14、餌付け
14
やっぱり寮のご飯が一番。しっかり味わって夕飯を食べていると、ルームメイトの美奈恵さんが言った。
「一葉ちゃん幸せそうに食べるね~」
「そんなに美味しい?」
2年生の寮生、優理さんも私を見て言った。
「今日は殲滅委員の当番だったので、お昼食べ損ねちゃって」
「えぇ~!殲滅委員ってお昼食べる暇も無いの?」
隣に座っていた千恵さんが驚いていた。千恵さんは
優理さんと同じく2年生で、優理さんとルームメイトだった。
「いえ、生徒会長がハエに驚いてカレーうどんひっくり返しちゃって、それが私にかかって、そのカレーを洗ってたら学食が閉まっちゃって」
「それは……大変だったわねぇ……」
「学食はハエが出る事を考えていなくて今日は失敗でした……」
放課後に早乙女部長に報告に行くと、学食はハエ
に注意が必要だと叱られた。
「失敗した割りには落ち込んでないね」
もう1人の2年の先輩の真白さんは、あまり喋らない。だけど肌が白くてとても綺麗な人だった。男に見える私と大違い……。
学食の後はずっと凹んでいた。お腹が空いて力が出ない。助けてアンパ◯マン状態だった。
あの後、保健室に連れて行かれて、生徒会長に得体の知れない塗り薬を塗られた。
「っ!ぃった!」
「我慢しろ」
首筋がヒリヒリする。この薬本当にやけどに効くの?めちゃくちゃ心配なんだけど……
それでも、生徒会長はまるで壊れ物を触るみたいに、そっと薬を塗ってくれた。今日は優しい。あまりに私が凹んでるから気にかけてくれたのかな?
いや、でもそもそもの原因は生徒会長の虫嫌い。
「あの、どうして虫が苦手なんですか?」
そもそも虫への反応が少しでも軽減されればこんな事にはならない。
「嫌いなものは嫌いだ。嫌いなものに理由なんか必要か?」
「何かしら理由はありますよね?姿が気持ち悪いとか、動きが読めないとか」
生徒会長は「じゃあ」と言って理由を言った。
「何を考えているかわからない」
え……?そんなの関係ねぇ!って思うのがヤンキーなのかと思ってた。あ、生徒会長はヤンキーじゃないのか。
「すみません、虫の気持ちなんて考えた事も無かった気がします」
「そうだ……誰も虫ケラの気持ちなんて考えようとは思わない」
「いえ、今度からは虫の気持ちを考えて、いそうな所はちゃんと警戒します!」
生徒会長は一瞬ポカンと呆気にとられた顔をして、その後少し笑った。
「お前……変わってるな」
すると、私のお腹が鳴った。
「あはははははは!腹の虫が鳴いた!」
私はとっさにお腹を抱えた。こ、殺される!!腹の虫を攻撃される……
と、思ったらさすがにそれは無かった。
「お腹の虫は怖がらないんですね」
私の言葉が聞こえているのかいないのか、生徒会長は何やら紙袋を目の前に出して来た。
「お前に腹の虫の殲滅を命じる」
そう言って生徒会長は、紙袋をひっくり返して中身を出した。私の目の前に沢山のパンが出て来た。
「うわ~!購買のパン!!これ、食べてもいいんですか?」
「食え!」
「やった~!ありがとうございます!!」
私は生徒会長の笑顔を見ながら、大好きなコーンとマヨネーズのパンにかぶりついた。
幸せ!!何この幸せ!!
この筑前煮も美味しい!幸せ!!
私が寮のご飯を堪能しながら、生徒会長の話をしていると、みんなが何故か黙った。
「え?どうしたんですか?」
美奈恵さんは大きなため息をついた。
「一葉ちゃんは鈍感よねぇ……」
「そうですか?生徒会長に餌付けされた話ですよ?」
すると、優理さんも言った。
「そもそも、最初の花束とか……それも、完全に気があるからね?」
「えぇ!?」
花束は完全に嫌がらせかと思った……。
「一葉ちゃんは花より団子って事よねぇ」
「そこでいい雰囲気にならないのは一葉がお子様だからなんだろうね」
「お子様!?」
みんな何を勘違いしてるの?私は生徒会長に男として見られてるんだよ?これでいい感じになったら完全にBL!!
すると、真白さんは私のやけどを心配してくれた。
「やけどの方は大丈夫なの?」
「もう全然!」
すぐに冷たい水で洗ったせいか、生徒会長の塗った薬が効いたのか、痛みはだいぶひいてきた。
「何?一葉めちゃくちゃご機嫌じゃない?そんなに生徒会長にパンもらった事が嬉しい?」
「いえ、明日はバドミントン部の活動があるんです!殲滅委員じゃなくて!」
そう、明日は殲滅委員会の当番も無く、初めてのバドミントン部の部活動がある。嬉しくて楽しみで、上機嫌にもなる。
その夜、結局落ちなかったカレーのシミのついたパーカーと生徒会長に借りたパーカーを洗濯した。
生徒会長の笑顔が何だか頭から離れなかった。それに優しさが嬉しかった。女扱いはしてくれないけど、何だかんだ言って生徒会は意外と優しい。いつも優しければいいのに……あとは虫を克服してくれれば……
克服!?そうか!!克服を目指せばいいのか!
そんな安易な事を漠然思いながらぐっすりと眠った。




