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45、平和的解決

45



季節は夏真っ盛り。自然に溢れた稲高はセミの声が人の声より多く聞こえて来る。枝本さんは大丈夫なのかな?虫嫌いには辛い季節だよね……


辛い……季節……


稲高の最寄り駅を降りると、枝本さんを見かけた。思わず二度見した。


隣にいたのは……あの時のもやし!何故ここに!?


もやしはいかにも山に行くぞ!という格好をしていた。チェックのシャツにベスト、帽子とトレッキングシューズ、リュックにそして虫かごに虫網。なかなかのガチアウトドア装備だった。


それよりも、枝本さんの首にかかってる物!


「枝本さん……虫かごなんか首に下げてどこへ行くんですか?」


もやしだけじゃない、枝本さんまで虫かごと虫網を持っていた。でも、その顔は決して楽しそうじゃない。相変わらず眉間にシワを寄せている。その顔は確実に我慢している。


「稲高の裏山に……虫……虫を……」

「カブトムシを捕獲しに行くんだよな~!」


なんだろう……いつの間にこの二人仲良くなったんだろう?


「お前が取るんだぞ。俺は見るだけだからな?」


いや、それ行く必要あります?


「それより、枝本さんこの紙が参考書に入ってたんですけど?」

「ああ、それか。ナルの番号だ」

「いや、そうじゃなくて」


ナル先輩の番号は誰でも知ってるの!教えて欲しいのは枝本さんの番号なの!


でも、枝本さんの顔を見たら何だか少し安心した。


「バスケ部の助っ人になった」

「え……?」

「練習試合がある。来週水曜」


応援しに来いって事なのかな?行ってもいいのかな?


そこでもやしが「え?お前試合出れんの?」と横槍を入れてきたもんだから、枝本さんはもやしの髪を少し掴んだ。


「痛っ!やめろ!俺の触覚がもげる!」

「髪の毛を触覚とか言ってんのかよ、気持ち悪ぃな」

「悪いか!これも虫への愛だ!愛!」


なんだかんだ言ってこの二人仲良さそう。


「あの、枝本さん、参考書のお礼……何がいいですか?」

「別にいい」

「いや、それはダメです!私が未来ちゃんに怒られます」


今度枝本さんに会ったら何が何でも聞いて来るように未来ちゃんに言い聞かされた。


「じゃあ……花火……」

「花火?花火がいいですか?」

「花火大会……」


花火大会に一緒に行こうって事なのかな?


「花火大会の日は空いてます!花火が見える所教えてください!」


すると、もやしがまた話に割って入って来た。


「よし!じゃあ俺が……」

「お前は虫と見るんだよな?愛しの虫と見るんだよな?」

「お、おお」


枝本さんはこれ以上喋るなという圧をかけて、もやしを黙らせた。


「あ、枝本さん、じゃあ携帯の番号教えてください」


やっと聞けた!変じゃないよね?流れ的にはありだよね?


未来ちゃんに、お礼は何がいいか、本当の携帯番号は何か、会ったら必ず訊く事を約束させられた。


「携帯貸せ」

「え?」


私は持っていた携帯を枝本さんに手渡すと、枝本さんは私の携帯で電話をかけた。すると、枝本さんのポケットから着信音が聞こえた。


枝本さんは意外にもあっさりと番号を教えてくれた。


「多分、かけても出ない」

「出てくださいよ。待ち合わせの時とか困ります」


良かった~!やっと携帯番号ゲット~!!なんか、めちゃくちゃ嬉しい!!


「あれ?何?何?二人いい感じか~?もしかして俺がきっかけ?」

「違う!」


思わず枝本さんと声がハモった。


こいつのせいで枝本さんがどれだけ迷惑を被ったか!


「今度はちゃんと寮に遅くなる事を伝えておけよ。花火は7時半からだ。門限には間に合わない」

「はい、わかりました!」


今度は誰にも迷惑がかからないように、出来る限りの準備をしよう。後は何のトラブルも無い事を祈るしかない。


「あ、でも、お盆は女子寮は閉鎖です」


男子寮は多くの人が残るせいか、寮は閉鎖されないらしい。


「じゃあ……花火は……」

「いえ、大丈夫です!お盆中は温泉地の沖田屋さんに泊まり込みでバイトしてます」


それを聞いて枝本さんは少し頷いた。


「旅館の中居?」

「中居さんのサポートみたいです」


仕事内容はお客さんの前には出ない、皿洗いや掃除だと聞いた。


「シフトが決まり次第また連絡します」

「よし、話がまとまったな!裏山行くぞ!」


枝本さんのテンションがあからさまに下がった気がした。


そして私達三人は、炎天下の中稲高へ向けて歩き始めた。


「暑い~!死ぬ~!」

「枝本さんはどうしてあの人……虫バカさんとお友達になったんですか?」

「あいつ、祐一って名前」


もやしの名前は瀬川 祐一というらしい。瀬川さんは枝本さんと同じ年の先輩だった。今の職業はニートに就いているらしい。


「あの夜、こいつに一晩かけて昆虫の素晴らしさを語ったんだよ!そうしたら、興味を持ったんだよな?な?」

「……………………」

「俺の虫への愛の深さに感銘を受けたんだよなるな?」


枝本さんは無言だった。無言で眉間にシワを寄せていた。なんか……めちゃくちゃ嫌そう。


「枝本が虫の殺戮をやめると約束したんだ。その代わり、俺はこいつの虫嫌いの克服に務める!これぞ平和的解決!」


多分、枝本さんはこの人に根負けしたんだと思う。稲高最強の枝本さんの弱点は、空気の読めない強引な勘違いさんだった。


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