き止められた。
「何ですか?」
「いや、その……昨日の女、どうゆう関係だ?」
「昨日?未来ちゃんですか?別に……友達ですけど……」
え?もしかして生徒会長、未来ちゃんの事……
「いや、もしかしてお前があの子の事をと思って……」
え?そっち?私が?
あ、そうか。生徒会長は私を男だと思ってるから、一緒に連れて来た未来ちゃんに、私が何か特別な感情があるんじゃないかって話?
「未来ちゃんは本当に友達ですよ?」
むしろ友達意外になり得ないんだけど……
「俺が虫除けに付き合えとか言ったから……なんか、その、邪魔……したかと思って……」
「いえいえ!まさか!」
ずっとそれ気にしてたのかな?生徒会長って……意外といい人なのかも。
「あの、あの話は無かった事にしてもらえますか?私はもう女の格好はできないので」
「あの話?」
「だから、その、虫除けで付き合うって話です」
中身が男で外見が女なら、2年生の越智さんの方が適役だと思う。今のままでは完全にBL……
「いや、俺はお前の覚悟に惚れた!だから俺も一度言った事は貫く!」
はぁ?そんな事貫く所じゃないでしょ!?この人バカなの!?
とは言えず……
「じゃあ……付き合うって一体何をすればいいんですか?」
「何って……」
生徒会長は考え込んでしまった。
考えて無かったの!?こっちから訊いといて何だけど、無茶苦茶な事を要求されたらどうしよう……。
「バドミントン!」
「へ?」
「やりたいんだろ?なら、一緒にやるぞ!」
そう言って、無理やり中庭に引きずり出された。
「ちょっとここで待ってろ」
そう言って生徒会長はどこかへ行ってしまった。
意外だった。バドミントンって……私がやりたい事だよね?あの人、本当に付き合うつもりなのかな?いや、ただの虫除け。虫除けだから。しかも脅されて承諾したし。
中庭には灰皿が置いてあって、授業をサボって煙草を吸う人達がいた。そんな人達を横目に、少し離れた所で待っていると、煙草を吸う人達にもの凄く凝視された。
見られている……怖い……。それに、煙草の煙の近くは嫌。生徒会長を待つ間、何だか不安で不安で仕方がなかった。
「あれは男か?」
「女?」
「いや、男だろ」
私を凝視する人達の中で、男か女かの物議がなされていた。逆に物議がなされるだけマシだと思えてきた。もう、多少の女の疑惑があるだけで嬉しい。
しばらくすると、生徒会長がバドミントンのラケットとシャトルを持って現れた。
バドミントンをやるって、本気だったんだ……。
生徒会長がラケットを一本手渡してくれた。私はその手に、稲高に来て初めてラケットを握った。
中庭にはネットもなければコートも無い。しかも少し強めの風まで吹いている。
「そっちからでいいぞ」
これは……とりあえずラリーをすればいいのかな?この状況でラリーできる?煙草吸ってる人達にシャトルが当たるんじゃ無いかとヒヤヒヤしながら、生徒会長に向かって優しくサーブをあげたら……
「よし来た!」
思いきりスマッシュされた。
「え…………?」
ラリー……やる気無し!?生徒会長は、もはやラリーを続ける気があるようには思えなかった。
それから何度も何度も拾ってはサーブ、生徒会長のスマッシュ。拾ってはサーブ、スマッシュの連続だった。
ナニコレ?いじめ?しごき?
なんとかラリー続けようにも、あまりにスマッシュが速すぎて全然返せない。
「あの、生徒会長……もう少し優しく……」
「優しくぅ?」
ひぃいいいい!!スミマセン!スミマセン!いいです心置無く打ってください!
その後も何本かサーブをあげると、やっぱり豪速球が飛んで来た。そのうちの何回かは避けきれなくて、太腿や腕に当たった。
「痛い!」
あまりの痛さにしばらくうずくまっていると、生徒会長に謝られた。
「悪い……手加減ができん」
「だ、大丈夫です。これくらい」
それより、とにかくこの豪速球が、煙草を吸うガラの悪い人達に当たらないように願うしかなかった。
もし当たったりなんかしたら……あの全校集会の地獄絵図が再び起こりかねない。あれに巻き込まれたら確実に命は無い気がした。
もうやめたいよぉおおおおおお!!
生徒会長は相変わらず全力打ちで、私は心配で気が気じゃなかった。




