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34、サッカー

34


赤城先輩の背中を眺めながら、坂を登った。すると、目の前の先輩がこっちを向いて後ろ向きに歩きながら言った。


「でも、あれだよな。あいつ、枝本。1週間停学って軽くね?女子寮のガラスなんか割ったら普通退学だろ」


確かに。20なら罪に問われたり、退学にならないか心配でたまらなかった。でも、盗まれた物も無いし、被害者の私は被害だと思って無い。結局枝本さんの動機について誰も何も知らない。


「停学っても普段からほとんど教室にいねーし。しかも罰とか言って、ただ運動させられてるだろ?」


やっぱり赤城先輩もそう思うんだ……。枝本さんの処遇については、疑問に思う声がよく聞こえて来た。


「やっぱりあの噂は本当なんだろうな」

「噂……?」

「枝本は理事長の息子って話らしいぜ。だから、いくら何をしても退学にならない」


その噂がどうかは定かでは無いけど、枝本さんのために害虫殲滅委員会なんてものまである。そこまでして稲高は、枝本さんの存在を必要としている気がした。


稲高は枝本さんを退学させるつもりも無ければ、卒業させるつもりも無い?そんな風に思えて仕方がなかった。


「その話、どこまで信憑性があるんですか?」

「さぁな?枝本を生徒会長に押したのが理事長だって話」


自分の息子が可愛いからって生徒会長にするとか普通ある?どんだけ親バカよ?


「そもそも兄貴達の時には生徒会なんてものすら存在してなかったらしいぜ?今よりもっと不良ばっかりだったらしいからな」


枝本さんが高校生の時って……4年前とか?4年でそんなに変わる?


「兄貴が3年の時に、今の理事長が稲高に来て色々改革したんだとよ。その同じ年に枝本が入って来た」

「でも、3年で強豪高になんかなれるものですか?」

「そりゃ理事長はやり手だからな」


体育館やグラウンドの整備、全国から優秀な人材を揃え、充実した寮をアピールして広く広報活動をしていた。


だから私は、パンフレットだけを頼りに何も知らずに入学してしまった。


稲高に来て、もう別に後悔はしてない。今はむしろここにいたいと思ってる。枝本さんの側にいたい。枝本さんの虫嫌いが治って、枝本さんが無事に卒業する姿が見たい。


それが、枝本さんの幸せな気がするから。


そんな事を考えながら稲高への急な坂を登り、息を切らせて稲高の門をくぐった。


「赤城先輩って稲高に詳しいんですね」

「まぁ、兄貴二人が稲高卒業してるからな~」


確か、赤城先輩のお兄さんは枝本さんとお友達なんだっけ。


「枝本の事は兄貴達も一目置いてる。だから中学の卒アルをお前にも見せてやろうと思ってたんだ」


だから家に呼んだ?


「卒業アルバム!?枝本さんの!?見たい!見たいです!」


中学の時の枝本さん見てみたい!本人に言っても見せてもらえなそうだし。


多分、枝本さんは自分の過去について話すのが好きじゃない。


だから、この前嵐の日に私に枝本さんの気持ちを話してくれた事が嬉しかった。私が友達という特別な存在だと認められたからだと自惚れた。


「やっぱりな……」

「やっぱり?」


赤城先輩は中庭に行く途中で足を止めた。


「お前、枝本が好きなんだろ?」

「………………え?」


あまりに真剣な顔で先輩がそう訊くから、思わず呆然としてしまった。それは、到底冗談で言っているようには思えなかった。


「それは……嫌いじゃないですよ?好きか嫌いかと聞かれれば、どちらかといえば好きな方です」

「いや、そうじゃなくて……」


赤城先輩が言いたい事はわかってる。


でも、ずるい私は認めたく無かった。自分が女で、枝本さんの嫌いな女で、ただのありふれた1人の女である事を……


認めたくなかった。


それよりも、特別な友達でいたかった。


「枝本はやめとけ。枝本はやめて俺と付き合え」

「嫌です」

「即答かよ!」


その告白は決して冗談には聞こえなかった。だけど、私の胸には少しも響かなかった。


でもそれは、私が枝本さんを好きだからじゃない。


「どうしてだよ……?俺が枝本より弱いからか?」


私は慌てて首を横に降った。


「それは違います!さっきは二人相手に強かったです。すごく助かりました。本当にありがとうございました」


深々と頭を下げていると、その上から次々と疑問が投げかけられた。


「じゃあなんでだよ?わかんねーよ!お前を女とも思わない奴のどこがいいんだよ!」


そんなの…………私にわかるわけが無い。でも……


「別に、赤城先輩だって私の事女扱いしてないですよね?」


赤城先輩は本当に私と付き合いたと思ってるの?何故か純粋にそうは思えなかった。


「はぁ?十分してるだろ?」

「えぇええええええ!?」


先輩の女扱いって何だろう?いや、そもそも女扱いって何?


「きっと……私は、女扱いじゃなくて特別扱いされたいんでしょうかね?」

「じゃあ、特別扱いする。お前は特別だ!!」


その決意表明のような告白は、赤城先輩の中で何かを変えた。


「そういえば、サッカーしようにもサッカーボールが無いです」

「バーカ!本当にサッカーやりに来たと思ってんのかよ?お前を送りに来ただけだ」


え……?


そう言って赤城先輩はさよならも言わず帰って行った。


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