44、電話
44
どうして4年早く生まれなかったんだろう。大人にとっての4年は微々たるものかもしれないけど、学生の4歳の差は大きい。
私が暇になってしばらくして、終業式を迎えた。明日から夏休みだ。
終業式が終わった後、枝本さんが私の目の前にやって来た。
体育館から雪崩のように生徒が出て行く中、枝本さんに呼び止められた。
「新川!」
未来ちゃんはすぐに察して「先に行ってるね」と行って先に行ってくれた。
「これ、渡し忘れてた」
そう言って差し出されたのは、あの日選んでくれた参考書だった。
「色々、悪かったな」
「いえ……私の方こそ……」
何もできなくてすみません……。
私は震えた手でその参考書を受け取った。すると、すぐに枝本さんは行ってしまった。
「あの!」
「?」
私は思わず枝本さんを引き止めた。枝本さんは振り替えると黙ってこっちを見ていた。
「あの、これ、ありがとうございます!」
それが私の精一杯だった。
これ以上、枝本の側にいれば迷惑がかかる。私は枝本さんにとって迷惑になる。
わかってる。
これを受けとれば、全部終わる……。
「終わりじゃないよ!戦え!一葉!」
そんな言葉をかけてくれたのは、未来ちゃんだった。
夏休みの初日は、履歴書を持って旅館に面接へ行った。その帰りに、未来ちゃんがバイトしているあんみつ屋さんに寄った。ここのあんみつはわざわざ遠方から買いに来るほど有名で、中で食べるスペースもある。
まだ昼前だからお客さんは少なくて、未来ちゃんにゆっくりしていっていいと言われた。その言葉に甘えて、少し参考書を読ませてもらった。
未来ちゃんのバイト先は、私の働く旅館と同じ駅の温泉地にあって、夏休みはもっぱらここに入り浸りそうだった。
「参考書のお礼は?何にするの?」
「お礼……あ!そっか!これ、枝本さん買ってくれたんだ!」
「ここで、参考書の代金お支払いします!とか言ったらアウトね」
え……アウト!?
「何かお礼すれば?そうすればまた接点ができるよね?」
そっか。何かお礼をしよう!何がいいかな~?
「そういえば、面接どうだったの?」
あんみつを運んで来たついでに未来ちゃんは私の隣に座った。
「余裕で合格!ここってお盆は忙しいみたいだね。人手が足りないって言ってた」
「お盆に灯籠流しがあるからね~それを見に観光客も増えるんだって」
未来ちゃんは地元の子。だから色々と温泉地のお盆事情を教えてくれた。川が汚れるからという理由で灯籠流しも今は数が少なくなったとか、出店も出ていて賑やかになるとか。
「あと、花火も上がるんだよ?」
「花火?」
「そういえば、この前花火屋さんの法被着た生徒会長見かけた!」
枝本さんが法被?めっちゃ似合いそう!いや、そこじゃない!
「もしかしたら偶然会えたりしてね~」
「だといいなぁ……」
未来ちゃんはしばらくお喋りした後、バイトにもどった。1人になった私は、枝本さんにもらった参考書を取ろうとした瞬間、冷茶を倒してしまった。
「やだ!やっちゃった!」
慌てて参考書を持ち上げると、1枚の紙が落ちて来た。手紙?
慌てて未来ちゃんが台拭きを持って来て拭いてくれた。
「それ何?手紙?手紙入ってたの?」
これ、何だか見覚えがあるような?
『あなたが女子です』
その手紙を開いてみると、やっぱりあの手紙だった。私が一度くしゃくしゃにして捨てたあのラブレター。
すると、未来ちゃんは紙の後ろを見て何かに気がついた。
「後ろに何か書いてあるよ?」
ここは、枝本さんからのメッセージかと期待するところ。だけど……
「あなたは私」
「これ……美玲の字!やられた!」
「え?」
だから何?姫島さんは桐谷美玲に似ているという話で、美玲というまるで本名のようなあだ名になった。
「一葉、生徒会長推しの美玲に、女だってバラされたんだよ!」
「え?こんなんでバレる?」
「あなたは私って事は、私が女子ですって事でしょ?」
そうゆうイタズラだったらしい。でも、今さらどこで枝本さんが気がついていようと無意味な気がした。
「あ、普通に番号書いてあるよ?」
「え?マジ?」
後ろのもっと目立つ所に番号が書いてあった。
これ……もしかして……枝本さんの番号!?
「かけてみなよ!それで、お礼がしたいって伝えなよ!」
「う、うん……」
何だか緊張する!でも、枝本さんの声が聞きたい!
「ほら、もう番号入れたよ」
「え?嘘!ちょっと待って!」
未来ちゃんは私の携帯に番号を入れると、発信ボタンを押して私に渡してきた。
電話のコールする音が、私の胸を高鳴らせた。
あ、出た!
私は勇気を振り絞って、声を出した。
「……もしもし?」
すると、電話に出たのは……
出たのは……
「やぁ~!どこの子猫ちゃんだい?」
お、お前かーい!!
電話に出たのは、ナルシストの成沢先輩だった。即、電話を切った。
「これ、枝本さんの番号じゃなかった~!」
あんなに緊張したのにぃいいいいい~!
結局挟まっていた紙は何の意味も無く、ただゴミが紛れていただけだった。青春はなかなか甘くない……。




