35、稲高病
35
赤城先輩に告白された。でも、意外と浮かれる事も無く冷静な自分がいた。
次の日、冷静に未来ちゃんに赤城先輩から告白を受けた事を話した。
「おっと?ここに来て赤城先輩が急上昇!?」
「全然上昇してないよ。多分稲高病」
「あ、そっか稲高病か……そんな事無いよ!」
稲高病とは何か?
稲高は女子生徒の数が極端に少ない。普通科クラスだけでも男子30人に対して女子は5人。今年は普通科以外には女子はいない。
そんな環境だと、必然的に美人でなくてもモテる。稲高男子はその女子の希少性から、ブスが可愛く見えてしまうという病気にかかってしまう。それが通称『稲高病』
だから、女なら誰でもいい人と付き合わないように、なるべく自分から好きになった人と付き合う方がいい。そう先輩達に教わってきた。
「あれ?一葉は告白初めてじゃないよね?」
「うん……まぁ……」
そんな稲高には病にかかったせいか、ごく稀に物好きがいる。
あの枝本さんと(名目上だと周知済み)付き合ってるというのに、女装男子と言われる私でもお付き合いの申し込みが何件かあった。それはどっちの申し込みなんだろう?男として?女として?どちらにしろ丁重にお断りした。
「もしかして、赤城先輩も稲高病にかかってる~とか思ってる?」
「うーん、稲高病とは少し違うかな?」
赤城先輩は稲高病にかかっているというより、私を使って振り向かせたい人がいるんじゃないかと思う。
その振り向かせたい人は私じゃなくて……多分、枝本さん?な気がした。
そんな中、1週間の停学が解けて枝本さんが学校へやって来た。そこからいつものように、害虫殲滅委員会の活動も再開した。
美奈恵さんも枝本さんも戻って来て、いつもの日常が戻って来た。いつものように学校へ行って、いつものように生徒会会議室へ行った。
そして、いつものように放課後に未来ちゃんとお喋りをした。その日は雨が降っていて、下駄箱の隣のエントランスで未来ちゃんの乗って帰る帰りのバスを待っていた。
何も変わらない毎日に、ただひとつ変わった事がある。それは、私にとってはかなり大きな変化だった。
「気がついたぁ!?」
「未来ちゃん声が大きいよ!」
何も変わらないはずのいつもの日常が、日常じゃなくなった。嘘みたいで、日常が日常じゃなくなったみたいだった。
人を好きになるってこうゆう事なのかな?
「そっか、そうなんだ」
私は、自分が枝本さんを好きだという事に気がついた。
「一葉がとうとう気がついたんだね。てっきり気がついてたけど、認めたくないのかと思ってた」
「そうかな?でも……片思いって辛い気がする」
あの枝本さん相手は……負け戦な気がしてならない。
「じゃあ、今日から私、生徒会長推しになる!」
「その推し制度はまだ続くんだ?」
「そうと決まれば、生徒会長を振り向かせる方法を考えよう!!」
そう言って未来ちゃんはメイク道具を出してきた。
「それ、メイクしたいだけだよね?未来ちゃんは将来メイクアップアーティストとかになったりするの?」
「う~ん、とりあえずヘアメイクの専門学校行って、メイク関連の仕事ができたらいいかなって思ってる。一葉は?」
「私は……将来何がしたいかまだ全然わかんないや」
今はとにかく喘息の発作のコントロールと、枝本さんの事で頭がいっぱいだった。将来何をしたいのか考える暇もない。
「前にね、枝本さんに喘息が無かったら……そう思うならここを辞めろって言われたんだけど……それってどうゆう意味なのかな?」
「その時の状況にもよると思うけど……スポーツする人以外、ここは上を目指そうって所じゃないからね」
稲高は学力の面ではかなりレベルは最低だと思う。頭の良くない私でも、ろくに勉強しなくてもテストで点数が取れる。たまにバカにされてる?小学生の問題?そんなものまである。
「その分自分の時間か取れるけど、自分の時間がありすぎて暇してる人も少なくないよね」
だから稲高にはヤンキーが沢山いるんだと思う。
「でも、枝本さんはヤンキーじゃないと思う」
「じゃあ、他に何か理由があってここに来たんじゃない?」
他に理由……?枝本さんは喧嘩が強いだけで、勉強ができない感じでもない。じゃあ……どうしてヤンキーでもない枝本さんは稲高を選んだんだろう?ふと疑問に思った。
「あ、バス来たみたい。一葉、また明日ね!」
「うん、未来ちゃんまた明日~!」
未来ちゃんは下駄箱で靴を履き替え、傘をさしてバス停へ向かった。
未来ちゃんを見送ると、一匹の紫色の綺麗な蝶がヒラヒラとエントランスを飛んでいた。
「雨宿りの所申し訳無いけど、外に出てね」
私はそっと羽を掴んで蝶を捕まえると、窓から外へ逃がした。虫にも可愛いものもある。
虫嫌いだから?だったら、都心の虫のいない所の学校を選べばいい。虫嫌いなのに、こんなにも大自然に囲まれた稲高に通う理由って何なんだろう?
雨の中、軒下の隅で小さな蝶がヒラヒラと羽をはためかせていた。




